福島県の湯岐温泉は私が大好きな温泉地の一つです。安土桃山時代にまで遡ることができる長い歴史を有しているのですが、にもかかわらず知名度は決して高くなく、今でも小さな窪地のようなところに少数の旅館と民家が肩を寄せ合うようにして集落を形成しており、その佇まいはまるで幽境のようです。
湯岐温泉といえば共同浴場の「岩風呂」が有名ですね。以前拙ブログで取り上げたことがありますが(以前の記事はこちら)、またあの岩から湧き出るぬる湯に入りたくなったので、2017年某日、現地へ向かうことにしました。まずは目の前にある山形屋旅館で湯銭を支払います。
山形屋旅館の向かいが岩風呂の湯小屋。この湯小屋には後述するように浴室および湯船が一つしかないため、基本的には混浴ですが、女性専用時間(※)が設けられていますので、その時間帯を狙えば女性も心置きなく利用できるかと思います。なお山形屋に宿泊しているお客さんもこの湯小屋へ入りに来ます。私が訪れた時にも、宿の浴衣を羽織ったお客さんが次々にやってきました。
(※)女性専用時間→9:00~10:00、14:00~15:00、21:00~22:00
出入口の引き戸を開けると、まず目に飛び込んでくるのが洗面台。そしてロッカーです。
更衣室はウナギの寝床のように奥へ長い造り。浴室とはガラスのサッシで隔てられているだけであり、目隠しが無いので、昔ながらの共同浴場スタイルに慣れない方にとっては、ちょっと恥ずかしいかもしれません。でもこの昭和を感じさせる造りにこそ、温泉ファンはハートをギュッと掴まれてしまうのです。
空間の大半を浴槽が占めている浴室。以前訪問した時と全く変わらぬ様子に安堵しました。深い湯船は8人同時に入れそうな大きさを有しており、内部はコバルトブルーの塗装が施されています。そしてこの浴槽で特徴的なのは、浴槽にせり出ている岩盤。この岩盤の割れ目からお湯が湧き上がっているのです。一般的に岩風呂といえば、庭石などで用いられる岩を並べて造られたお風呂を差しますが、ここでは岩盤そのものが主役であり、その岩盤がお湯をもたらしているのですから、そんじょそこらの岩風呂とは訳が違います。
主浴槽の隣には加温済のお湯が張られた小さな上がり湯槽が用意されているのですが、この日は若干温かい程度で、主浴槽とさほど変わりありませんでした。季節によって調整されるのかな。
またその隣にはシャワーが1台設けられており、源泉のお湯が吐出されるのですが、こちらは吐出圧力がいまひとつでした。ま、目の前に大きな湯船があるのですから、掛け湯をする場合はそこから桶で直接汲んでしまえば良いのです。
浴槽の縁からは大量のお湯が絶え間なくオーバーフローしています。それだけお湯の湧出量が多いのであり、豊富なお湯が常時供給されることによって、湯船のお湯は大変クリアな状態が保たれています。
繰り返しますが、岩の割れ目からお湯が湧出しており、そのことをビジュアル的に示すように、底から断続的に気泡が上がってきます。入浴しながら体でお湯の湧出を実感できるのは、マニアとして非常に喜ばしいことです。
無色透明で清らかに澄んだお湯からは、仄かなタマゴ臭がふんわりと漂い、微かなタマゴ味とアルカリ性泉にありがちな微収斂が感じられます。心まで浄化されそうなほどに清いお湯に浸かると、まるでローションの中に入っているかのようなトロットロの非常に滑らかな感触に包まれ、身も心も軽やかになります。分析書によれば炭酸イオンが34.3mgも含まれており、この非凡な数値が感動的な滑らかさをもたらしているものと推測されます。
湯加減に関しては、以前は40℃未満のお湯であり、このぬる湯こそ湯岐温泉の特徴でもありましたが、現在は若干温度が上がったようであり、もしかしたら40℃を上回っているかもしれません。かつて湯治で当地を訪れた人は何時間も湯船に浸かっていたようですが、今ではあまり長湯ができないかと思われます。実際に私も30分が限界でした。いや、私はまだ昼間に暑さを覚える季節に入浴したためそのような感覚を抱いたのかもしれず、時季によってはぬるく感じることでしょう。何はともあれ、名湯には違いありません。長い歴史を有する湯治のお湯は伊達じゃありませんね。改めてこのお湯の素晴らしさに感動しました。
山形屋源泉(混合泉)(2源泉の混合)
アルカリ性単純温泉 39.3℃ pH9.6 77L/min(自然湧出・掘削自噴) 溶存物質0.1730g/kg 成分総計0.1730g/kg
Na+:41.7mg(95.26mval%),
Cl-:4.4mg, SO4--:11.4mg(12.24mval%), HCO3-:22.0mg(18.37mval%), CO3--:34.3mg(58.16mval%),
H2SiO3:55.1mg,
(平成27年7月3日)
福島県東白川郡塙町大字湯岐字湯岐31
0247-43-1370(山形屋旅館)
8:00~20:00(女性専用時間あり。詳しくは本文参照のこと)
300円(1日入浴利用500円)
ロッカー・ドライヤーあり
私の好み:★★★