万座温泉や草津温泉の周辺では、昭和40年代まで白根・石津・吾妻・小串といった鉱山で硫黄が盛んに掘削されていましたが、草津温泉と尻焼温泉のちょうど中間あたりには鉄鉱石を露天掘りしていた群馬鉄山もあり、いまでは草津への観光客を運ぶJR吾妻線も、かつてはそこで採掘された鉄鉱石を運搬しておりました。
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長野原草津口駅(旧長野原駅)から車で応徳温泉や尻焼温泉などへ向かう際、国道145号から292号へ入って間もなく左手に上画像のような赤い鉄橋が目に入ってきますが、これは長野原駅で吾妻線より分岐して旧六合村の太子駅まで伸びていた長野原線(太子線)跡でして、群馬鉄山の鉄鉱石を積載した貨車はこの鉄橋を渡っていました。太子線は1971年に廃止されたものの、このようにして所々に遺構が残されており、現在群馬県では、終着駅であり且つ鉄鉱石の積載基地であった太子駅跡を整備して、現役時代の様子を復元させる計画を立てているそうです。
参考:群馬県「旧国鉄長野原線太子(おおし)駅跡整備の実施について」
太子線同様に群馬鉄山も既に過去帖入りしており、閉山後は鉱山を運営していた日本鋼管(現JFE)によって保養所「奥草津休暇村」として活用されていましたが、2012年に中之条町へ譲渡されて「チャツボミゴケ公園」と改称され、一般の外来客も訪問利用することができるようになりました。チャツボミゴケという不思議な名前は好奇心を大いに駆り立ててくれますが、この「チャツボミゴケ公園」には温泉とコケが作り出す美しい光景が広がっていると聞き、温泉ファンであり且つ鉱山にも関心がある私は、実際にその景色を自分の目で確かめてみることにしました。
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現地へ向かう道中には随所に看板が立っているので、どなたでもカーナビなしで容易にたどり着けるかと思います。公道から敷地内のアプローチに入ると、さすが大企業の元保養所だけあって、美しい並木道が奥へと伸びていました。
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広大な敷地の中心には管理事務所のほか、宿泊用のロッジやキャンプ場などが設けられています。まずは駐車場に車を止めてから、公園事務所(画像右or下)にて入園料を支払います。事務所の職員の方曰く、コケの自生地は更に奥にありますから、ご自身でゲートの鎖を外して、車で奥へ向かってください、とのこと。
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職員の方の指示通りにゲートの鎖を外して、事務所から更に300メートルほどダート道を走ると、広い駐車場に突き当たりました。そこで車を止め、歩いて目的地へと向かいます。歩道は工事用車両が走行するため幅員は広く、登り坂ですが比較的歩きやすい状況でした。道の左側を流れる川からはモクモクと白い湯気が上がっていますね。
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登り坂の途中には木板で囲われた設備があり、何かと思って裏側に回りこんでみたら、そこには「源泉施設」が掲示されていました。この設備は奥草津温泉1号井という温泉井戸であり、JFEの関連会社が管理しているようです(画像一部加工済み)。この温泉ってどこで使われているのかな…。
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源泉井戸から先は坂道の勾配がきつくなり、左側の川も湯の滝を為すようになってきました。
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駐車場から5分ほど歩いたところで、「穴地獄」と書かれた看板の前にたどり着きました。ここからは歩行者専用の木道に入ります。
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木道に入ってまもなくすると俄然視界が開け、あちらこちらから白い湯気を立ち上らせながら、一面にモスグリーンの苔が広がる神秘的な光景が目に入ってきました。ここが関東最大のチャツボミゴケ自生地である「穴地獄」であります。ここに動物が落ちると抜け出せずにそのまま死に至ってしまうことから、その名がついたんだとか。
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チャツボミゴケは強酸性の水が流れるところにしか発生しない不思議な苔なんだそうでして、これだけ大規模な群生地は全国でも極めて稀有なんだとか。苔の群生は緻密に生えながら辺りの岩を覆うようにして広がっており、ベロア生地のように外光の反射によって色を変える実にミステリアスな美しさです。その綺麗な色合いに見惚れながらも、鉄ちゃんの血が流れる私は、ついつい阪急電車のシートを連想してしまいました。
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木道は穴地獄の周囲をぐるっと一周しており、その最奥部から振り返ると、穴地獄から立ち上る湯気越し遠方の稜線が望めました。こんな自然美と眺望に恵まれたところを、数年前までは企業が保養所にして部外者の立ち入りができなかったのですから、零細企業に勤める私にとっては羨ましいやら悔しいやら…。
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先程から湯気という語句を多用しておりますが、この穴地獄では酸性の温泉が湧出しており、それによってチャツボミゴケが生きていけるわけですね。穴地獄のあちこちから湧出する温泉は河床を真っ白に染めており、辺りにイオウ臭を漂わせていますので、硫黄を含有していることがわかります。木道の上からお湯に温度計を突っ込んでみたところ29.4℃と計測されましたので、温泉法上から行っても立派な温泉に間違いありません。なお環境を守るために穴地獄内は木道以外立入禁止であり、ここで野湯するわけにはいきませんが、上述のようにすぐ下流で立派な湯の滝を為すほど湧出量が非常に多く、この光景を見て野湯にチャレンジしてみたくなる温泉ファンも少なくないでしょう。
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チャツボミゴケを守るため野湯なんて行為は許されませんが、実は公園内に共同浴場があるんですね。その場所は公園事務所の並びです。野湯ができない鬱憤はここで晴らしましょう。とは言いながら、常時開放されているわけではなく、限られたシーズンの週末のみ利用可能となっているそうでして、私が訪れた日には残念ながら利用不可でしたので、ちょこっと見学させていただくことにしました。
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男女別の浴室は、床や腰部など下半分(水回り)が濃いグレーのタイル、壁など上半分がホワイトの塗装と、モノトーンながら濃淡をはっきりと分けて視覚的な安定感を生み出しています。室内には浴槽一つの他、シャワー付き混合水栓が3基設置されています。
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浴槽の槽内には白いタイルが、縁には黒い御影石が用いられています。入浴客は来ないにもかかわらず、壁から突き出たパイプより温泉が絶えず浴槽へ注がれ、勿体無いことに縁から溢れて捨てられていました。こちらで用いられているお湯は、上述の源泉施設、つまり奥草津1号井から引いているものなんですね。見た目は無色透明で、味・匂いともにかなり薄く、芒硝っぽい味や硬水のような口当たりがほんのり感じられるばかりで、かなりアッサリとしたものでした。穴地獄のお湯は硫黄感がはっきりしていましたから、それとは全く異なる泉質のお湯なんですね。なお湯使いは加水加温循環消毒が一切ない完全掛け流しです。
残念ながら今回は入浴できませんでしたが、噂によればこちらには露天風呂もあるらしいので、日を改めて再訪し、内湯・露天の双方についてリベンジを果たすつもりでおります。
ナトリウム・カルシウム-塩化物・硫酸塩温泉 60.3℃ pH8.3 蒸発残留物1.11g/kg 成分総計1.09g/kg
Na+:239.0mg, Ca++:118.0mg,
Cl-:290.0mg, SO4--:372.0mg, CO3--:9.01mg,
H2SiO3:53.10mg, H2S:0.0mg,
加水加温循環消毒なし
群馬県吾妻郡中之条町大字入山13-3
0279-95-5111
ホームページ
入園:9:00~15:30まで 冬季休業(2014年度は4月中旬オープン予定)
保全協力金として1人300円
入浴(時間や料金)に関しては施設に要問い合わせ
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長野原草津口駅(旧長野原駅)から車で応徳温泉や尻焼温泉などへ向かう際、国道145号から292号へ入って間もなく左手に上画像のような赤い鉄橋が目に入ってきますが、これは長野原駅で吾妻線より分岐して旧六合村の太子駅まで伸びていた長野原線(太子線)跡でして、群馬鉄山の鉄鉱石を積載した貨車はこの鉄橋を渡っていました。太子線は1971年に廃止されたものの、このようにして所々に遺構が残されており、現在群馬県では、終着駅であり且つ鉄鉱石の積載基地であった太子駅跡を整備して、現役時代の様子を復元させる計画を立てているそうです。
参考:群馬県「旧国鉄長野原線太子(おおし)駅跡整備の実施について」
太子線同様に群馬鉄山も既に過去帖入りしており、閉山後は鉱山を運営していた日本鋼管(現JFE)によって保養所「奥草津休暇村」として活用されていましたが、2012年に中之条町へ譲渡されて「チャツボミゴケ公園」と改称され、一般の外来客も訪問利用することができるようになりました。チャツボミゴケという不思議な名前は好奇心を大いに駆り立ててくれますが、この「チャツボミゴケ公園」には温泉とコケが作り出す美しい光景が広がっていると聞き、温泉ファンであり且つ鉱山にも関心がある私は、実際にその景色を自分の目で確かめてみることにしました。
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現地へ向かう道中には随所に看板が立っているので、どなたでもカーナビなしで容易にたどり着けるかと思います。公道から敷地内のアプローチに入ると、さすが大企業の元保養所だけあって、美しい並木道が奥へと伸びていました。
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広大な敷地の中心には管理事務所のほか、宿泊用のロッジやキャンプ場などが設けられています。まずは駐車場に車を止めてから、公園事務所(画像右or下)にて入園料を支払います。事務所の職員の方曰く、コケの自生地は更に奥にありますから、ご自身でゲートの鎖を外して、車で奥へ向かってください、とのこと。
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職員の方の指示通りにゲートの鎖を外して、事務所から更に300メートルほどダート道を走ると、広い駐車場に突き当たりました。そこで車を止め、歩いて目的地へと向かいます。歩道は工事用車両が走行するため幅員は広く、登り坂ですが比較的歩きやすい状況でした。道の左側を流れる川からはモクモクと白い湯気が上がっていますね。
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登り坂の途中には木板で囲われた設備があり、何かと思って裏側に回りこんでみたら、そこには「源泉施設」が掲示されていました。この設備は奥草津温泉1号井という温泉井戸であり、JFEの関連会社が管理しているようです(画像一部加工済み)。この温泉ってどこで使われているのかな…。
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源泉井戸から先は坂道の勾配がきつくなり、左側の川も湯の滝を為すようになってきました。
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木道に入ってまもなくすると俄然視界が開け、あちらこちらから白い湯気を立ち上らせながら、一面にモスグリーンの苔が広がる神秘的な光景が目に入ってきました。ここが関東最大のチャツボミゴケ自生地である「穴地獄」であります。ここに動物が落ちると抜け出せずにそのまま死に至ってしまうことから、その名がついたんだとか。
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チャツボミゴケは強酸性の水が流れるところにしか発生しない不思議な苔なんだそうでして、これだけ大規模な群生地は全国でも極めて稀有なんだとか。苔の群生は緻密に生えながら辺りの岩を覆うようにして広がっており、ベロア生地のように外光の反射によって色を変える実にミステリアスな美しさです。その綺麗な色合いに見惚れながらも、鉄ちゃんの血が流れる私は、ついつい阪急電車のシートを連想してしまいました。
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木道は穴地獄の周囲をぐるっと一周しており、その最奥部から振り返ると、穴地獄から立ち上る湯気越し遠方の稜線が望めました。こんな自然美と眺望に恵まれたところを、数年前までは企業が保養所にして部外者の立ち入りができなかったのですから、零細企業に勤める私にとっては羨ましいやら悔しいやら…。
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先程から湯気という語句を多用しておりますが、この穴地獄では酸性の温泉が湧出しており、それによってチャツボミゴケが生きていけるわけですね。穴地獄のあちこちから湧出する温泉は河床を真っ白に染めており、辺りにイオウ臭を漂わせていますので、硫黄を含有していることがわかります。木道の上からお湯に温度計を突っ込んでみたところ29.4℃と計測されましたので、温泉法上から行っても立派な温泉に間違いありません。なお環境を守るために穴地獄内は木道以外立入禁止であり、ここで野湯するわけにはいきませんが、上述のようにすぐ下流で立派な湯の滝を為すほど湧出量が非常に多く、この光景を見て野湯にチャレンジしてみたくなる温泉ファンも少なくないでしょう。
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チャツボミゴケを守るため野湯なんて行為は許されませんが、実は公園内に共同浴場があるんですね。その場所は公園事務所の並びです。野湯ができない鬱憤はここで晴らしましょう。とは言いながら、常時開放されているわけではなく、限られたシーズンの週末のみ利用可能となっているそうでして、私が訪れた日には残念ながら利用不可でしたので、ちょこっと見学させていただくことにしました。
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男女別の浴室は、床や腰部など下半分(水回り)が濃いグレーのタイル、壁など上半分がホワイトの塗装と、モノトーンながら濃淡をはっきりと分けて視覚的な安定感を生み出しています。室内には浴槽一つの他、シャワー付き混合水栓が3基設置されています。
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浴槽の槽内には白いタイルが、縁には黒い御影石が用いられています。入浴客は来ないにもかかわらず、壁から突き出たパイプより温泉が絶えず浴槽へ注がれ、勿体無いことに縁から溢れて捨てられていました。こちらで用いられているお湯は、上述の源泉施設、つまり奥草津1号井から引いているものなんですね。見た目は無色透明で、味・匂いともにかなり薄く、芒硝っぽい味や硬水のような口当たりがほんのり感じられるばかりで、かなりアッサリとしたものでした。穴地獄のお湯は硫黄感がはっきりしていましたから、それとは全く異なる泉質のお湯なんですね。なお湯使いは加水加温循環消毒が一切ない完全掛け流しです。
残念ながら今回は入浴できませんでしたが、噂によればこちらには露天風呂もあるらしいので、日を改めて再訪し、内湯・露天の双方についてリベンジを果たすつもりでおります。
ナトリウム・カルシウム-塩化物・硫酸塩温泉 60.3℃ pH8.3 蒸発残留物1.11g/kg 成分総計1.09g/kg
Na+:239.0mg, Ca++:118.0mg,
Cl-:290.0mg, SO4--:372.0mg, CO3--:9.01mg,
H2SiO3:53.10mg, H2S:0.0mg,
加水加温循環消毒なし
群馬県吾妻郡中之条町大字入山13-3
0279-95-5111
ホームページ
入園:9:00~15:30まで 冬季休業(2014年度は4月中旬オープン予定)
保全協力金として1人300円
入浴(時間や料金)に関しては施設に要問い合わせ