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山形県の小野川温泉は、毎年必ず一度は足を運んでいるほど、私にとってお気に入りの温泉です。とりわけ雪に包まれた季節に小野川の湯に浸かると、身も心も癒やされるんですよね。当地には尼・滝・小町と称する3つの共同浴場がありますが、そのうち1つである「滝の湯」が今年のお正月にリニューアルされたと聞き、どんな姿に生まれ変わったのが、自分の目で確かめに行きました。
従前の「滝の湯」は、小野川のランドマーク的存在である共同浴場「尼湯」の手前、「旭屋旅館」と「ホテル山川」の間に位置していましたが、リニューアル後は温泉組合の駐車場前、冬期は「かまくら村」が開催される敷地の隣へ移転されました。かつての地味で渋い佇まいとは打って変わって、モダン和風のスッキリとした建築でありながら、玄関には立派な唐破風を戴き、伝統的な銭湯スタイルが採用されています。わかりやすい立地と、伝統的な湯屋らしい外観により、「尼湯」にも負けず劣らずの存在感を放つようになったかと思われます。
湯屋の前には4台ほどの駐車スペースがあり、以前より車でのアクセスも楽になりました。私が訪れたのは、1月下旬の晴れた週末で、隣のかまくら村では多くの家族連れが冬の風物詩を楽しんでいらっしゃいました。
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小野川の共同浴場を利用する際は、予め指定の商店などで入浴券を購入しておきます。券の販売している店舗は入口脇に明示されていますから、現地にてご確認ください。私は温泉街中心部のお土産屋さんで購入しました。券には日付が記入されます。
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湯屋は従前と同じく無人ですが、まだ開設されて間もない上、組合員の皆さんのご尽力もあり、脱衣室はとてもきれいな状態でした。古き良き伝統的湯屋の姿をイメージしているのか、内装の多くに木材が使われており、真新しい白木の美しさと明るさが印象的です。外観内装ともに懐古的な造りですが、フローリングの床には温泉熱を用いた床暖房が設置されているので、冬でも寒さ知らずで着替えられるのが嬉しい点。しかも備え付けのトイレは最新型のウォシュレットですので「洗浄機能付き便座じゃないと出るものも出ない」と旅先でお嘆きの方も大丈夫♪
木材を多用した内装とともにこの脱衣室で印象的なのが、浴室との間に下ろされたビニールカーテンです。一般的に脱衣室と浴室との間は扉で仕切られていますが、こちらでは幕のように下ろされたビニールカーテン一枚がその役割を果たしており、入浴客はカーテンを捲って両室を行き来することになります。昔ながらの湯屋建築では、脱衣室と浴室との間に仕切りがない一体型のレイアウトがよく見られ、当地の「尼湯」もその典型例ですが、新生「滝の湯」では伝統的湯屋のような一体感を残しつつ、現代的にドライゾーンとウェットゾーンが区分できるよう、伝統的スタイルと現代的ニーズを折衷させる形で、このビニールカーテンを採用したのかもしれません(単にコスト的な問題だったりして…)
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壁の張り紙には湯船が42℃前後であると記されていますが、実際のところはどうなんでしょう。なおリニューアルにあたっては、公衆浴場の許可証を新たに取得し直しているようです。浴場名は受け継いでいるものの、湯屋としては全くの別物になったのだから、新たな公衆浴場がひとつ増えたと捉えることもできるんですね。
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脱衣室において、自分が使う荷物棚の券入れへ入浴券を入れておくのが、小野川温泉の共同浴場独自のルール。無人施設における無銭入浴を防ぐため、このようにして皆さんに「私は湯銭をちゃんと納めていますよ」と提示するわけですね。なお使用後の入浴券は、壁に括り付けらてているポストへ投入します。
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浴室は共同浴場らしく、至ってシンプルで実用的なレイアウトであり、奇を衒ったようなところは全く見られません。床にはレモンイエローのタイルが敷き詰められ、側壁の下部はマロン色タイル、上部は木目の防滴化成壁材が用いられてます。男湯の場合、左手に浴槽が、右手に洗い場が配置され、洗い場にはシャワー付き混合水栓が3基並んでいます。小野川の共同浴場にシャワーが導入されたことは、私としては画期的ではないかと思います。
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御影石で枠組まれた湯口から小野川の湯が投入されており、湯気とともに小野川らしいタマゴ臭を漂わせています。脱衣室の壁紙には42℃設定と記されていましたが、湯船の設置されている温度計は44℃を指し示していました。もちろん湯使いは完全掛け流しで、浴槽縁から洗い場へ惜しげも無くお湯が溢れ出ていました。
黒御影石の縁と水色タイルの槽内とのコントラストが目に鮮やかな浴槽は、目測でおおよそ1.8m×4m、6~7人サイズといったところでしょうか。槽内の一部は女湯とつながっており、仕切り塀下の槽内下部をよく見ると、2箇所ほど細長く貫通しているのがわかります。
お湯は無色透明で、湯中では白い湯の花が浮遊しています。こちらに引かれているお湯は、小野川の多くの旅館で採用されている4号源泉と5号源泉の混合泉で、桜湯と卵スープをミックスさせたような、出汁の効いた風味豊かな塩味と香ばしいタマゴ臭が感じられました。やや熱めの湯加減と、塩分の効いたお湯が持つ温浴パワーが相俟って、湯上がりはいつまでも汗が引かず、真冬だというのに、しばらくはコート要らずで済んだほど、力強いポカポカ感が続きました。
タマゴ臭に抱かれながら白い湯の花が舞う湯に浸かる瞬間は、まさに至福のひととき。小野川の湯は何度入っても飽きません。上品さと力強さを兼ね備えた素晴らしいお湯です。
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湯上り後はすぐ目の前にある食堂「龍華」で、小野川名物の伝統野菜である豆もやしを載せたラーメンをいただきました。昔ながらの中華そばといった感が強く、出汁が効いたアッサリ醤油味のスープに細縮れ麺がよく絡み、そこへ強い味わいとはっきりとしたシャキシャキ食感をもつ温泉もやしが見事にマッチして、実に美味。実は昨年「河鹿荘」で宿泊した際にも、こちらで同じラーメンをいただいており、その美味しさが忘れられず今回再訪したのでした。
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「滝の湯」隣の敷地で毎年開催される小野川の冬の風物詩「かまくら村」。かまくらには自由に立ち入りでき、食堂へ電話注文すると、食事をかまくらの中まで出前してくれるんですね。かまくらの中にはちゃんとメニューが置かれており、私が見学した時にも、数組の家族連れがかまくらの中でラーメンを啜っていました(右(下)画像)。
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「かまくら村」の奥に設置されているこのビニールハウスは、豆もやしを栽培している室(むろ)です。11月から3月にかけて生産され、もやしの育成には温泉の熱が使われています。温泉の湯気で満たされたハウス内は高湿の温室状態なんだとか。小野川のもやしの豆には、一般的な緑豆等ではなく、昔から当地で栽培されてきた在来種の大豆が用いられているんだそうです。痛みが早くて生産量も少ないため、小野川のもやしは当地でないとなかなか口にできませんが、一度その食感と味わいを体験しちゃうと、やみつきになること間違いなし。小野川の温泉がもたらす恵みのひとつですね。
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ちなみに上2枚の画像は「滝の湯」旧浴場の様子。私が訪れた1月下旬の時点ではこのように姿が残っていましたが、hiroさんのブログによれば、その後解体されてしまったそうです。移転リニューアルされたことにより、旧浴場時代の鄙びて渋い佇まいは失われましたが、伝統的な湯屋様式を取り入れつつ、使い勝手を向上させた新浴場は、私の目には寧ろパワーアップしたように映りました。「新生「滝の湯」は温泉ファンのみならず、当地を訪れる観光客からも愛されるに違いありません。
協組4号源泉・協組5号源泉
含硫黄-ナトリウム・カルシウム-塩化物温泉 46.9℃ pH7.3 蒸発残留物4912.8mg/kg 溶存物質3740.6mg/kg
Na+:830.4mg, Ca++:677.3mg,
Cl-:1936.6mg, Br-:5.8mg, HS-:1.1mg, H2O3--:8.1mg, HCO3-:63.9mg,
H2SiO3:79.2mg, H2S:0.6mg,
山形県米沢市小野川町2518-1 地図
9:00~21:30(時間外は自動的に施錠されます)
250円
ロッカー(100円有料)あり
私の好み:★★★