「えっ」
「ここは母親の胎内なのだ。」
「だから、つまり、何ですか。」
「つまり、この暗黒星雲を取り巻いている巨大な銀河がこの星の赤ちゃんの母親なのだ。」
「と言うことは、この大きな暗黒星雲でも母体のほんの一部だと言うことなんですね。」艦長が目を丸くして聞いた。
「そういうことだ。我々はすでに母体の中にいるのだ。」
「もしかして、それがピンクの銀河ではないでしょうか。」
「おそらくそうだろう。」博士の声が希望にふくらんで、明るく響いた。
「スケール号の出番ですね。」
「そうだな、まずこの暗黒星雲を抜けよう。それからスケール号を巨大化するのだ。」
「分かりました。」艦長はうなずいた。
スケール号は暗黒星雲の中心を通り過ぎ、さらに奥の方に進んで行った。しばらく進むと、再び同じような空間があって、その中程に赤い渦巻が見えて来た。
「艦長、また星の赤ちゃんが見えます。」ぴょんたが驚いて報告した。
「ここには、こういう場所がたくさんあるはずだ。」博士が言った。
赤い渦巻は奥に進むにつれて、いくつもいくつも現れては消えて行った。まるでここは蜂の巣のように、暗い空間がいくつにも区切られているのだ。暗黒星雲の中は、まさに赤ちゃんのアパートだった。
「まるで星の工場のようでヤすね。」
「工場はよかったね。」博士が笑った。
「それにしても驚きですね。」
「何だかもう、頭の中が一杯になってしまって、これ以上大きなものは入りそうにないでヤす。」
「何を言っているんだもこりん、我々の意識は無限だよ。我々はこれからもっともっと大きくなって行かなくてはならないんだぞ。」博士が笑いながら言った。
「神ひと様がこんなに大きいなんて、本当に頭がいたいだス。」
「ばか、お前は頭を怪我しているんだよ。」ぴょんたが、ぐうすかの頭をポンとたたいた。
「ヒエーッ、痛い。」ぐうすかが頭に手をやって躍り上がった。
「あれっ、包帯だス。」
「ぐうすか、お前、今まで気がついていなかったのでヤすか。」
「一体何があったんだス。」
「お前は眠ったまま頭を打って気を失ったんだ。ぴょんたが治療をしてくれたんだぞ」艦長が言った。
「知らなかっただス。ぴょんた、ありがとうだス。」
「やれやれ、」ぴょんたが肩をすくめて笑った。
ばか話をしているうちに、スケール号はついに暗黒星雲を抜けた。突然視界が開けて満天に星の光が戻って来た。そのこぼれるような星空を背景にして、真っ黒な星雲が空間に穴を空けたように広がっている。
黒いかたまりのふちがぼやけている事で、そのかたまりが雲だということが分かる。たった今抜けて来たばかりの暗黒星雲だ。
「ここがピンクの銀河でしょうか。」艦長は辺りを見回して言った。
所々にピンクの小さなガスのかたまりが見えるものの、その周辺の星の色はピンクには見えなかった。
「我々は光速で飛んでいるうちに、気づかないまま銀河の中に入ってしまったのだ。この星の集団を外から見ればきっとピンクの色に輝いているに違いない。とにかくこの銀河の外に出るのだ。」
「分かりました。」艦長は博士にうなずいた。
「今から全力で銀河の外に出る。」
「ゴロニャーン」
「スケール号、飛びながらゆっくり銀河の大きさにまで、体を膨らませるのだ。」
スケール号は大きくなりながら猛スピードで暗黒星雲を離れ始めた。
スケール号が銀河の大きさになるためには、銀河の外の星のない空間に出なければならない。そうでなければ、スケール号の膨張する体のために銀河自体が壊れてしまうだろう。
しかし、スケール号が今の大きさのまま飛びつづけると、銀河の端まで行くには何万年かかるかもしれない。
そこでスケール号は自分のからだを大きくすることでその時間を短縮しようとしているのだ。
たとえば、ありんこが道路の向こう側に行こうとすると、どれだけ時間がかかるかわからないけれど、ありんこの何億倍も大きなあなただったら、走ってあっという間に渡ってしまうだろう。
スケール号も、そうして銀河を抜けようとしている。けれどもこれは簡単なようでとても危険なことだと艦長は知っていた。
銀河を壊さないように気を付けながら、巨大化しながら、飛んでいく。とても高度な技術が必要なのだ。艦長の顔はきりきりと引き締まっている。すべて艦長の腕にかかっているのだ。
やがてスケール号は、星の子供を生み出している暗黒星雲のはるか彼方に飛び去り、ついに銀河の外に出ることが出来た。
「艦長、見て下さい!」ぴょんたが興奮して叫んだ。
銀河を抜けて、広大な無の空間に出たスケール号の後ろに、空一杯に広がる雄大な銀河が見えたのだ。そしてその銀河はまさにピンク色をしていた。
「おおっ!」博士はそう叫んだままことばが出なかった。
「ピンクの銀河でヤす。」
「すばらしいだス。」
ピンクの銀河は、大小様々な星達がきらきら輝き、その全体がピンクのガスでおおわれたように見えるのだ。
「ついにやって来ましたね。」艦長は博士に言った。
「そうだな。」博士の目にキラリと光るものが見えた。
スケール号はぐんぐんと体を拡大して行き、ついにピンクの銀河と同じ大きさになった。
「こんなきれいなものを見たことないだス。」
「心を奪われそうでヤすな。」
「まるで宝石のようですね。」
みなは放心したように銀河に見とれ、巨大化したスケール号はピンクの銀河と向かい合った。
つづく
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宇宙の小径 2019.7.14
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はやぶさ2
地球から3億キロも離れた
小惑星「リュウグウ」
そこに探査機「はやぶさ2」が
大活躍している
素晴らしい人間の技術
人工クレーターを作り
わずか直径約900メートルの「リュウグウ」に
着陸しして内部の岩石を採収する
想像もつかない
困難を克服して
手の届かないところで
どうやってこんなミッションが
成功していくのか
新聞やテレビで
報道されるたびに
ワクワクしてしまう
人ってすごい
なぜか
希望が膨らむ
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