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青森県の主だった温泉地には殆どの箇所に訪れている私ですが、なぜか県内屈指の規模を誇る温泉街である浅虫温泉には1度しか入浴したことが無く、どちらかといえば遊園地(2005年に閉園)か水族館を目的として訪れる場所でした。特に敬遠する理由は無く、ただ単に頭の中から浅虫の温泉がスッポリ抜けていただけなのですが、このままではいつまで経っても行く機会が無さそうな気がしたので、先日麻蒸湯札を購入し、温泉街の宿泊施設で立ち寄り入浴をお願いしてきました。一軒目は老舗旅館「柳の湯」です。一見するとごく普通の中規模旅館に見えますが、津軽藩代々の殿様から愛されてきた歴史あるお湯であり、藩直轄である東本陣の管理職や庄屋等を兼業してきた由緒ただしきお宿(家系)なんだそうです。湯札を見せながら帳場で入浴を請うと快く受け入れてくださいました。
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中規模ながらも老舗らしい風格のある館内に、こちらの気分も高揚します。浴室へ向かう廊下からは立派なお庭も見えました。
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こちらには「御殿湯」と「坪の湯」の二つの浴室があり、時間によって男女入れ替え制となっているんだそうです。今回訪問時、「御殿湯」には女湯の暖簾が掛かっていました。御殿というからには津軽藩ゆかりのお風呂と想像され、歴史好きの私としてはとても興味津々なのですが、さすがに女湯には入れませんから、今回は泣く泣く諦めざるを得ません。
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廊下を更に奥へ進んだ「坪の湯」がこの時の男湯でしたので、今回はこちらの利用となります。
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脱衣室はこじんまりとしていながらも実に清潔・綺麗で、床はスノコ状に板が敷かれていることもあり、気分面でも実用面でも快適に使うことができました。棚の上には額に納められた古い分析表が掲示されていました。
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脱衣室の小ささに反して浴室は広々としており、壁面はレンガ色のタイルが貼られ、ガラス窓に面してP字形の大きな浴槽がひとつ、槽内は水色のタイル貼りです。洗い場にはシャワー付き混合水栓が6基設けられています。
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木箱に覆われた湯口から源泉が投入されていますが、源泉温度が高いために源泉:水がおおよそ5:3(私の目視による推測)の割合で混合されているようであり、浴槽を満たしたお湯はその縁からしずしずとオーバーフローしていました。
お湯は無色透明でして、その透明度と水色のタイルが相俟って、非常に澄み切っているように見えます。
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木箱の湯口とは反対側では非加水のアッツアツ源泉が蛇口からチョロチョロと落とされているのですが、蛇口には析出がコンモリと盛り上がって付着しており、まるで羊の頭のような形状になっていました。
こちらのお宿は浅虫では珍しく独自源泉を使用しており、湯面からはふんわりと芒硝臭や石膏臭が漂っています(芒硝臭の方がいくらか勝っているかも)。口に含むと弱食塩味、そして石膏味が感じられました。知覚としては硫酸塩泉的な特徴が目立っていますが、とはいえ際立って強いわけではなく、控えめながらも上品に個性を主張しているような感じでした。歴史あるお宿に相応しい品行方正で淑やかなお湯です。
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こちらは露天風呂です。日本庭園の美しい緑と羽目板敷きの床が気品ある雰囲気を醸し出しており、いつもはフル○ンで浴室内をウロウロする私も、この時ばかりはまるで能の舞台を思わせる臈たけた空気感に気圧されてしまい、誰もいないのに思わず前を隠して恥じらいを覚えながら居住まいを正して露天風呂と対峙しました。
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総木造でほぼ正方形の湯船は2人(ひざを折って入れば4人)サイズ。木箱の湯口内で源泉と水が混ぜられた上で浴槽へと注がれています。湯船に身を沈めると四辺のすべてからお湯が勢い良く溢れ出し、床の板の隙間から下の方へと流れ落ちてゆきました。実に良い雰囲気です。日々庶民の生活から抜け出せない貧乏性の私ですが、この時ばかりはお風呂の力を借りて気位が高くなり、悠然としながら優雅な湯浴みのひと時を過ごすことができました。
柳の湯混合泉
ナトリウム・カルシウム-硫酸塩・塩化物泉 73.0℃ pH不明 溶存物質1.331g/kg 成分総計1.331g/kg
Na+:237.1mg(55.04mval%), Ca++:165.4mg(44.05mval%),
Cl-:208.3mg(30.54mval%), SO4--:608.5mg(65.82mval%),
H2SiO3:82.4mg,
適温にするため加水あり、加温・循環・消毒なし
青い森鉄道・浅虫温泉駅より徒歩10分(約600m)
青森県青森市浅虫山下236 地図
017-752-2023
ホームページ
入浴のみの利用時間13:00~16:00
麻蒸湯札使用で1回入浴当たり500円(現金ですと800円らしいです)
シャンプー類・ドライヤーあり、貴重品帳場預かり
私の好み:★★★