長湯温泉の象徴的存在である川原の露天風呂「ガニ湯」は、温泉に限定した書籍やネット情報のみならず、各種ガイドブックや観光パンフレットでも紹介されており、当地を訪れる観光客の多くが見学にやってくるのですが、あまりにあけっぴろげで、川岸を行き交う通行人から丸見えであるロケーションゆえ、実際に目にして見るだけにとどめて踵を返す方が殆どであり、羞恥心よりも入浴欲求が勝る温泉ファンのような人しか利用できない、ハートが試されるお風呂であります。
往来の少ない朝9時前に行けば、みっともない裸体を公衆の面前に晒さず済むかと考え、宿をチェックアウトした直後にこちらへ向かったのですが、ちょうどその時は、ガニ湯を管理なさっている方が、湯船を空にしてケルヒャーの高圧洗浄機で槽内を清掃している真っ最中だったので、他の浴場を2軒ほど巡った後、改めて10時過ぎにガニ湯へ向かうことにしました。
既に清掃は終わっていましたが、道路から見下ろす限り、まだお湯は半分くらいしか溜まっていないようです。
目の前の食堂が建立したと思しきスッポン供養碑の脇から、階段を下りて川原へ向かいます。
小さな沢を跨ぐ橋の下の橋台には小さな棚が括り付けられており、ここで着替えを済ませます。露天風呂のあけっぴろげな環境もさることながら、いくら橋の下とはいえ、目隠しのない状況で着替えなきゃいけないということも、結構な心理的ハードルになっているような気もします。いや、それこそが「ガニ湯」の魅力だったりするのですよね。しかも、ちゃんと公衆浴場許可を得ているところが立派です。
芹川の川原に設けられた、ソラマメみたいな形状の岩造りの露天風呂。
上を向いたホースからボコッボコッと音を立てながらお湯が吐出されています。湯船は緑色を帯びた明るいカナリアイエローに濁っており、長湯のお湯らしく、槽内の湯面には庇のような析出が形成されていました。
清掃からまだ1時間ほどしか経っていないため、湯船は完全に満たされていませんが、人が入れば嵩が増えて、何とかなりそうな状態です。しかもまだこのお湯には誰も入っていません。今こそ「ガニ湯」の一番風呂に入れる好機だ!!
ということで、橋の下に戻って脱衣し、一応タオルで前を隠しながら露天風呂へ向かい、掛け湯してからドボンと浸かってみました。ふぅーーっ、いい湯だなぁ。
開放的すぎる環境ですが、お湯の濁り方が強いので、一旦湯船に浸かってしまえば、恥ずかしい部分は濁りに隠れて、外から見られることは無いかと思います。ホースから出てくるお湯をテイスティングしてみますと、強い土気味とマイルドな金気味、ほろ苦み、そして明瞭な炭酸味が感じられました。湯中における肌への泡付きこそ見られないものの、分析表によれば遊離炭酸ガスは953.2mgもあるそうですから、炭酸味が強いのは当然なのでしょう。
もちろんお湯は完全掛け流し。湯船では40℃くらいなので、体への負担も少なく、温泉地の名前のようにいつまでも長湯でき、実際に私はここで1時間も浸かり続けてしまいました。その間に、川沿いの道を行き交う観光客から何度もカメラを向けられたので、その都度ピースサインを返して「良いお湯ですから、いかがですか」と皆さんをお風呂へお誘いしたのですが、やっぱりこのロケーションで裸になるのは難しいのでしょうか、どなたも信州地獄谷の温泉猿を見るような感じで、その場を立ち去ってしまい、結局この「ガニ湯」を終始独り占めしてしまったのでした。
なお上画像は、入浴中にやってきた地元観光関係者の方に撮っていただいたものです。その方々曰く、今度新しく観光パンフレットを作成するのですが、ガニ湯の写真がほしいので、入浴シーンを撮っても良いでしょうか、とのことでしたから、「私で良ければどうぞどうぞ」と快諾し、上画像と同じように「ガニ湯」に入る私の後ろ姿が撮影されました。「もう少し斜めを向いて」「うん、いいですね」「もう一丁いきましょう」なんてカメラマンさんの言葉を受けると、なぜか気分が高揚して、撮られていることに快感を覚える自分がいることに気付きました。ささやかな撮影体験を通じて、自己愛の強いモデルさんの気持ちが少し理解できたように独り合点したのですが、でもその後、その写真は本当にパンフレット等に採用されたか否かは不明です。醜いオッサンの入浴姿なんてちっとも見栄えがしないから、ボツになっていたりして…。
私が出る頃にはすっかりお湯張りも済んでいました。雨上がりのこの日、空気が澄んで気持ち良い青空が広がり、まさに露天風呂日和となったのですが、私の後に入浴した方はいらっしゃったのでしょうか。
道路の上から、お湯が完全に溜まった「ガニ湯」を再び撮影。
本当に良いお風呂でした。
マグネシウム・ナトリウム・カルシウム-炭酸水素塩温泉 37.8℃ 溶存物質4.884g/kg 成分総計5.837g/kg
Na+:423.3mg(29.39mval%), Mg++:345.3mg(45.34mval%), Ca++:262.1mg(20.88mval%), Fe++:3.5mg,
Cl-:189.0mg(8.66mval%), SO4--:346.9mg(11.73mval%), HCO3-:2990.0mg(79.61mval%),
H2SiO3:221.4mg, CO2:953.2mg,
加水加温循環消毒なし
豊後竹田駅より大野竹田バスの直入支所(長湯温泉)行で「長湯」バス停下車、徒歩2分(200m)
(時刻等は大分バスのHPでご確認ください)
大分県竹田市直入町大字長湯 地図
清掃時以外利用可能
無料
備品類なし
私の好み:★★★