2014年はほとんど登山らしい登山をしていない私。1年に一度は大自然の中に溶け込まないと五感が鈍ってしまいそうだったので、青森県に所用があった2014年10月初旬、その帰路に秋田県八幡平エリアの秋田焼山へ登って、八幡平の紅葉を満喫しつつ、その道中に湧く野湯も楽しんでみることにした。
日程:2014年10月初旬、週末の某日。日帰り
人数:単独行
天候:晴れ→雨→曇時々晴れ
持ち物:日帰り登山の一般的な持ち物・ランチ用の湯沸かしキット(バーナーやコッヘル等)・入浴グッズ・熊よけグッズ
ルート:後生掛温泉→国見台→毛氈峠→焼山避難小屋→焼山頂上→焼山避難小屋→湯の沢→ベコ谷地→後生掛温泉
(焼山避難小屋~焼山頂上間は単純往復)
距離:10.7km
【7:05 後生掛公共駐車場】
早朝の後生掛。明けて間もない朝の陽は、まだ山の上まで昇りきれておらず、山全体を照らすことができずに、夜露の影を引き摺っている。アスピーテライン沿いの無料公共駐車場に車を止め、深呼吸して山霞を呑み込んでから、その場で登山の支度を整える。既に八幡平の山は色づいている。気持ち良い青空が広がる、絶好の登山日和だというのに、駐車場には誰もいない。私の車一台だけ。なぜなんだろう? 多数の登山者が犠牲になってしまった御嶽山噴火の影響があるのだろうか。
【7:12 後生掛温泉】
まずは後生掛温泉の敷地に入り、湯治村の方へ下る。
標識に従って湯治棟の建物内に入り、注連縄が掛けられている勝手口のような引き戸を開けて、棟の裏側へ出る。ネット上では、焼山の登山ルートでここが最も迷いやすいと表現さなっている方を見かけるが、なるほどその通りかもしれない。ここからようやく登山道がスタート。
建物裏手すぐのところには小さなお社があるので、柏手を打ってこの日の安全を祈念する。サクサクっと登って、道標に従って前進。
後生掛温泉の紺屋地獄を左斜め前に眺めつつ、木道を歩く。しばらくは木道が敷かれていたり無かったりを繰り返す。
紅葉しているブナ林。勾配は緩く、陽気も良いので、足取りも快調。
【7:24 ブナのゲート】
このルートの名所であるブナのゲートを通過。ゲートと言っても、幹が水平方向へS字にグニャっと曲がっているだけだが、それがちょうど登山道上にあるので、ゲートに見えるだけ。
【7:32 勾配が少しずつ急になる】
ブナのゲートを通過してしばらく進むと、ようやく坂の勾配が本格的になり、登り応えのある道となってゆく。
朝の澄み切った青空に、今が盛りと燃えんばかりの紅葉。こんな美しい景色の中にいられるだなんて、俺って本当に幸せだ。傍の大木では、キツツキが小気味よいテンポでトントンと幹を突いていた。
足元にはキノコが大量発生していた。ナラタケっぽいけど、素人がキノコを判断したところでロクなことがないので、ここでは一切ノータッチ。
【7:47 後生掛~毛氈峠 中間地点】
スタート地点の後生掛からも、この先にある毛氈峠からも、1.7kmにあたる地点。不思議なくらいに他登山者の姿が見当たらない。ただ、クマの気配も無いのは幸い。
先ほどまで突き抜けるような青空が広がっていたのに、俄然空がかき曇り、怪しい冷たい風が吹き始めてきた。
今回歩いたコースでは、あちこちでリンドウが花をつけていた。陽が差せば花弁を開いてくれるのかもしれないが、残念ながらこの時は天候が徐々に悪化しており、どの株も花弁を固く閉ざしていた。リンドウの言葉は「悲しんでいるあなたを愛する」。秒単位で悪くなる一方の天候に、気が滅入ってゆく私を、この花たちが気にかけてくれたら良いな、なんて柄にもなく気障な想いに耽けたりして。
中間地点を過ぎてしばらく行った辺りで長い階段に差し掛かる。
【8:18 国見台】
後生掛から2.2km、毛氈峠まで1.2kmの地点、国見台。
ここからの見晴らしは素晴らしい。山襞が重畳的に連なり、その全てが紅葉で染まっているブリリアントな光景。画像中央で真っ白な煙をたなびかせているのは地熱発電所であり、つまり煙ではなく水蒸気。これで晴れてりゃ文句無いんだろうけど、空には重たい鉛色の雲がたちこめ、しかも雲の流れも速い。この様子ではあっという間にガスってくるだろう。
案の定、たちまち濃霧が立ち込め、やがて雨も降り始めた。路傍のリンドウに泥が跳ねる。
このルートは実に良くメンテナンスされており、悪天候時でも支障なく歩くことができた。関係者の皆さんの尽力に感謝。雨粒に打たれながらステップを上がり、登り切ると道はフラットになった。どうやら稜線上に出たらしい。その一方で、視界は益々悪くなる。
【8:40~50 毛氈峠(もうせんとうげ)】
晴れていれば見晴らしが良いはずの稜線上を歩いていると、秋の冷たい雨や風から我が身を防護してくれるものがないので、どんどん体が冷えてゆく。毛氈峠に達するとその傾向が強くなってきたので、防寒具を1枚余計に身に纏った。ここに至って一つの事実を悟る。週末の紅葉シーズンなのに、この地点まで誰一人にもすれ違っていないのだが、他の登山者は、この日の天候をわかって、敢えて登山を回避したのだろう。直前の天気予報を仕入れることを怠った私は、無残にも風雨に曝されることになってしまった。
【9:05 後生掛温泉~玉川温泉 中間地点 標高1317m】
後生掛温泉および玉川温泉、いずれからも3.9kmの地点。この辺りはシラタマノキが群生をなしていた。相変わらず濃霧が行く手の視界を遮る。
【9:15~35 焼山避難小屋 標高1275m】
ちょうど避難小屋へ到達したタイミングで雨脚が強くなってきた。
避難小屋は倒壊の恐れがあるため使用禁止なのだが、その文言を厳守して雨風に体を晒し、体を冷やして低体温症に陥っては意味が無い。そこで小屋内にお邪魔し、20分ほど雨宿りさせてもらう。
小屋内には最近使われたような形跡があり、室内に残されている記念ノートにも、小屋をあてにして一夜を明かしたという旨が記載されていた。10月初旬だというのに、柱に括り付けられている温度計は10℃ぴったりを示していた。雨脚が弱くなってきた頃合いで、小屋を出る。
雨に濡れた登山道を進んで、焼山の火口外周へ。濃霧で前がちっとも見えねーよ。景色もへったくれもあったもんじゃない。
中央火山丘の溶岩ドーム「鬼ヶ城」。なるほど、昔話で鬼が潜んでいそうな、荒々しい形状の奇岩がそびえており、立ち込める迷霧が余計におどろおどろしい雰囲気を醸成している。恐ろしい巨大生物が岩陰から出会い頭に現れても不思議ではない。奇岩は角度によって動物や日常品などいろんな物に見えるのが面白い。ちなみにこの鬼ヶ城には坂上田村麻呂にまつわる伝説があるとか無いとか。蝦夷との戦いで必死な田村麻呂がわざわざ、こんな辺鄙なところまで来るものだろうか。
頂上火口の湯沼が見えてきた。神秘的なミルキーホワイトの景色と表現したいところだが、濃霧と風雨のために、前進するのが精一杯で、景色を楽しむどころではない。しかも硫化水素ガスの濃度が強いのか、臭いが濃く、頭もちょっと痛い。足早に高いところへ去る。
【9:54~9:58 名残峠】
火口外輪山の西の端っこに位置する名残峠。ここからの眺望はけだし素晴らしいものと想像され、その名の通り立ち去るのが名残惜しいほどなんだろうけど、この時は風が強いし、雨は当たるし、寒いし、ちっとも名残惜しくなかった。
名残峠の先に伸びていた従来の登山道は、十数年前に発生した水蒸気爆発に伴い通行止め。
その代わり、現在の登山道は、峠で鋭角にターンする感じで尾根を登って迂回し、玉川温泉方向へ伸びている。なんて言ったところで、悪天候のため、なにを撮ってもどこを撮っても、全然変わんない。
名残峠から3分ほど上がったところで小さな分岐点がある。ここを道なりにまっすぐ(上画像では右の方)へ進めば、3km弱で玉川温泉まで下れるが、今回は後生掛まで戻りたいのでそちらには行かない。そのかわり、分岐点を左に進んで焼山頂上への到達を目指す。
【10:05~10 焼山 頂上】
分岐から笹薮の中を歩いて1分程度で、行き止まりになる。迷路でいうところのハズレに出くわしたような感じだが、こここそ焼山の頂上。登山前に予めネットでこの様子を調べておいたが、登山者の方が皆さん述べているように、ここには三角点が埋め込まれているだけで、他には本当に何にもない。達成感がない。ただのどん詰まり。5分いるのが精一杯。三角点をしっかりタッチしてから、来た道を引き返し、焼山避難小屋まで同じ道を戻ることにした。
だた、ここで立ち止まった僅か5分の間で、雨が上がって空が若干明るくなり、勢い良く流れる雲の高さもやや高くなってきた。この調子だと、早々に天気が回復するかもしれないぞ…。
後編へ続く。
日程:2014年10月初旬、週末の某日。日帰り
人数:単独行
天候:晴れ→雨→曇時々晴れ
持ち物:日帰り登山の一般的な持ち物・ランチ用の湯沸かしキット(バーナーやコッヘル等)・入浴グッズ・熊よけグッズ
ルート:後生掛温泉→国見台→毛氈峠→焼山避難小屋→焼山頂上→焼山避難小屋→湯の沢→ベコ谷地→後生掛温泉
(焼山避難小屋~焼山頂上間は単純往復)
距離:10.7km
【7:05 後生掛公共駐車場】
早朝の後生掛。明けて間もない朝の陽は、まだ山の上まで昇りきれておらず、山全体を照らすことができずに、夜露の影を引き摺っている。アスピーテライン沿いの無料公共駐車場に車を止め、深呼吸して山霞を呑み込んでから、その場で登山の支度を整える。既に八幡平の山は色づいている。気持ち良い青空が広がる、絶好の登山日和だというのに、駐車場には誰もいない。私の車一台だけ。なぜなんだろう? 多数の登山者が犠牲になってしまった御嶽山噴火の影響があるのだろうか。
【7:12 後生掛温泉】
まずは後生掛温泉の敷地に入り、湯治村の方へ下る。
標識に従って湯治棟の建物内に入り、注連縄が掛けられている勝手口のような引き戸を開けて、棟の裏側へ出る。ネット上では、焼山の登山ルートでここが最も迷いやすいと表現さなっている方を見かけるが、なるほどその通りかもしれない。ここからようやく登山道がスタート。
建物裏手すぐのところには小さなお社があるので、柏手を打ってこの日の安全を祈念する。サクサクっと登って、道標に従って前進。
後生掛温泉の紺屋地獄を左斜め前に眺めつつ、木道を歩く。しばらくは木道が敷かれていたり無かったりを繰り返す。
紅葉しているブナ林。勾配は緩く、陽気も良いので、足取りも快調。
【7:24 ブナのゲート】
このルートの名所であるブナのゲートを通過。ゲートと言っても、幹が水平方向へS字にグニャっと曲がっているだけだが、それがちょうど登山道上にあるので、ゲートに見えるだけ。
【7:32 勾配が少しずつ急になる】
ブナのゲートを通過してしばらく進むと、ようやく坂の勾配が本格的になり、登り応えのある道となってゆく。
朝の澄み切った青空に、今が盛りと燃えんばかりの紅葉。こんな美しい景色の中にいられるだなんて、俺って本当に幸せだ。傍の大木では、キツツキが小気味よいテンポでトントンと幹を突いていた。
足元にはキノコが大量発生していた。ナラタケっぽいけど、素人がキノコを判断したところでロクなことがないので、ここでは一切ノータッチ。
【7:47 後生掛~毛氈峠 中間地点】
スタート地点の後生掛からも、この先にある毛氈峠からも、1.7kmにあたる地点。不思議なくらいに他登山者の姿が見当たらない。ただ、クマの気配も無いのは幸い。
先ほどまで突き抜けるような青空が広がっていたのに、俄然空がかき曇り、怪しい冷たい風が吹き始めてきた。
今回歩いたコースでは、あちこちでリンドウが花をつけていた。陽が差せば花弁を開いてくれるのかもしれないが、残念ながらこの時は天候が徐々に悪化しており、どの株も花弁を固く閉ざしていた。リンドウの言葉は「悲しんでいるあなたを愛する」。秒単位で悪くなる一方の天候に、気が滅入ってゆく私を、この花たちが気にかけてくれたら良いな、なんて柄にもなく気障な想いに耽けたりして。
中間地点を過ぎてしばらく行った辺りで長い階段に差し掛かる。
【8:18 国見台】
後生掛から2.2km、毛氈峠まで1.2kmの地点、国見台。
ここからの見晴らしは素晴らしい。山襞が重畳的に連なり、その全てが紅葉で染まっているブリリアントな光景。画像中央で真っ白な煙をたなびかせているのは地熱発電所であり、つまり煙ではなく水蒸気。これで晴れてりゃ文句無いんだろうけど、空には重たい鉛色の雲がたちこめ、しかも雲の流れも速い。この様子ではあっという間にガスってくるだろう。
案の定、たちまち濃霧が立ち込め、やがて雨も降り始めた。路傍のリンドウに泥が跳ねる。
このルートは実に良くメンテナンスされており、悪天候時でも支障なく歩くことができた。関係者の皆さんの尽力に感謝。雨粒に打たれながらステップを上がり、登り切ると道はフラットになった。どうやら稜線上に出たらしい。その一方で、視界は益々悪くなる。
【8:40~50 毛氈峠(もうせんとうげ)】
晴れていれば見晴らしが良いはずの稜線上を歩いていると、秋の冷たい雨や風から我が身を防護してくれるものがないので、どんどん体が冷えてゆく。毛氈峠に達するとその傾向が強くなってきたので、防寒具を1枚余計に身に纏った。ここに至って一つの事実を悟る。週末の紅葉シーズンなのに、この地点まで誰一人にもすれ違っていないのだが、他の登山者は、この日の天候をわかって、敢えて登山を回避したのだろう。直前の天気予報を仕入れることを怠った私は、無残にも風雨に曝されることになってしまった。
【9:05 後生掛温泉~玉川温泉 中間地点 標高1317m】
後生掛温泉および玉川温泉、いずれからも3.9kmの地点。この辺りはシラタマノキが群生をなしていた。相変わらず濃霧が行く手の視界を遮る。
【9:15~35 焼山避難小屋 標高1275m】
ちょうど避難小屋へ到達したタイミングで雨脚が強くなってきた。
避難小屋は倒壊の恐れがあるため使用禁止なのだが、その文言を厳守して雨風に体を晒し、体を冷やして低体温症に陥っては意味が無い。そこで小屋内にお邪魔し、20分ほど雨宿りさせてもらう。
小屋内には最近使われたような形跡があり、室内に残されている記念ノートにも、小屋をあてにして一夜を明かしたという旨が記載されていた。10月初旬だというのに、柱に括り付けられている温度計は10℃ぴったりを示していた。雨脚が弱くなってきた頃合いで、小屋を出る。
雨に濡れた登山道を進んで、焼山の火口外周へ。濃霧で前がちっとも見えねーよ。景色もへったくれもあったもんじゃない。
中央火山丘の溶岩ドーム「鬼ヶ城」。なるほど、昔話で鬼が潜んでいそうな、荒々しい形状の奇岩がそびえており、立ち込める迷霧が余計におどろおどろしい雰囲気を醸成している。恐ろしい巨大生物が岩陰から出会い頭に現れても不思議ではない。奇岩は角度によって動物や日常品などいろんな物に見えるのが面白い。ちなみにこの鬼ヶ城には坂上田村麻呂にまつわる伝説があるとか無いとか。蝦夷との戦いで必死な田村麻呂がわざわざ、こんな辺鄙なところまで来るものだろうか。
頂上火口の湯沼が見えてきた。神秘的なミルキーホワイトの景色と表現したいところだが、濃霧と風雨のために、前進するのが精一杯で、景色を楽しむどころではない。しかも硫化水素ガスの濃度が強いのか、臭いが濃く、頭もちょっと痛い。足早に高いところへ去る。
【9:54~9:58 名残峠】
火口外輪山の西の端っこに位置する名残峠。ここからの眺望はけだし素晴らしいものと想像され、その名の通り立ち去るのが名残惜しいほどなんだろうけど、この時は風が強いし、雨は当たるし、寒いし、ちっとも名残惜しくなかった。
名残峠の先に伸びていた従来の登山道は、十数年前に発生した水蒸気爆発に伴い通行止め。
その代わり、現在の登山道は、峠で鋭角にターンする感じで尾根を登って迂回し、玉川温泉方向へ伸びている。なんて言ったところで、悪天候のため、なにを撮ってもどこを撮っても、全然変わんない。
名残峠から3分ほど上がったところで小さな分岐点がある。ここを道なりにまっすぐ(上画像では右の方)へ進めば、3km弱で玉川温泉まで下れるが、今回は後生掛まで戻りたいのでそちらには行かない。そのかわり、分岐点を左に進んで焼山頂上への到達を目指す。
【10:05~10 焼山 頂上】
分岐から笹薮の中を歩いて1分程度で、行き止まりになる。迷路でいうところのハズレに出くわしたような感じだが、こここそ焼山の頂上。登山前に予めネットでこの様子を調べておいたが、登山者の方が皆さん述べているように、ここには三角点が埋め込まれているだけで、他には本当に何にもない。達成感がない。ただのどん詰まり。5分いるのが精一杯。三角点をしっかりタッチしてから、来た道を引き返し、焼山避難小屋まで同じ道を戻ることにした。
だた、ここで立ち止まった僅か5分の間で、雨が上がって空が若干明るくなり、勢い良く流れる雲の高さもやや高くなってきた。この調子だと、早々に天気が回復するかもしれないぞ…。
後編へ続く。