今回から熊本県阿蘇地方の内牧温泉を連続して取り上げてまいります。余多の温泉浴場を擁する当地には10軒近い公衆浴場も存在しており、「町湯」と称して観光パンフレットなどでも積極的に紹介しています。今回はそんな「町湯」の一つである「宝湯」にスポットライトを当ててみます。
現地へ向かうに際し、スマホ等のナビゲーション機能でこちらの施設を電話番号や住所などで検索してみますと、温泉ではなく「がね政」という割烹料理店が表示されてしまうのですが、それもそのはず、この「宝湯」はその割烹料理屋さんに付帯している、一風変わった「町湯」なのであります。
表通り側の外観はこんな感じで、看板には「がね政」の屋号が大きく記されていますが、同じ場所に温泉マークが描かれていますし、その下には「立ち寄り温泉」の文字など、ここが外来利用も可能な入浴施設であることをアピールする表示類もありますので、この看板さえ見逃さなければ、迷わず辿り着けるかと思います。
表通りの方はどちらかと言えば建物の裏手のようでして、佇まいから察するに、路地に面するこちら側が正面入口のようです。どちらからでも玄関へ行けます。
割烹料理屋さんの屋号の下に、申し訳程度に「宝湯」の名称が付されていますね。さてお邪魔しましょうか・・・んん? 看板の下には「本日休業」の非情な4文字が出ているではありませんか。やんぬるかな。そう諦めかけつつ、ちょっと気持ちを落ち着かせてその右側に目をやると、「温泉は営業しています」と掲示されていたのでひと安心。割烹料理屋さんの定休日でも、お風呂だけは営業しているんですね。
館内に入ってお店の方へ進み、声をかけて入浴をお願いしますと、とても明るい女将さんが丁寧に対応してくださり、貸タオルを1枚手渡してくれた他、「そこから好きなモノを持っていってください」と、棚に並んでいるシャンプ類が入った籠を指差しました。こちらでは、浴室にシャンプー類を備え付けていない代わり、受付時にセットで貸し出してくれるんですね。300円という手頃な料金であるにもかかわらず、追加料金無しでタオルを貸してくれるとは、実にありがたいサービスです。
いかにも料亭らしい館内を通り抜けて、浴室棟へ向かいます。玄関には有田焼と思しき大きな壺が飾られているのですが、さぞかし高価なんでしょうね。
脱衣室は和風な木造で、窓からは池のような趣きの露天風呂を擁する庭園が見下ろせます。ロッカーには、まるで玄関ドアに取り付けるような頑丈なタイプの錠前が取り付けられていました。
料亭の趣きに合った木材と石材を組み合わせた和風な内装の浴室。脱衣室からステップを数段下ってゆきます。窓に面して浴槽が一つ設けられており、照明を点けなくても十分に明るい室内環境が保たれていました。洗い場にカランは無いため、掛け湯するには桶で湯船から直接お湯を汲むことになります。なお壁に取り付けられているハンドレールには、何枚かのナイロンタオルがぶら下がっており、おそらく入浴客のために用意されているのかと思われますが、私個人の感覚として、誰が垢を擦ったかわからないようなタオルを使う気にはなれませんので、一切ノータッチです。
浴槽は4~5人サイズの石板貼りで、お湯には金気が含まれているため、温泉成分の付着により全体的に赤錆色に染まっており、お湯自体もほぼ透明ながら、若干山吹色を帯びているように見えます。後述するような湯口からの大量供給を受けて、浴槽からは惜しげも無くザブザブとお湯が溢れ出ており、このオーバーフローの影響で、床に敷かれている石材も浴槽と同じく赤茶色に染まっていました。
石臼のような湯口から温泉がドバドバ大量に注がれています。室内にはお湯が浴槽に勢い良く落ちてゆく音が轟いており、その音響は脱衣室にまで届いているほどです。湯口における温度は41~2℃で、投入量が多くて槽内のお湯も素早く入れ替わるためか、湯口と浴槽では温度差が殆ど無く、湯船の鮮度感は実に良好です。「飲泉できます」とのことですので、実際に湯口のお湯を手に受けて飲んでみますと、見た目を裏切らない鉄錆の味と匂いを強く有している他、非鉄系の新鮮金気がしっかり感じられ、そして微かな塩味やカルシウム的な硬い感じ、そして芒硝的感覚も伝わってきました。
内湯の窓サッシを開けると、脱衣室の窓から見下ろせた庭園風の露天風呂へつながります。市街地に立地しているため、周囲は目隠し塀や植栽によって囲まれており、その上、露天風呂を形作る岩がかなりゴツいため、広さの割にお風呂のキャパは結構小さく、閉塞感は否めません。でもわずか300円で利用できるのですから、贅沢を言っちゃいけませんね。
内湯は適温でしたが、露天風呂は40℃あるかないかのぬるい湯加減。内湯からのお湯を受けている他、上画像のようなお湯の投入流路があるのですが、もしかしたらこの流路のお湯って、女湯から流れ出ているものかな? それでも湯尻からは、まるで川のように大量排湯されていました。
限られたスペースに庭園と露天風呂を詰め込んでいるため、露天風呂には空間的な余裕がなく、お湯から上がって一休みできるような場所もありません。「宝湯」は内湯が素晴らしいので、露天はあくまでオマケ程度で利用したら宜しいかと思います。
大量掛け流しのお湯を銭湯料金で利用でき、しかもタオルまで無料で貸してくれるのですから、本当にありがたい施設です。おすすめ。
芒硝泉
分析表確認できず
JR豊肥本線・阿蘇駅より産交バスの内牧温泉方面行で「あそ☆ビバ前」下車、徒歩2分(200m)
熊本県阿蘇市内牧186-1 地図
0967-32-1563
11:00~20:00
300円
ロッカー・シャンプー類・ドライヤーあり
私の好み:★★★