

一口で勝浦温泉といっても、「ホテル中の島」や「ホテル浦島」のような白濁湯もあれば、前回取り上げた「はまゆ」のように濁らないけど硫黄感が強いものもあり、そして硫黄っ気が全くない食塩泉もあったりして、その泉質は実に様々なのですが、今回取り上げる勝浦温泉の湯は、硫黄ッ気が全くないタイプの源泉を自家所有している宿泊施設「シーハウス熊野灘」です。マグロの水揚げで有名な勝浦漁港の目の前に位置しており、日帰り入浴の受け入れも積極的ですので、今回は日帰り入浴で利用させていただきました。

路地を挟んだ隣の駐車場には源泉小屋がありました。今から入るお湯はここから引かれているんですね。


訪問時の館内にはスタッフが誰もおらず、フロントで何度も声をかけたのですが全然応答が無かったので、カウンターの上に湯銭を置いて中へと入らせてもらい、ロビーの左手に進んでお風呂へ向かいました。場所柄、漁業関係者の利用が多いのか、館内ではいかにもそれらしい風情を漂わせるお客さんの姿が見られます。脱衣室は一見すると広くて明るく快適のようなのですが、そうした荒々しい男達が汗を流した後だったのか、室内はタイルなどが散乱していました。私の訪問したタイミングが悪かったのでしょうけど、お宿の方は散らかしっぱなしにされるお風呂をその都度片付けなきゃいけないんですから大変ですね。


壁紙の「漁師さん 勝浦入港ありがとうございます」という文言が、この土地およびこの施設の特徴を端的に言い表していますね。またその隣にはインドネシア語で書かれた注意書きも掲示されていました。現在の水産業界では外国人漁船員が貴重な労働力となっており、研修名目で東南アジアからたくさんの人材を受け入れているわけですが、この勝浦でも遠く離れた東南アジアからやってきて漁業に携わる方々が生活しており、風呂上がりに勝浦漁港の界隈を散歩していたら、漁港前のバスターミナルにあるWi-Fiのフリースポットでは、故郷と連絡をとりあうべく、モバイルツールを片手に夜な夜な彼らが集まってきていました。彼らは異国の地で異国の風習に従い異国の湯で一日の汗を洗い落としているんですね。島崎藤村の「椰子の実」を想わずにはいられません。


実用的な造りの浴室はベージュやオフホワイト系の色合いで統一されており、温泉風情というより合宿場の大浴場のような雰囲気です。洗い場にはシャワー付き混合水栓が6基並んでいます。


浴室の手前側にはこのようなデッドスペースがあり、入浴客が使えるような設備は何にも無いのですが、その代わりに掃除用具や消毒用薬剤が置きっぱなしになっていました。


浴槽はタイル貼りで16~7人は一緒に入れそうなほど余裕のある大きさです。その右隅に取り付けられている湯口には、青いネットが被せられていました。源泉温度が40℃に満たないため、加温されたお湯が供給されているのですが、私が訪問した時の投入量はやや絞り気味でした(窓からは灯油の臭いがお風呂へ流れこんできたのですが、これはボイラー用なのかな?)。それでも縁からは静々とお湯が溢れ出ており、私が湯船に浸かると勢い良くオーバーフローしました。槽内では循環されているような気配がありませんので、放流式の湯使いかと思われます。
お湯はほぼ無色透明ですが、少々貝汁濁りを呈しているようにも見えます(漁師さん達が一斉に上がった後だったので、お湯が鈍っていただけかも)。湯口のお湯を掬ってテイスティングしてみますと、甘塩味と少々のニガリ味、えぐみ、そして硬水によくあるような石灰っぽい味が感じられ、軟式テニスボールのような劣化した硫黄の存在を臭わせる風味も僅かながら確認できました。勝浦温泉のお湯といえば硫黄感を伴うイメージがありますが、こちらのお湯の分析表を見る限りでは総硫黄がゼロであり、周辺のお湯と比べると特異な存在でありますが、私が感じた僅かな硫黄感は「俺だって勝浦のお湯なんだよ」と懸命に主張する源泉のささやかな訴えだったのかもしれません。
今回はお湯や浴室の状況が宜しくないタイミングで伺ってしまったのですが、次回訪問する機会があれば、混雑する前の時間帯を狙ってみたいものです。
去来潟温泉
ナトリウム・カルシウム-塩化物温泉 36.7℃ pH7.6 50L/min(動力揚湯) 溶存物質5.23g/kg 成分総計5.24g/kg
Na+:1285mg(60.96mval%), Mg++:136.7mg(12.27mval%), Ca++:473.8mg(25.78mval%),
Cl-:2837mg(89.98mval%), Br-:12.6mg, SO4--:383.5mg(8.97mval%),
H2SiO3:23.5mg,
JR紀勢本線・紀伊勝浦駅より徒歩5分(500m)
和歌山県東牟婁郡那智勝浦町築地8-5-5 地図
0735-52-6677
日帰り入浴7:00~21:00
300円
ロッカー・シャンプー類・ドライヤーあり
私の好み:★★