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磐梯山麓の出で湯、押立温泉の「住吉館」で立ち寄り入浴してきました。後背に磐梯山が聳え、周囲は深い森に囲まれ、秘湯感たっぷりでいい雰囲気・・・。そんなことを思いながら駐車場から玄関へ向かって歩いていると、玄関には見覚えのある大きな提灯がふらさがっているではありませんか。私は予備知識ゼロの状態で伺ったのですが、こちらは「秘湯を守る会」の会員宿だったんですね。温泉が好きなくせに同会についてはあまり存じ上げていないので、今回のように現地へ行ってその訪問先が会員宿であることを初めて知る場合が屡々です。
今回の訪問では、もうひとつの無知により、後々マヌケな失態を招くことになります・・・。
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玄関ではダンボールの中でワンコがおとなしく丸まりながら来客を迎えていました。かわゆい(^^)
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朱色のトタン屋根の建物外観からは鄙びた宿を想像しましたが、館内は外観から受ける印象を覆す、綺麗で落ち着きのある装いです。ロビーの中央にはライティングの美しい階段が伸びていました。帳場で料金を支払うと、スタッフの方から露天風呂に関して説明を受けました。曰く、混浴の露天風呂には女性専用時間が設けられており、私が訪れた16:45の15分後である17時から30分間はその時間となるので、その点了承して欲しいとのことでした。なお、この記事を書くに当たって宿のHPを確認したところ、立ち寄り入浴時間は15時で終了していたんですね。そんなことを全く知らず、大幅に遅れて訪問してしまったにもかかわらず、入浴をOKしてくださった宿の方に、この場を借りて感謝申し上げます。
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二室ある内湯はそれぞれ「梢の湯」「小滝の湯」と名付けられており、男女入れ替え制になっているようでして、この時は「小滝の湯」が男湯となっていました。浴室入口には男女の大きな暖簾が掛けられています。これだけデカくてはっきりしていると、わかりやすくていいですね。でも、このわかりやすさにちょっとした罠があったのだ・・・。そのことについては後ほど。
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脱衣室は白木の総木造で、老舗旅館らしい風格と和風建築独特の温かみが感じられます。改修されて間もないらしく、室内はどこもかしこもピカピカに輝いていました。
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昨年改修したばかりの浴室。戸を開けた瞬間、その美しさと溢れる気品に思わず息をのんでしまいました。天井こそ化成品の建材ですが、床は石材、そして壁は木材が用いられており、嵌め殺しながら大きなガラス窓のおかげで開放感がもたらされ、木材ならではのぬくもりと優しさに包まれながら、窓外の緑を眺めつつ、ただ湯船へお湯が落ちる音ばかりが響く浴室で、静かにじっくりと湯浴みすることができるわけです。和風温泉旅館らしい風格と美意識と安らぎに満ちあふれる造りであります。
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シャワー付き混合水栓が3基設置されている洗い場には見事なタイル画が施されていました。浴室の改修に当たって室内を解体していたら、壁の中からこのタイル絵が現れたんだそうです。時空を超越して再び姿を見せてくれるだなんて、とってもロマンティックですね。なお備え付けられていたボディーソープやシャンプーは、秘湯を守る会のお宿ではおなじみのくまざさシリーズでした。
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浴槽も木造で、入浴すると木ならではの柔らかさと優しさが肌に伝わってきます。浴槽は大小二つにわかれていますが、小さな槽の方が若干熱い程度で、単に入浴するだけでしたらあまり違いは無いように思われます(単に私が鈍感なだけかもしれません)。双方には木枠の湯口が設けられており、結構熱いが直手でも触れる程の源泉がチョロチョロと注がれていました。お湯はやや橙色を帯びた黄土色に濁り透明度は30~40cm、鉄錆系の金気味&匂い、土類系(特に石膏)の味と匂いが感じられ、キシキシとした浴感を有していました。先ほど双方に違いは無いと述べましたが、二つの湯口から出るお湯をよく比べてみると、大きな浴槽に注がれている湯の方が金気が強くて鮮度感も明瞭であり、さらには気の抜けたような炭酸のような味も含まれているように(私のデタラメな舌には)感じ取れました。金気を帯びて濁らせているのは、当地で古くから湧出する押立温泉源泉ですが、分析表を見る限りでは湧出温度が低いので、界隈の宿泊施設でも使われている表磐梯2号源泉を混ぜるか、あるいは加温するなどして温度調節しているものと思われます。押立温泉源泉は、分析表の数値からは想像できないほど溶けている物質量が濃いのか、お湯を強く濁らせているのみならず、指で簡単に拭えるほど浴槽の表面を滓が厚く覆っていました。
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内湯のガラス窓のすぐ外には小さな露天風呂が据えられていました。1人でいっぱいになっちゃいそうな大きさでして、こちらには無色透明でややぬるめのお湯が張られていました。おそらく表磐梯2号泉の単独使用かと思われます。かなりアッサリとして優しい質感のお湯ですが、肌の上ではツルスベと引っかかりが拮抗しており、少なくともツルスベに関しては重曹が影響しているのではないかと推測されます。
私はお風呂を利用している間、帳場で説明を受けた混浴露天風呂とはこのお風呂だと勘違いしてしまい、女性専用時間となる17時までの僅かな間にこちらへ入浴し、その後はひたすら内湯に籠もっていました。でも男湯からガラス窓を通して丸見えなこのお風呂を混浴(あるいは女性専用)にするはずありませんよね。おかしいなぁと思いつつ、お風呂から上がって、さっき潜った暖簾をよく見てみると・・・
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男女の間に小さい茶色の暖簾が下がっており、そこには「露天」と染め抜かれているではありませんか。大きな暖簾に目を奪われて、全くその存在に気付きませんでした。訪問先のことを何も調べず、無知のままで利用するから、こういう失態を犯してしまうのです。時刻はすでに18時を過ぎており、私もすっかり帰り支度を調えてしまいましたが、女性専用時間(17時半まで)はクリアしてるので、ちょっと見学させていただくことにしました。
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左右を塀で囲まれた通路を歩いて山の斜面を登ってゆくと・・・
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そこには、まるで池のような大きな露天風呂(野天風呂)が澄んだお湯を湛えていました。暗い中を安物のコンデジで撮影したため、画像がブレブレでごめんなさい。浴槽の横には篭が用意された東屋があるので、そこで着替えることが可能です。東屋の傍には小さな石臼のような水受けがあり、小さな筧から清らかな冷水が注がれていて、それを飲むこともできるようです。こちらの露天では浴室脇の小さな露天同様に無色透明の表磐梯2号泉を利用しており、岩風呂の奥にある湯口から注がれて、手前側のステップからふんだんに溢れ出ていました。湯口の傍らには昔懐かしいランプが置かれ、そこから放たれた淡い光がボンヤリと湯面を照らしていました。あぁこの露天の存在に早く気づいて入ってみたかった・・・。
ちなみにこの混浴露天風呂は体にバスタオルを巻いて入浴することも可能だそうですから、女性の方には利用しやすいかもしれませんね。
お湯佳し、佇まい佳し、とっても素敵なお風呂でした。次回訪問時は是非宿泊して館内でゆっくり過ごし、もう一つの内湯とともに、野天風呂への入浴を果たしたいと冀っております。
押立温泉
ナトリウム-炭酸水素塩・塩化物泉 34.5℃ pH6.5 38.5L/min(掘削自噴) 溶存物質1614mg/kg 成分総計1972mg/kg
Na+:274.2mg(60.59mval%), Mg++:35.8mg(14.96mval%), Ca++:76.9mg(19.49mval%), Fe++:2.5mg(0.45mval%),
Cl-:316.1mg(44.57mval%), SO4--:59.3mg(6.17mval%), HCO3-:600.9mg(49.23mval%),
H2SiO3:201.7mg, CO2:358.6mg,
表磐梯2号泉
単純温泉 50.3℃ pH7.8 312.5L/min(動力揚湯)
Na+:64.3mg, Mg++:10.7mg, Ca++:24.3mg,
館内の分析表では何故か陰イオンが省略されていましたが、某所にて掲示されているデータによれば以下の通りだそうです。
Cl-:20.3mg, HS-:0.6mg, S2O3--:0.9mg, HCO3-:270.1mg,
H2SiO3:169.0mg, H2S:0.1mg
(平成17年3月)
福島県耶麻郡猪苗代町大字磐根字佐賀地2556 地図
0242-65-2221
ホームページ
立ち寄り入浴10:00~15:00(1時間)
800円
シャンプー類・ドライヤーあり
私の好み:★★★