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前回記事では北海道後志の岩内町に湧く塩辛い温泉を取り上げましたが、今回は満を持して、強塩泉の真打ちが登場します。
温泉ファンの間では非常に塩辛い温泉として有名な、積丹半島神恵内村の「リフレッシュプラザ998」です。場所としては、海岸沿いの村中心部から古平方面へ向かって道道998号線を2kmほど山へちょっと入ったところにあり、茶色い外観の老人福祉施設が隣接しているのですが、温泉施設は小ぢんまりとしているため、どちらかといえば、老人福祉施設の方が目立っているかもしれません。名称の998とは、施設が面している道道の番号に因んでいるのでしょう。
館内に入って受付に設置されている券売機で料金を支払い、券をカウンターに差し出して、浴場へと向かいます。受付の前にはソファーが置かれたロビーがあるほか、24〜5畳はありそうな小上がり(座敷)もその隣に設けられていました。後ほどお湯から上がってから、ゆっくり休ませてもらいましょう。
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浴室には後述するように計4つの浴槽が設けられていますが、温泉が用いられているのは最奧の1つのみで、残る3つは真湯または真水を張った浴槽です。この他サウナも用意されています。洗い場にはシャワー付きカランが計9基取り付けられていました。
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浴室中央に据え付けられた円形の浴槽はジェットバスで、5〜6人は入れそうなサイズがあります。その隣には寝湯と水風呂が隣り合って設置されています。いずれも真湯(または真水)です。普段の私なら真湯の浴槽には大して興味を示さないのですが、この時ばかりは真湯の浴槽のありがたさを知ることになります。その理由は後ほど。
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一番奧の温泉槽はタンクのように高くなっており、ステップで上がって湯船に入ることになります。湯船のお湯はオニオンスープのような色を呈しながら強く濁り、透明度は15〜20cm程度しかないため、私が初めて入浴した時には、手摺りをしっかり握って、足元を確認しながら慎重に入りました。
ネット上で見かけた数年前の画像を拝見しますと、以前の湯口は浴槽の最奧にあったようですが、私の訪問時には以前の湯口位置から新しく木樋が伸びており、浴槽の中ほどでお湯を吐出させていました。スケールが発生しやすいお湯であることは明らかですから、既存の湯口が詰まってしまったため、このように新たに配管を延ばして対応したのかと思われます。
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浴槽の躯体には元々の素材がまったくわからないほど温泉成分が分厚くこびりついており、まるで大理石のようなマーブル模様で覆われていました。泉質名としてはナトリウム-塩化物強塩泉ですが、カルシウムイオンが547.4mg、炭酸水素イオンが4457mgも含まれているので(他の一般的な温泉だったら、「炭酸水素塩」が泉質名に含まれていても不思議ではないほどの量です)、これらによって炭酸カルシウムが生成されちゃうのでしょう。言わずもがな上述のスケールもこの炭酸カルシウムのしわざです。
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内湯からグリーン一色の長い通路を進んでゆくと・・・
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施設の屋上に設けられている露天風呂に出られました。テラスのような広いスペースの4分の1に楕円形の岩風呂が据えられています。四方は塀で囲まれていますが、頭上を覆う屋根などはなく、湯船に浸かると塀越しに周囲の山々を眺めることができました。
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真っ黒い溶岩質の岩の中から、交換したばかりと思しき新しい塩ビ管が突き出ており、そこから温泉が吐出されていました。やはりスケールですぐに詰まってしまうのでしょう。それを裏付けるように、この温泉投入口付近は黒い岩をクリーム色に染めるほど炭酸カルシウムで覆われており、また浴槽の湯面ライン上にもサルノコシカケみたいな庇状の析出が発生していました。そして底には鼈甲色の破片もたくさん沈んでいました。
こちらの湯船にも内湯の温泉槽と同じく鼈甲色に強く濁った温泉が張られており、厳冬の外気に冷却されるおかげで、長湯したくなるような湯加減が維持されていました。でも、ここで迂闊に長湯をすることはあまりおすすめしません。と申しますのも、この神恵内温泉は日本屈指の強塩泉であり、海水の1.3倍にも及ぶ濃厚な塩分は、身体に半端じゃないパワーをもたらすからです。特に火照り方が非常に強烈であり、お湯に浸かり続けていると体が参ってヘロヘロになり、脱水症状に陥りかねません。温まりが強い温泉は、一般的にはボディーブローのように効いて徐々に逆上せてくるものですが、ここの温泉はジャブを繰り返された後にストレートがバーンと飛んでくるようにガッツリ火照るのです。しかも強い塩分のため、お湯へ入る瞬間には肌がピリピリと滲みてきます。とにかくノーガードでボコボコに殴られている感じなのです。このため、温泉槽でお湯のパワーを全身で受けた後に内湯の真湯槽へ入ると、真湯の優しさにホッと安堵し、真湯ってありがたいんだなと実感したのでした。
試しにお湯を口に含んでみたのですが、あまりの塩辛さに頬がキュッと修練し、すぐ吐き出したくなっちゃいました。おそらく鹹味の他にもあらゆる味覚が含まれているものと推測されるのですが、塩辛すぎて他の味はよくわかりません。一方、匂いに関しては、土類系や磯の香り、そして刺激を伴うようなヨードや臭素の匂いが嗅ぎとれましたが、いずれもさほど強くはなかったように記憶しています。湯中では食塩泉らしいツルツルと塩化土類泉的なギシギシが6:4で混在しており(あくまで私の実感)、ツルとギシが拮抗しつつも滑らかさの方が勝っているような感覚でした。
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上述のように強烈に火照るお湯ですから、湯上がりには長い時間にわたって汗が引かず、まるで体内に熱源が埋め込まれたかのような状態になって、厳冬だというのに暫くはTシャツ1枚で過ごしました。そして受付前の座敷でグッタリしながら、館内で販売されていたソフトクリームを口にして体をクールダウンさせたのでした。
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湯屋の裏手には廃湯がプールされていたのですが、これはおそらく排湯処理のための施設なのでしょう。あんな塩辛くてスケールが発生しやすいお湯をそのまま河川へ排水したら、周辺環境にエライ影響を及ぼしちゃうことは明らかですからね。
とにもかくにも、凶暴を超越したクレイジーな温まり方をする、非常に個性的で面白いお湯でした。
神恵内村4号井
ナトリウム-塩化物強塩泉 58.2℃ pH6.8 158L/min(自噴) 溶存物質45.53g/kg 成分総計45.93g/kg
Na+:15690mg(92.03mval%), NH4+:2.2mg, Mg++:251.1mg(2.79mval%), Ca++:547.4mg(3.68mval%), Fe++:3.0mg,
Cl-:22200mg(85.60mval%), S2O3--:0.2mg, SO4--:1513mg(4.31mval%), HCO3-:4457mg(9.99mval%), Br-:36.5mg, I-:1.7mg,
H2SiO3:65.3mg, HBO2:315.3mg, HAsO2:9.2mg, CO2:398.4mg, H2S:0.2mg,
(平成26年12月10日)
加水あり(源泉温度が高いため)
北海道古宇郡神恵内村大字神恵内村字大川116-1 地図
0135-76-5100
紹介ページ(神恵内村公式サイト内)
4月~10月→11:00~21:00(受付20:30まで)、11月~3月→12:30~20:30(受付は20:00まで) 火曜定休(祝日の場合は翌日)
500円
ロッカー・シャンプー類・ドライヤー
私の好み:★★★