
釧路湿原北部に位置する鶴居村は、その名の通りに特別天然記念物であるタンチョウヅルの生息繁殖地でして、私が訪れた2013年晩秋の某日も、村内各地の畑ではツルたちが群れをなして餌を啄んでいました。本州で生活する私にとってタンチョウヅルは極めて珍しく、このような群れと遭遇できるのは幸運なことなのかとおもいきや、車を走らせるとあちこちでこの程度の群れに出会えるので、次第に有り難みが薄れていき・・・

しかも秀麗な姿で飛行する姿を想像していたら、上画像のように、呑気に道路を闊歩するツルもいて、私が近づいても逃げる素振りを見せません。絶滅が危惧される野生動物なんだから、もうちょっと人間を警戒してほしいものですが、ツルからはそうした緊張感がちっとも微塵も伝わってきません。センシティブな野生動物をやっとのことで観察できてこそ希少価値を感じられるのですが、こうして緊張感なく安々と出会えてしまうと、何だか拍子抜けしてしまいますね。もっとオイラをジラしてくれなきゃ有り難みが薄れるよぉ…。熱心な保護活動によって近年は生息数が増えているそうですから、私のみならず当地を訪れる観光客は当たり前のようにツルと出会えるのでしょうし、いわんや当地に暮らす村民にとってはツルなんてちっとも珍しくないのでしょう。けだし、都会人がヒヨドリやムクドリを見るような感覚なのかもしれません。いや、特別天然記念物と都会の野鳥を一緒にしては、ツルに失礼か。

さて、こんなツル達の楽園である鶴居村には濃いモール泉が湧いていますので、モール泉が大好きな私にとっても楽園同然の場所であります。今回は村内にいくつか存在する温泉施設のうち、「鶴居ノーザンビレッジ ホテルTAITO」で立ち寄り入浴してまいりました。村の中心部に位置しており、欧風の瀟洒な外観が印象的です。

ホテルのオーナーさんはプロカメラマンなんだそうでして、館内には美しいタンチョウの写真がたくさん飾られていました。近年はカメラの性能が向上して、下手な素人でも綺麗に撮れるようになったとはいえ、プロの作品には美しさ・構図・迫力、そのどれをとっても全く敵いません。足元にも及びません。カメラマンの才能には憧憬の念を強く抱かざるを得ませんね。
フロントで入浴料金を直接支払い、小さな物販コーナーを通り過ぎた先にある浴室へと向かいます。

こちらのホテルは外観が瀟洒であるのみならず、館内のお手入れもとても良く行き届いており、居心地が良いんですよね。脱衣室も明るく清潔感がみなぎっており、ロッカーやドライヤーなどひと通りのものが備わっているので使い勝手もまずまずでした。

明るく広い内湯浴室は大きなガラス窓を斜辺とした三角形のような形状をしており、その窓に面して15人近く同時に入れそうな容量の主浴槽が据えられています。その主浴槽は、縁に御影石が用いられており、槽内はタイル貼りです。湯使いは完全掛け流しとなっており、三角形斜辺の中央に立つ柱に設けられた湯口より源泉が投入され、左右両端の排水口より排湯されていました。湯船では41~2℃という絶妙な湯加減が維持されており、その心地良い湯加減ゆえ、利用客の多くはこの湯船でじっくり長湯していらっしゃいました。室内にはモール泉の芳香が充満していましたので、その香りもお客さんを室内に引き止めるのに一役買っていたのかもしれません。
湯船の右側には洗い場が配置されており、シャワー付きのカランはオートストップ式で、お湯(真湯)のみが吐出される単水栓が9基並んでいます。この他、浴室入口傍には上がり湯用の小さな枡が設けられていたり、また室内左側にはサウナや水風呂があったりと、大きさや明るさのみならず、設備面でも多くのお客さんが満足できるような設計がなされていました。

続いて露天風呂ゾーンへ。周囲を塀で囲ってあるため、遠くの景色を眺めることはできませんが、並木の緑が清々しい塀の内側はガーデンのような雰囲気が作られており、余裕のある広さが確保されているため、閉塞感とは全く無縁であり、森の中の庭で寛いでいるような爽快な気分に包まれました。
壁に立てられた札には「露天風呂ははっ葉(ママ)くんや虫さんたちも大好きなのでときどき入りに来ます」という「手のひらを太陽に」的な世界観にも似たお知らせが記されているとともに、お湯は循環の無い天然温泉100%であるから「純生をグイっと一杯おやり下さい」と、まるで生ビールを飲むかの如くお湯を飲んでみてほしいというオーナーさんの呼びかけも記されていました。私がこの湯を飲んだことは言うまでもありません。

露天風呂ゾーンには岩風呂の主浴槽の他、このように一人サイズの樽風呂も用意されており、こちらにも混じりっけのない100%の温泉が注がれています。樽は本物の木で作られており、腐食による溶解を防ぐためか、縁には配管カバーが被せられていました。木の樋から落とされるお湯は後述するする主浴槽のお湯と同じなのですが、投入量が少ないためか、樽風呂の温度は40℃あるかないかという、ぬるめの設定になっていました、冬季には加温されるそうですから、この日はまだ加温されていなかったのでしょう。

露天風呂の主浴槽は岩風呂で、湯口から落とされるお湯は泡を伴っており、湯面にもその泡が広がっていました。美しい琥珀色のお湯は典型的なモール泉であり、立て札にあったオーナーさんの呼びかけに応じて湯口のお湯をグイっと飲んでみますと、タマゴ味や清涼感のあるほろ苦みが口腔内に広がり、(アブラ臭+タマゴ臭+天然ガス臭)÷3と表現したくなるモール泉らしい芳醇な匂いが鼻へと抜けていきました。

香りや味のみならず、浴感も非常に素晴らしく、お湯につま先をちょこっと入れただけでモール泉らしいツルスベ感がわかっちゃうほど、この手のお湯ならでは爽快な浴感がはっきりと肌に伝わってきます。また湯船の湯面を覆うほどの気泡は入浴中の私の肌にも付着し、全身泡だらけになりました。ヌルヌルを伴うツルスベ浴感は十勝川温泉などよりも強く、クレンジング効果も存分に発揮され、まさに美人の湯、湯上がりの爽快感も極上です。十勝平野に点在するモール泉と比較すると、こちらのお湯の色はやや赤みが強く、金気が弱いのですが、いわゆるモール的な匂いや味が強くて浴感も明瞭に現れているように感じ取れました。モール泉らしい特徴が濃く現れているのです。
外気の影響を受けるためか、露天風呂は内湯よりもぬるい41℃前後の温度でしたが、冬季には加温されるとのこと。尤も、この日のぬるめの湯加減は私が好む長湯仕様でありますから、濃いモール泉に体がふやけるまでじっくり入り続けさせてもらいました。というか、あまりに良いお湯すぎて、後ろ髪が引かれてしまい、湯船から出ることができなかったのです。

鶴居村ではチーズが名物のようですが・・・

湯上がりにはチーズではなく、ソフトクリームをいただきました。このソフトクリームが篦棒に美味い! 我が人生で3本の指に入るほどのうまさでした。建物は綺麗だし、お湯は最高、それでいて食欲までも満たしてくれるという、実にブリリアントなホテルなのでした。
ナトリウム-塩化物・炭酸水素塩温泉 43.5℃ pH9.0 400L/min(動力揚湯) 溶存物質1.149g/kg 成分総計1.149g/kg
Na+:375.7mg(97.73mval%),
Cl-:378.7mg(63.80mval%), HCO3-:221.9mg(21.74mval%), CO3--:59.2mg(11.77mval%),
H2SiO3:76.7mg, HBO2:12.0mg, CO2:0.0mg,
冬季は露天風呂のお湯を加温することがある
北海道阿寒郡鶴居村鶴居西1丁目5
0154-64-3111
ホームページ
日帰り入浴11:00(日曜祝日は10::00)~22:00(受付21:30まで)
500円
ロッカー(100円リターン式)・シャンプー類・ドライヤーあり
私の好み:★★★