温泉逍遥

思いつきで巡った各地の温泉(主に日帰り温泉)を写真と共に紹介します。取り上げるのは原則的に源泉掛け流しの温泉です。

湯郷温泉 療養泉

2014年01月25日 | 岡山県
 
拙ブログでは連続して岡山県美作地方の温泉を記事にしていますが、美作三湯のうち既に湯原温泉と奥津温泉を取り上げていますから、残すひとつである湯郷温泉を取りこぼすわけにはいきません。近年では女子サッカーの「岡山湯郷Belle」によって俄然知名度が全国区になったこの湯郷温泉ですが、その実は1200年以上の歴史を有する由緒ある温泉でして、開湯伝説に登場する白鷺にあやかって、温泉街の中心部には大規模な日帰り入浴施設「鷺温泉館」があり、私が当地を訪れた時にも入浴客が次々に施設へと吸い込まれていました。でも私はそんな人達を尻目に「鷺温泉館」の前を通り過ぎ、その奥側に隣接している「村湯・療養湯」へと向かいました。大きな括りで言えばこの「村湯・療養湯」も「鷺温泉館」の施設の一つなのですが、事前調査によれば、その館内にあるお風呂の規模やお湯の質は、「鷺温泉館」の本館とは全然違うらしいのです。


 
「村湯・療養湯」の傍にはちいさなお社があり、小祠の手前には温泉のお湯が流されて、お堀のようになっていました。


 
参考までに、画像左(上)が「鷺温泉館」、画像右(下)は「鷺温泉館」や「村湯・療養湯」の前にある「足湯」です。いずれも観光客で賑わっており、駐車場では他県ナンバーが目立っていました。


 
「村湯」と「療養湯」は同じ平屋の棟に入っているのですが、それぞれ別施設として扱うべきものでして、「村湯」はその名前からも想像できるように地元民専用で外来者はお断りのお風呂ですが、「療養湯」は文字通り温泉療養を目的としたお風呂であり、一浴のみの外来客も利用可能なんですね。というわけで私は後者へ入らせていただきました。両者とも玄関は共通しており、入館してすぐ右手に番台があって、その前に設置されている券売機で料金を支払います。下足を脱いですぐのところには飲泉場が設けられており、1リットル未満なら無料持ち帰りも可能です。



繰り返しますが、温泉入浴による療養(つまり湯治)を目的としたお風呂ですから、飲泉場の隣にはこのように入浴方法に関する細かな説明が掲示されています・・・と言いたいところですが、この文言って温泉分析表別表に書かれている「浴用の一般的注意事項」そのものでした。


 
お風呂は男女別の内湯が一室ずつ。露天などはありません(その手の設備を求める方は「鷺温泉館」を利用しましょう)。脱衣室にはロッカーや扇風機などが用意されていますが、あくまでササっと着替えるためだけのスペースとして考えられているのか、3人同時利用で窮屈になりそうな広さしかありません。
また壁には手書きの張り紙が何枚か掲示されているのですが、その中でも注目すべきは「せっけん・シャンプーのご使用は固くおことわりいたします」という文言でしょうね。浴用による療養が主目的なので、洗体や洗髪は「鷺温泉館」の本館に行ってくれ、ということなのでしょう。


 
浴室に入った途端、タマゴ臭がプンと鼻を突いてきました。早くもお湯に期待させてくれます。壁に木材を用いた古風な造りの浴室は、一見すると集落の共同浴場を思わせるような質実剛健な造りですが、(画像には写っていませんが)浴室内を見上げてみると伝統的な湯屋建築の様式が採り入れられており、湯気抜きを戴く天井が結構高く、その天井を横切っている梁には立派な材木が用いられていて、歴史ある温泉地の浴場として遜色ありません。なお洗い場にはシャワー付き混合水栓が1基取り付けられています。シャワーがあるとはいえ、上述のようにシャンプー類は使用不可ですから要注意ですね。
窓の下には大小に2分割された浴槽が据えられており、槽内にはモスグリーンとエメラルドグリーンという緑系濃淡の小さな丸いタイルが敷き詰められています。右側の大きな浴槽は3人サイズで、お湯はこの浴槽の右側より槽内投入されています。湯加減は40~41℃くらいで、いつまでも長湯できそうな心地良い温度でした。一方、左側の小さな浴槽は1人用となっていて、左右を隔てる仕切りの下に空いている穴を通じて、投入口のある右側浴槽よりお湯を受けているため、かなりぬるくなっていました。いずれの槽の縁からもお湯が溢れ出ており、れっきとした完全放流式を実現しています。



浴室内の壁には、掛け流しをアピールするボードが貼り出されていました。湯郷温泉には多くの旅館や入浴施設がありますが、その殆どは循環されているかそれに近い湯使いとなっているらしく、こちらのように(加温されていますが)加水循環消毒が一切ない放流式のお湯を使っているのは、非常に珍しいそうです。


 
浴室に漂うイオウの影響で、水栓金具は真っ黒に変色していました。美作の温泉は無味無臭でクセのないタイプが多いため、このお湯のように個性を主張してくるお湯に巡り会えると、とっても嬉しいものです。


 
お湯は無色透明ですが、湯中には大小様々なサイズがある羽根状の湯の華がたくさん舞っており、右側の浴槽から桶でお湯を汲んだだけで、このようにその黒い湯の華がたくさん採取できちゃいました。この湯の華を手に取り、指先で擦ってみると、指が黒く染まりました。硫化鉄なのでしょう。
もちろんイオウ臭は湯面からも漂っており、口にするとタマゴ味の他、硬水味+うす塩味+弱い甘味が感じられました。湯中で肌を擦った際に感じられたツルスベ浴感がとても心地よく、数分全身浴していると、体中に気泡が付着しました。上述のように湯加減は40~41℃ですから、湯船に浸かってから数分は長湯したくなるのですが、イオウによる血管拡張作用のためかパワフルな温浴効果が発揮され、意外にも長湯できなくなってしまう(体が音を上げ始める)のが面白いところです。このパワーこそ療養に有益な効果をもたらすのでしょうね。私個人としては、岡山県の温泉で最も好きなお湯となりました。


混合泉(湯郷鷺温泉第3泉源・平成源泉)
ナトリウム・カルシウム-塩化物温泉 40.5℃ pH8.4 370L/min(動力揚湯) 蒸発残留物1.81g/kg
Na+:370.0mg, Ca++:250.0mg, Mg++:0.2mg,
F-:6.5mg, Cl-:1010.0mg, SO4--:16.0mg, HCO3-:17.7mg, CO3--:2.1mg, HS-:0.4mg,
H2SiO3:43.7mg, H2S:0.0mg,
加温あり(入浴に適した温度に保つため)
加水・循環・ろ過・消毒なし

岡山県美作市湯郷595-1(鷺温泉館) 地図
0868-72-0279(鷺温泉館)

8:00~20:00 無休
600円
ロッカーあり、他備品類なし(石鹸・シャンプーなど使用不可)

私の好み:★★★
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般若寺温泉

2014年01月24日 | 岡山県
 
奥津温泉の中心部から吉井川の渓谷に沿って下ったところにある一軒宿「般若寺温泉」は、元々は天台宗寺院の宿坊として開かれたんだそうでして、その後昭和30年代に看板を旅館に変えて今に至っており、現在でも日中でしたらは日帰り入浴を受け付けているのですが、たとえ日帰りでも事前予約制となっているため、一日に入浴できるお客さんの数は限られている、少々ハードルの高い温泉であります。私が当地を訪れた日の午前中に、ダメで元々の覚悟で電話をかけてみますと、運が良いことに11:00か12:00なら大丈夫との返答をいただきましたので、11:00に伺うことにしました。
道路に面した駐車場に車を止め、その脇から伸びるアプローチを下ってゆきます。


 
翠緑の柔らかな光が美しい竹やぶを下ってゆきます。途中の立て札には「ご予約のお客様以外の入園はお断りします」と書かれていました。オイラは予約してあるから大丈夫だもん。


 
緩やかな坂を下りきったところには、とても平成の世とは思えない茅葺屋根の伝承建築が佇む風景が広がっていました。昔話の世界に紛れ込んでしまったかのような錯覚に陥りながらこの光景をカメラに収めていますと、私の足元をスルスルっと真っ黒なカラスヘビがすり抜け、一瞬その場で動きを止めて様子を窺った後、ゆっくりと竹やぶの方へ姿を消していきました。ネット上では番犬が来客に向かってけたたましく吠え立てるとの情報を得ていたのですが、この時は犬の咆哮など少しも聞こえなかったので、犬の代わりにこのカラスヘビが歩哨をしていたのかもしれません。


 
素晴らしくフォトジェニックな母屋です。とても平成25年に撮ったとは思えず、カラーよりもセピア色の方が似合いそうだったので、画像の色を変えてみましたがいかがでしょうか。縁側から声を掛けますと、ご主人が笑顔で対応してくださいました。
お風呂は内湯と露天があるのですが、その両方を1組だけに貸し切る方式のため、先客が上がってこないと私はお風呂へ行くことができません。この時も先客のご夫婦が時間より少々遅く出てきたために私の利用開始時間も遅れてしまったのですが、先客を待つ間にはとても物腰の柔らかなご主人とお話して色々と教えていただきました。曰く、この温泉は川のすぐ傍にあるため、上流のダムの放水量によってはすぐに川に呑み込まれてしまい、その都度備品類を高いところへ上げたり、水が引いたら清掃したりと、増水の度に苦労しているんだそうです。また内湯と露天で使用している源泉は3つあるのだが、その3つ以外にもこの辺りはあちこちでお湯が湧いているんだそうです(ただ浴用に常用できるほどではないようです)。


 
先客の方がようやく身支度を調えて出てきましたので、入れ替わりに私がお風呂へ向かいました。
奥津八景の一つである「鮎返しの滝」を右手に見ながら、まずは内湯へ。そういえば、ご主人曰く、この川岸には頻繁にオオサンショウウオが出没するんだそうですよ。



お風呂と言われなければ倉庫と勘違いしてしまいそうな、コンクリ造りの小さい質素な湯小屋。秘湯好きにはたまらない風情です。


 
1畳半程しかない狭い脱衣室には、スノコの上にプラ籠が置かれているだけですが、寧ろこのシンプルさは質素な湯屋の外観にマッチしていますし、室内はきちんと手入れされていますので、簡素ながらも好感が持てます。なお壁の一部は天然の岩肌の崖を活用しており、その下の小さな棚には壺に流木らしき枯れ枝を挿した飾り付けが置かれていました。
私がここで着替えを済ませて、全裸というまさに丸腰状態になったちょうどその時、壁の隅っこで何やら動く影を発見…。何とここにもヘビがいたのでした。そこここから温泉が湧き出る場所ですから、その温かさにつられてヘビが集まっちゃうのでしょう。とはいえ、ここは元々宿坊ですから殺生は禁物。ヘビさんも私の醜い体から目を逸らしたかったのか、壁と戸の隙間に体をねじ込んでシュルシュルと逃げていきました。


 
質素で地味な外観とは裏腹に浴室内は、峡谷の荒々しい岸壁が入浴客を威圧し、お風呂ではなく洞窟の中に潜り込んだかのような雰囲気でして、その天然の岩肌も上屋のコンクリもグレーであるため、室内を占めるそのモノトーンな色調が余計に迫力を強調していました。
室内にはシャワーが1基取り付けられており、お湯のコックを開けると源泉が出てきました。


 
崖下の湯船は石を敷き詰められた岩風呂であり、容量としては2人サイズ。このお宿で使用している3つの源泉のうち2本を混合した上で湯船に注いでおり、湯使いは加温加水循環消毒が一切ない完全掛け流し、浴槽縁より2筋に分かれて溢れ出ていました。無色透明、清らかに澄んだお湯はほぼ無味無臭でクセが無く、肩まで湯船に浸かって肌を撫でたりお湯を掻いたりしてみますと、優しい浴感とともに滑らかなトロミが感じられました。




 
つづきまして、一旦内湯を出てから湯小屋の外側を回りこんで、露天風呂へと向かいましょう。ちょうど湯小屋の真裏にあるのですが、湯小屋の下足場にはツッカケが用意されているので、スッポンポンのままツッカケを履いて移動すればOKです。川に向かって垂直に落ちている断崖絶壁の真ん中、岩壁をへつった狭い足場の先っちょに、角がとれた三角形の小さな浴槽が据えられています。湯船の大きさは2人しか入れない小さなものですが、あたかも山水画のような奥津渓の美しい景色と一体になれるこの露天風呂は、他に類を見ないほど素晴らしいロケーションであります。絶景のみならず、頭上に高く聳える絶壁の迫力や、ちょっとでもバランスを崩したら直下の川に転落してしまいそうなスリリングな雰囲気もたまりません。

この岩を穿って造られたプリミティブな湯船には、内湯にも負けず劣らずの澄み切ったお湯が張られており、言わずもがな完全掛け流しの湯使いです。トロミのある内湯に対し、こちらはサラサラとした爽快感が前面に出ていました。


 
3つある源泉のうち、この露天には露天専用の源泉1本のみが使われており、槽内供給によって湯船にお湯を張っています。私の入浴時において、その供給口付近では40.3℃でしたが、槽内では38.5℃まで下がっており、「風呂ってもんは熱くなきゃいけねぇんだ」と仰る頑固親父には物足りないかもしてませんが、不感温度帯に近いこの湯加減のお陰で、逆上せること無くじっくり長湯することができますので、私も長湯しながら何も考えずに、ただただ景色をぼんやりと眺め続けました。日帰り入浴では一組当たり1時間の時間制限があるのですが、この露天に浸かっていると、1時間なんてあっと言う間に過ぎちゃいます。


 
ちなみに現行の露天風呂の奥には、このような空っぽのコンクリの構造物があるのですが、これは旧浴槽跡のようです。


 
上述の通り源泉は3つあり、いずれも敷地内で湧出しているのですが、湧出温度が異なっており(低い方から39℃、40℃、43℃)、平常時は本文中で述べたように2本混合を内湯で、43℃の1本を露天で使用しているのですが、内湯用の2本は温度が高くないため、冬には露天を閉鎖して、温度が高い露天用のお湯を内湯にまわしているんだそうです。湯小屋の手前にはこのような配管が剥き出しになっており、各配管を辿ると湧出地に行き着きます。



あまりに開放的で素敵な露天だったので、ついつい自分撮りしてしまいました。私はいつものように一人で利用しましたが、ここは是非ご夫婦やカップルなど、仲睦まじい人同士で湯浴みしていただきたいですね。こんなロケーションを有した開放的な貸切露天風呂なんて、個性あふれる温泉が余多ある日本でもなかなかお目にかかれません。敢えて余計な設備を排しているからこそ、その魅力が際立つのでしょう。


温泉分析表掲示なし

津山駅より中鉄北部バスの石越・奥津温泉方面行で「小畑」下車、徒歩10分(700m)
(奥津温泉の温泉街中心部より徒歩約20分(1.5km))
岡山県苫田郡鏡野町奥津川西20  地図
0868-52-0602

日帰り入浴10:00~16:00
1000円/1時間
事前予約制
シャンプー類あり

私の好み:★★★
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奥津温泉を散歩

2014年01月23日 | 岡山県
前回取り上げた「東和楼」のお風呂から上がった後、クールダウンを兼ねて温泉街をちょこっと散歩しました。


 
 
温泉街の中心部にある日帰り入浴施設「花美人の里」。静かで鄙びた山村の温泉街には不釣り合いな、えらく立派な建物なのですが、この豪勢なハコモノはダム建設に伴う地域対策事業として建てられたものなんだそうでして、木材や瓦などを多用したモダン和風なコンセプトによって周辺環境との調和を図っているにもかかわらず、なにしろ規模がデカいためにここだけ存在感が突出しており、どうしても違和感が否めません。尤も、お金をかけている施設ですから、館内はとっても綺麗で使い勝手も良いらしく、お湯のクオリティにこだわらない観光客には受けが良いそうです。事前情報によれば湯使いに難があったので、私は外観を見学するに留めて利用しませんでした。


 

「花美人の里」の駐車場には温泉スタンドがあり、スタンドを覆う上屋には大きく「美人湯」と記されていました。奥津温泉は「美人の湯」と称されているので、てっきりアピール目的でそのフレーズを扁額に書いただけなのかと思いきや、このスタンドで汲めるお湯の源泉名が「美人湯」なんだそうです。施設内のお風呂は加温循環消毒していますが、このスタンドでは加温加水循環消毒が一切ないクリアなお湯ですから、タンクをお持ちの方は、お湯を持ち帰ってご自宅のお風呂で沸かした方が良いかもしれませんね。



奥津地区の真ん中を貫く吉井川にかかる橋をわたると、橋の直下に湯船を発見。


 
その湯船へアプローチする階段の入口には「足湯 Ashi-yu」と記された看板が立っていました。てことは、この露天風呂は足湯であって、全身浴は難しいのですね。実際に湯船のお湯に手を入れてみますと、全身浴にはちょっとぬるかったので、確かに足湯がちょうど良いのかもしれません。でも足湯という語句に付するアルファベットが"Ashi-yu"でいいのかね…。単に読みをローマ字にしただけじゃ、日本人以外わからないでしょうに…。


 
橋を渡った対岸にも同じような露天の湯船があり、こちらには傘のような屋根が掛けられていました。またその傍らには「奇習 足踏せんたく」に関する解説看板が立てられていました。当地ではその名の通りに温泉を用いた足踏み洗濯が伝統行事として伝えられており、鏡野町役場の観光紹介サイトから解説文を抜粋しますと…
「足踏み洗濯」は奥津橋のたもとで行われる奥津温泉ならではの風習で、3月下旬~12月上旬の日曜日と祝日のAM8:30から約15分間観光用に実演が行われています。「足踏み洗濯」は、かつて熊や狼を見張りながら川に湧き出る湯で洗濯していた名残で、姉さんかぶりに赤い腰巻きもかわいらしく、器用に足先で洗うしぐさはダンスをしているかのようで、奥津温泉のシンボル的光景として、観光客に親しまれています。(出典:鏡野町観光ナビ)
とのこと。訪問したのは平日でしたので、その光景を目にすることはできませんでしたが、この露天浴槽周りが伝統行事の舞台であることは間違いなく、その事実を知った私は、行事の様子を想像しながらその場で足踏みしてみましたが、センスが欠落しているために、足踏みというよりおしっこを我慢してモジモジしているような格好になってしまいました。


 
露天浴槽の前には腰掛けが据え付けられており、そのサイドに立てられた衝立には「入浴することはできません」と明記されていました。対岸の足湯同様、ここでの入浴は難しいようです。実際に全身浴しようとしても、橋の上など周囲から丸見えですから、よほど羞恥心をかなぐり捨てられる人でない限りは入浴できませんね。


 
露天浴槽の傍にはこのようなコンクリ躯体の小屋があり、内部には「洗濯場」と称する共同浴場があって、以前は外来者でも立ち入ることができたんだそうですが、残念ながら現在は暗証番号式のロックで施錠されており、中に入ることはできませんでした。



橋をわたると、まっすぐ伸びる道の左側には老舗旅館が軒を連ねています。旅館は手前(橋側)から「奥津荘」「東和楼」「河鹿園」の順に並んでおり、それらの伝統建築が風情ある景観を作り出していますが、「東和楼」の記事でも軽く触れている通り、「河鹿園」は残念ながら閉館してしまいました。


 

温泉地名を屋号にしている「奥津荘」には、津山藩の藩主や家臣が湯浴みするために鍵をかけて一般民衆の入浴を禁じたという「鍵湯」があり、当初の予定ではその「鍵湯」に入るつもりだったのですが、訪問時は玄関のカーテンが閉められており、残念ながら入浴することができませんでした。


 
温泉街から坂を登って国道のバイパスへ向かうと、温泉街を見下ろす位置に道の駅「奥津温泉」がありますので、ここで昼食を摂ることにしました。どんなメニューがあるのか楽しみにしながら食堂「おばちゃんの味 温泉亭」へ入りますと、いきなりレジで1200円の先払いを求められました。急なことで状況が把握できずに店内をキョロキョロしていると、お客さんは皆お皿を片手にして、中央のテーブルに並べられた料理をよそっているではありませんか。なるほど、ここはバッフェ方式なのか。しかもお昼の時間からちょっと遅い時間帯にもかかわらず、空席待ちをしなきゃいけないほどの大盛況で、私が席を確保して食事をしているときにも、先客と入れ替わりで、バスに乗ってやってきたお婆ちゃん達が大挙して入店してくるのです。鄙びた山村の静けさが嘘のように大賑わいなこの食堂なのですが、それもそのはず、並べられる料理は地元の食材を使った家庭料理でして、その種類が実に多種多彩、しかも次から次に厨房から提供されるので、いつでもできたての料理をいただくことができるのです。入店時は料金設定に小首を傾げてしまったのですが、いただいているうちにその価値に納得し、食後は十分満足して退店しました。一般的な食堂のようにメニューを決めてしまうと、注文した料理以外は口にできませんが、このようにバッフェ式にすれば、客は好きなモノを好きなだけ食べられますし、お店側も地元の多種多様な食材をいっぺんにアピールできますから、双方にとってかなり合理的なんですね。是非他地域でもこのスタイルを採用していただきたいものです。
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奥津温泉 東和楼

2014年01月22日 | 岡山県
 
美作三湯の一つである奥津温泉は、吉井川に沿った鄙びた山村に中小規模のお宿が点在する歴史ある温泉地でして、その中心部には奥津荘・東和楼・河鹿園(※)という3つの老舗旅館が軒を連ねているのですが、今回はその真ん中に位置している「東和楼」で日帰り入浴してまいりました。重厚感のある伝統建築の旅館であり、その佇まいを目にした時には入浴できるか不安になりましたが、玄関前をよく見ますと「天然岩風呂 御入浴 大人800円 小人400円 お気軽にお入り下さい」と書かれた札が立っており、日帰り入浴も歓迎している気配が感じられたので、安心して訪うことができました。
(※河鹿園は残念ながら2012年3月末を以て閉館)



帳場にいらっしゃった大女将と思しきお婆ちゃんに日帰り入浴をお願いしますと快く対応してくださり、私が初訪問だとわかると、お風呂場の途中まで案内してくださいました。


 
ロビーの奥へ進むと吹き抜けの突き当たりとなり、その右手には「家族湯」があるのですが、日帰り入浴の私はその「家族湯」には向かわず、左に折れて階段を下ってゆき・・・


 
漆喰で塗り固められたドーム天井のトンネルを潜ります。このトンネルは薄暗い上に意外と長いので、閉所恐怖症の人はちょっと怖いかもしれませんが、いつまで経っても精神年齢が子供のままの私は、軽い川口探検隊のような気分を楽しめました。


 
ドーム状のトンネルを抜けた先は、矩形の通路が更に奥へとつながっており、壁にはレトロ風情たっぷりの古い鏡が埋め込まれていました。単なるコンクリの躯体と思いきや、床には丸い小さなタイルが敷き詰められており、さりげない装飾が施されているんですね。この通路は若干曲がっているのですが、これって通路を覆う周囲の硬い岩盤を避けているためなのでしょうか。実際に左側の壁からは岩がちょこんと突き出ていますね。


 
長い通路の突き当たりが浴室の入り口。左が女湯で右が男湯。浴場ゾーンは木造なのですが、相当古くてあちこちが草臥れていました。コンパクトな脱衣室は棚があるのみで、至ってシンプルなのですが、狭い室内にはなぜか扇風機が2台も用意されていました。そんなに涼む必要があるのかな。



浴室は男女別の内湯となっており、浴室自体はかなりコンパクトでして、3~4人以上の同時利用だと窮屈かもしれません。側壁は腰部が人研ぎ石でその上が白いモルタル、木製の窓枠は朽ちて塗装が剥がれ、周囲に張られている目隠しの簾もボロボロといった感じで、狭い浴室ゆえにガタピシ具合がついつい目についてしまうのですが、床や浴槽は脱衣室よりやや低い位置に設けられており、低い位置へ下ってゆく浴室の温泉は良泉である場合が多いので、この造りを目にしただけで期待に胸が膨らみ、浴室の全体的な草臥れ具合が寧ろ趣きのある風情のように感じられました。


 
画像左(上)は室内を反対側から撮ってみたものです。床面積の半分以上は岩風呂によって占められており、完全に脇役に徹している洗い場の床はタイル貼りですが、浴槽をはじめとして至る所に岩盤がせり出ており、例えば脱衣室と浴室の間にも赤っぽい岩盤がむき出しになっていました。また洗い場といってもこのレトロな浴室にはシャワーなんて現代的な設備はありませんから、かけ湯だろうがシャンプーだろうが、桶で湯船のお湯を汲むことになります。また片隅にはタイル貼りの流し台があって、水の蛇口が一つ取り付けられていました。


 
さて「東和楼」名物の天然岩風呂に入りましょう。天然の岩盤が剥き出しとなっているこの浴槽はかなり深い造りになっているので、その深さに慣れないうちは、手前側に設けられた扇型のステップを使って入浴しました。容量としては4人サイズといったところで、湯中で露出している岩の荒々しさがとても印象的なのですが、一部はコンクリで固められており、底面の凸凹を均して安全に入れるよう配慮されていました。


 
底から突き出ている先っちょの潰れたパイプよりお湯が噴き上がっており、ここがメインの温泉供給源かと思われますが、底に這わされているそのパイプの上流を辿ってみると、脱衣室寄りの女湯との境界にその根元らしき箇所があり、この周辺の岩盤からはプクプクと泡が上がっていました。ということは、この辺りからも源泉が湧出しているってことでしょうか?


 
お湯の供給量はとっても豊富で、浴槽縁より床タイルへじゃんじゃんオーバーフローしており、その溢湯が流下してゆく湯尻側の排水口では女湯のオーバーフローも合流するため、用水路を彷彿とさせる、とても温泉の排湯とは思えないほどの水量が捨てられていました。こりゃスゴイぞ。



とても清らかで癖がなく優しいお湯は無色澄明無味無臭。湯加減は42~3℃。完全掛け流しの大量供給大量排出ですから、鮮度感は抜群!!。2~3分ほど全身浴していますと肌にしっかりと気泡が付着し、そもそもの優しいフィーリングにこのアワアワが相俟って、羽毛に包まれているような優しく軽やかな感覚が入浴中の我が身に伝わってきました。またアルカリ性単純泉らしいツルスベ浴感も実に心地良く、恰も化粧水の中に浸っているかのようでした。さすが「美人の湯」と称されるだけのことはありますね。言わずもがなですが、歴史ある温泉のクオリティは伊達じゃありません。


アルカリ性単純温泉 42.6℃ pH9.2 105L/min 溶存物質143.6mg/kg
Na+:26.657mg(72.19mval%), Ca++:6.146mg(19.09mval%),
Cl-:12.070mg(21.20mval%), SO4--:24.179mg(31.45mval%), HCO3-:103.364mg(34.05mval%), CO3--:3.126mg,
H2SiO3:23.266mg, CO2:0.048mg,
(昭和37年5月7日)

津山駅より中鉄北部バスの石越線で「奥津温泉」下車すぐ
岡山県苫田郡鏡野町奥津53  地図
0868-52-0031
ホームページ(山の温泉ガイド)

日帰り入浴10:00~15:00
800円
シャンプー類あり、他備品類見当たらず

私の好み:★★★
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湯原温泉をお散歩

2014年01月20日 | 岡山県
 
湯原温泉の温泉街をちょっとお散歩してみましょう。当地は旭川に沿って細長い温泉街を形成していますが、その河原には無料駐車場が整備されており、収容台数も多いので、ドライブの途中でちょっと立ち寄るにも便利ですね。


 
岡山県屈指の温泉地であるこの温泉街には約20軒の旅館が軒を連ねているんだそうでして、宿と宿の間を埋め合わせるように飲食店や土産物店なども店を構えていましたが、全国の温泉街と同じくこちらも斜陽の影が差しており、閉まりっぱなしのシャッターや廃墟となった旅館も所々で見受けられました。そんな中で燦然と存在感を放っていたのが、「千と千尋の神隠し」のモデルになったという老舗旅館「油屋」でして、その麗美な純和風建築の前を通ったときには、カメラを構えずにはいられませんでした。


 
「油屋」付近にある「薬師堂」の手水には、温泉が注がれていました。当地の豊富な湯量を誇示しているようでもあります。



メインストリートからちょっと離れると、昭和から時が止まっているかのような佇まいの食料品店を発見しました。地元客のみならず、自炊する湯治客も利用するのでしょうか?


 
民俗学が好きな私は「湯原温泉民俗資料館」を見学したかったのですが、残念ながら訪問時はお休みで、指を咥えて外観を眺める他ありませんでした。この温泉街には足湯があちこちに点在しており、この資料館前にも立派な足湯が設けられていました。



川原に戻ってきました。この川原にも足湯があるんですね。開放的な環境のもと、山の緑と旭川の流れを眺めながら浸かれる、なかなか魅力的な足湯であります。



川原の足湯の傍に、何やら怪しげなグリーンのテントを発見。


 
そのテントに提げられている札には「ここは会員制のお風呂です。会員以外の方はご遠慮下さい」と書かれています。ということは、このテント内は会員(おそらく地元住民)向けの共同浴場なんですね。



さすがに他所者の私は利用できませんが、テントの中を覗くとどなたもいらっしゃらなかったので、ちょっとだけ見学させていただきました。内部には大小に2分割されたコンクリ造りの立派な浴槽が据えられており、(画像には写っていませんが)脱衣スペースにはステンレス棚が用意されており、浴槽にはステンレスの手すりまで設置されていました。なかなか本格的なお風呂じゃありませんか。どうせならテントじゃなくてちゃんとした上屋を拵えれば良さそうなものですが、川原という場所柄、ビルト・アンド・スクラップが容易な構造の方が合理的なのかもしれませんね。またお風呂はひとつしかないため混浴ですが、気心知れたメンバーしか利用しないのでしょうから、男女を分けなくても問題ないのでしょうね。日没後に再度こちらへ訪れてみると、実際に中で入浴している方がいらっしゃいました。私が入れなかったのは残念ですが、温泉と地元の方の生活が密接に結びついている光景を目に出来ただけでも、私の温泉欲は十分に満たされました。
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