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紀伊半島の南部は有名無名を問わず温泉が多く、湯めぐりを趣味とする私のような人間にとっては垂涎の地でありますが、拙ブログで最近何回か取り上げていますように、湧出時の温度が低くて浴用には不向きな源泉も相当数あり、一部の好事家以外には見向きもされず、源泉管理者によって洗濯等の生活用水として使われる以外は、それこそ湯水の如くどんどん捨てられております。日本の温泉は人様に浸かってもらってこそ価値があるわけで、浴槽に溜められること無くドブ同然に排水されてしまう温泉たちは、さぞかし轗軻不遇な我が身を恨んでいるに違いありません。そこで今回も巷間の耳目を決して集めることのない源泉に一条の光を当てて、一瞬だけでもお湯に輝きをもたらし、普段から捨てられるばかりの悲しき宿命を託っているであろう源泉に臥薪嘗胆を図ってもらいます。
すっかり前置きが冗長になってしまいましたが、今回の舞台は和歌山県の古座川町です。風光明媚な古座川に沿って和歌山県道38号線を遡り、月野瀬温泉や牡丹岩の方面に向かってゆくと、宇津木という集落を通過するのですが、その集落に建つ1軒の民家の軒先では・・・
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こんな感じで道路に面した水場があり、コンクリで固定されたステンレスの流し台に塩ビ管から澄み切った水が絶え間なく落とされているのですが、水場にしては配管の背後に建つ背の低い小屋の存在が気になりますし、しかもその小屋からはブーンと唸る機械の駆動音が聞こえてきます。
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そこで吐出口の温度を計測したところ、33.0℃という数字が表示されました。言わずもがな立派な温泉であります。小屋から響いていた機械音はポンプのものでしょう。無色透明のお湯を手にしてテイスティングしてみますと、明瞭なタマゴ臭とタマゴ味、そしてアルカリ単純泉的な微収斂が感じられ、腕に当てて撫でてみるとツルスベの滑らかな感触が得られました。すぐ先には月野瀬温泉がありますので、おそらく同じ系統のお湯(湯脈)なんだと推測されます。夏など気温の高いシーズンに、このお湯を湯船に溜めて浸かったら、さぞ爽快でしょうね。尤も場所が場所だけに、今回は浴びるような行為は控え、見学だけに留めさせていただきました。
●(おまけ)月野瀬温泉 某湯小屋の現状
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宇津木の垂れ流し湯から県道を更に1キロ程度奥へ進むと、拙ブログの初期に取り上げたことのある月野瀬温泉の某入浴施設にたどり着きます。ここは残念ながら数年前に閉鎖されてしまい、今では入浴することができません。あくまで私の勝手な推測ですが、保健所がイチャモンをつけてきたので閉鎖に追い込まれたのでしょう。
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私の推測を裏付けるように、扉には「温泉使用許可を得ていないため他人の入浴ができません」と張り紙が掲示されていました。とはいえ他人は無理でも、自家使用なら大丈夫なんでしょうね。
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湯小屋から側溝へ今でもお湯がしっかり流下しており、側溝の河床では白い湯の華がユラユラしていました。今でも源泉は健在のようです。元々自家用であった湯小屋を好意で外来客に開放したら、管轄官庁から目をつけられてしまい、やむを得ず元通り自家専用に戻した、ということなのでしょうから、外来者が使えない状態こそ本来の姿であるとも言えそうです。
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