私はあまり冷鉱泉に惹かれないのですが、富士吉田の「不動湯」はいろんなところから良い評判が伝わってくるので、どんなところなのか実際に行ってみることにしました。下吉田の市街から明日見地区に達すると、辻々に「不動湯」の案内看板が立っているので、それに従って田舎道をどんどん突き進んでゆきます。徐々に道路は狭隘となって離合が困難となり、こんな山奥で道は間違っていないかと不安になること、ようやく一軒の宿が目の前に姿を現しました。狭い駐車場には車がぎっしり止まっており、人気の高さが窺えます。
玄関前には手水のような飲泉場があり、筧からちょろちょろと源泉が流れていました。
玄関前の掲示によると、燃料費高騰等を理由に今年の夏に200円値上げし、日帰り入浴料金が1000円となったんだそうです。数年前までは600円でしたから、短い間隔で600円→800円→1000円とかなり大幅な値上げが行われたことになります。
玄関に入って靴を脱ぎ、下足場とは反対側にある帳場前の券売機で料金を支払います。帳場付近の壁にはこのような簡素な分析表(昭和53年分析)が掲示されているのですが、館内に掲示されている分析表はこれのみのようでして、鉱泉に関する詳しいデータは得られませんでした。表に記載されているPH7.32mg/l って、おそらくpH7.32という意味なんでしょうね。その他はカルシウムイオン10.42mg/l, マグネシウムイオン5.35mg/l, 硫酸イオン2.56mg/l, 塩素イオン1.42mg/l, イオウイオン(註:硫化物イオンのことか?)0.76mg/l, 鉄・マンガンとも0.00mg/lとなっています。一般的な自然水と比べて非常に成分が薄く、いわゆる混じりっ気が殆ど無いピュアな水であると言えるのかもしれません。
帳場から案内表示に従って廊下を歩いてゆくと、休憩室と並んで暖簾を提げているのが新風呂の入口です。不動湯の鉱泉水は皮膚疾患、とりわけアトピーに効能があると評判なんだそうでして、噂を聞きつけた患者さんが津々浦々からこの一見宿へと集まってくるんだそうです。本格的な湯治場なんですね。この新浴場はそうした皮膚病の方専用の浴室なんだそうでして、私のような一般客は利用できません。
廊下をもう少し奥へ進むと、誰でも利用できる浴室がありました。
鉱泉の湯治宿ですから古く鄙びた室内を想像していましたが、予想に反して脱衣室は意外と広くて整然としており、利用者のマナーがしっかりしている共同浴場のような雰囲気でした。
室内には温度設定に関する案内が掲示されていました。
お風呂は内湯のみですが、大きな窓からは陽光が燦燦と降り注がれているので室内は明るく、浴槽のお湯もキラキラと光を反射していました。室内の壁タイルはベージュとサーモンピンクを混ぜたような暖色系に統一されている一方、浴槽は真っ青な寒色系となっており、霊泉の冷たく清らかなイメージを表しているかのようでした。
洗い場にはシャワーつき混合水栓が3つ設置されているのですが、配置レイアウトが悪いため、スペースの関係上、実質的には2人しか同時利用できません。
浴槽は2つに分かれており、大きな方は3人サイズ(詰めればその倍)で、お湯がしっかり加温されている湯風呂です。槽内循環(底から吸引、側面から供給)により加温されたお湯が供給されているほか、壁から突き出ている水栓からも冷鉱泉が注がれています。訪問時の湯加減は41℃位でしたが、一定間隔で作動するボイラーの運転状況により温度は39~43℃の幅で上下するようです。
一方こちらの小さな浴槽は水風呂でして、大きさとしては2人サイズ、冷たい鉱泉をそのまま溜めているのではなく、温めたお湯と混ぜて30℃くらいに上げて浴用にしているようです。湯風呂はごくごく普通のお湯ですが、この水風呂の鉱泉からはキリっと冴える鮮度が感じられます。
水風呂には2つの蛇口が設けられており、ひとつは加温、もうひとつは冷たいままの冷鉱泉です。無色澄明無味無臭で、とても柔らかくて癖が全く無く、飲んでみても味が殆ど感じられずにスゥーッと体の細胞に吸収されてゆくような不思議な感覚を覚えました。またこの「水風呂」では数分間じっと入浴していると全身に細かな気泡が付着しました。また湯上りには肌が艶に出てしっとりとした潤いが感じられました。
湯風呂・水風呂ともに少しずつですが、切り欠けからしっかりと溢れ出ていました。ただ、投入量が多くない上に、湯船もそれほど大きくないため、人が入って湯船のお湯が一旦大量に溢れ出てしまうと、思いっきり嵩が減ってしばらくはオーバーフローしません。
私が利用したのは平日午後4時という中途半端な時間でしたが、にもかかわらずお客さんがひっきりなしに出入りし、多いときには浴槽へ5人同時に入るような場面もありました。また私がロビーにいるときには帳場へ予約の電話が何本かかかっており、いかにこの鉱泉が人々からの信奉を集めているかがよくわかりました。
敷地内には硯川不動尊が祀られており、この不動の霊泉が上述のように皮膚疾患に効能があるとしてポリタンクに水を汲んで帰る客も多く、水汲み場には専門の係員が常駐しているほどです。なおポリタンクによる持ち帰りにも料金を要するそうですが、そのかわり無料の入浴券がもらえるので、私のように単に入浴するのではなく、水を持ち帰った方がお得かもしれません。
入浴料が1000円とかなり高いのにシンプルでこじんまりとした内湯しかないため、近くへ観光したついでにひとっ風呂浴びるために立ち寄るような施設ではないかと思いますが、つげ義春が愛したようなような鄙びた鉱泉の湯治宿風情が残っている施設であり、また実際に皮膚疾患に悩む多くの方から支持されている実績を有しているので、風情という意味でも効能という意味でも貴重な存在であるといえそうです。
泉質など不明
山梨県富士吉田市大明見4401
0555-23-9239
ホームページ
日帰り入浴8:00~16:30
1000円
ロッカー(無料)・シャンプー類・ドライヤーあり
私の好み:★★