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農閑期の湯治文化がある東日本や、温泉と庶民生活が密接に結びついている九州と違って、温泉での宿泊をハレの時間と捉える傾向にある関西エリアでは、安く泊まれたり一人客を(割増なしで)受け入れてくれるような温泉宿が少ないのですが、さすが関西屈指の温泉地である勝浦温泉は受け入れるパイが大きいからか、一人で安く泊まれるお宿が何軒かあり、今回はそんなお宿の一つである海岸沿いの「海のホテル 一の滝」で一晩お世話になることにしました。こちらは以前拙ブログで取り上げた「きよもん湯」と同経営であり、素泊まり専門のお宿です。
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「海のホテル」と称するだけあって、ラウンジからは海が一望できました。気持ち良いですね。
●客室
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この晩あてがわれた客室は10畳の和室です。備品類はひと通り揃っており、隅々まで綺麗に清掃されているので、気持ちよく一晩過ごせました。
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客室の窓を開けると、すぐ目の前に漁船が舫われており、その向こうには弁天島が浮かんでいました。お宿の全客室がこのように海に面しているんだそうです。朝、障子を開けると、この景色が飛び込んでくるんですから、いつもは寝起きの悪い私も、この時の目覚めはめちゃくちゃ爽快でした。
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海を臨む広縁には洗面台が設けられているのですが、お湯の蛇口を開けると温泉が出てくるのです。また部屋に付属しているトイレにも温泉が用いられていました。自家源泉を所有しているんだそうですが、お風呂以外にも温泉を使っちゃうんですから、それだけ湯量が豊富なんですね。なんて贅沢なんでしょう。でもお湯には硫黄が含まれているわけで、配管は腐食しやすくなりますから、余計なお世話ですが、水回りのメンテナンスにはご苦労なさっているのではないでしょうか(客室に置かれているチラシには、温泉により金具類が黒ずんでいる旨が説明されています)。
●温泉
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建物の中央に位置するロビーから、館内の西側へと伸びるスロープを上がって浴室へ向かいます。浴室の手前には喫煙室兼休憩室があり、休憩室には畳の小上がりやマッサージチェアーが設置されていました。
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建物が古いために脱衣室も老朽感は否めませんが、広々していてゆとりがあり、窓外に広がる海を眺めながら着替えたり、湯上がりに窓を開けて潮風を受けながら涼むのも、なかなか乙なものです。この脱衣室には浴室から流れこんでくる温泉由来のタマゴ臭がふんわり漂っていました。硫黄感の強いお湯なのかな。
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お風呂は内湯のみで露天風呂はありません。海に面してカーブを描いている扇形の浴室には、窓に沿う形で、柱を挟んで大小2つの浴槽が据えられており、時間によって2つの浴槽の温度が入れ替わる設定になっています(といっても私が利用した時には、全時間帯において温度の入れ替わりはありませんでしたが…)。もちろん浴室からも海を一望できました。内湯とはいえ、そこそこ開放的な環境でしたよ。
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洗い場は浴室入口を挟んで二手に分かれており、入口に向かって右側にはシャワーが4基並んでいます。シャワーのお湯は100%源泉で硫黄を含んでいますから、水栓金具は見事なまでに黒く硫化していました。
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もう一方の洗い場には押しバネ式の水栓が2基設置されており、水道の水栓は無く、温泉の水栓のみです。こちらの水栓金具も硫黄でしっかり黒ずんでますね。温泉ファンとしては、この黒ずみを目にすると嬉しくなってしまいます。
浴室の広さの割には洗い場の数が少ないように思われるのですが、お宿側も私の同じ認識を持っているのか、「シャワーが他の客で埋まっているときには桶で直接湯船のお湯を汲んでちょうだい」と言わんばかりに、浴槽の傍には腰掛けと桶が等間隔にセッティングされていました。
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2つに分かれている浴槽のうち、手前側の浴槽は小さめで、キャパは4~5人程度でしょうか。湯口からどんどんお湯が投入されて、縁の切掛けからザブザブと大量に捨てられており、湯船には35℃前後のぬるいお湯が張られていました。なんとも贅沢で豪快な湯使いです。
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一方、奥側の浴槽は手前側の1.5倍ほどの容量を擁し、こちらも絶え間なくお湯の投入と排出が行われていましたが、ぬるかった手前側とは違い、入浴に適した42~3℃に加温されていました。こちらのお宿が所有する源泉は2本あり、いずれも40℃未満ですから、手前側の小さな浴槽は源泉そのまんま、奥側の大きな浴槽では加温された源泉が注がれていたのでしょう。ぬる湯とあつ湯の両方を行ったり来たりしながら、タマゴ臭とツルスベ浴感が明瞭なお湯を堪能させてもらいました。なお両浴槽とも泡付きは確認できませんでした。
湯船に張られたお湯は両方とも無色澄明で、手前側の湯口のお湯からは焦げたような苦味や渋みを伴った茹でタマゴ的な味と匂いが感じられ、その苦味は喉の粘膜に引っかかり、ちょっと荒削りな印象を受けました。一方、奥側の湯口のお湯も、硫黄感はしっかり出ており苦味もあるのですが、手前側のお湯よりは幾分マイルドで品が良いような感じでした。2本の源泉をミックスしているのか、あるいは浴槽によって使い分けているのか等、どう使い分けているのかわかりませんが、いずれにせよ2つの湯口では上述のような違いが見られました。
脱衣室まで及ぶほどタマゴ臭が強いので、入浴中はてっきり硫黄泉かと頭ごなしに決めつけていたのですが、分析表を確認したところ、2つの源泉とも総硫黄は2mgに達しておらず、単なるアルカリ単純泉であることは意外です。でも内湯というクローズドな空間で大量のお湯が掛け流されていましたから、タマゴ臭がこもりやすくなり、数値以上のタマゴ感が得られたのかもしれません。
素泊まり専門ですから料金は比較的安く、またフロントの方は食事の場所など観光情報を色々と教えてくれますし、建物は古いながらも手入れが行き届いていますから、宿としての利便性は良好です。しかもお風呂では惜しげも無く自家源泉がドバドバ掛け流されているのですから、お湯にこだわる旅行者にも満足できるお宿かと思います。
一の滝
アルカリ単純温泉 37.8℃ pH8.8 151L/min(動力揚湯) 溶存物質0.566g/kg 成分総計0.566g/kg
Na+:150.0mg(71.89mval%), Ca++:47.4mg(26.13mval%),
Cl-:289.9mg(88.05mval%), HS-:1.6mg, SO4--:17.0mg(3.77mval%), HCO3-:20.3mg(3.55mval%),
H2SiO3:26.0mg, H2S:0.1mg未満
一の滝2号
アルカリ単純温泉 35.8℃ pH8.9 168L/min(動力揚湯) 溶存物質0.467g/kg 成分総計0.467g/kg
Na+:128.0mg(72.34mval%), Ca++:41.0mg(26.62mval%),
Cl-:232.2mg(88.39mval%), HS-:1.4mg, SO4--:7.3mg(2.02mval%), HCO3-:18.3mg(4.05mval%),
H2SiO3:27.3mg, H2S:0.1mg未満
JR紀勢本線・紀伊勝浦駅より徒歩12分(900m)
和歌山県東牟婁郡那智勝浦町勝浦752 地図
0735-52-0080
ホームページ
日帰り入浴15:00~23:30
500円
ロッカー・シャンプー類・ドライヤーあり
私の好み:★★+0.5