どうぶつ番外物語

手垢のつかないコトバと切り口で展開する短編小説、ポエム、コラム等を中心にブログ開設20年目を疾走中。

ポエム132 『哀愁の桃色昼咲き月見草』

2016-09-04 23:36:39 | ポエム

 

     桃色昼咲き月見草

    (城跡ほっつき歩記)より

 

 

うっすらと頬をピンクに染めて

桃色昼咲き月見草は民宿の娘のようだ

御宿の夏は潮の香りが満ち

客の帰りを待って花も娘も華やぐ

 

恋の期待と青春の哀愁が

どこからともなく流れてくる

月の砂漠で出会いがあったとか

漁船の陰で逢瀬があったわけでもなく

夕凪が運ぶ潮の疼きが已まないのだ

 

暮れなずむ砂浜は墨色に埋もれ

外側には濃緑の松林が立ちはだかる

海水浴客と漁師は坂のある道で交差し

互いに互いを意識する

 

さしもの太陽も一筋の流血となり

青春の記憶が海の余光を掻き毟る

ひとり橋のたもとに佇み

船の航跡を眺める若者を

宿の娘は門口から密かにうかがう

 

美代子 お父さんが呼んでるよ

ぼうっとしてないで早く皿を並べてくれ

配膳を指示する民宿のオヤジは

朝には漁師に早変わりするのだ

 

若者が戻ってくると娘もピンクに輝く

船を眺めていた青年は

桃色昼咲き月見草の愛らしさに気づく

メキシコ記念塔への道すがら

道端の草むらで早くも虫の音を聴いた

 

始まりは終わりの始まり・・・・

誰かが口にした呟きが潮騒となる

御宿にひらいた桃色昼咲き月見草は

夜の花火となって砂浜に飛び散るのだ

  

  


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4 コメント

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頭が重たいのですけど (塚越和夫)
2016-09-05 20:50:00
この植物はマツヨイグサの仲間なのですが、ほかの仲間とは異なり日中に開花する多年草で北米からの外来種とされています。

園芸用に栽培されていることもありますが、風で飛ばされた種が道端などで自生して小さな群落を形成しているのをよく見かけます。

そうした群落は余り巨大化することもなくかといって消滅するようなこともなく、いつも数株ほどの規模で命脈を保っているようです。

朝夕の気温に秋の到来を予感する、ちょうど今くらいの時候にさしかかる頃にふっと姿を見失ってしまう多年草でもあります。

今回も素敵なポエムの題材としてご利用いただき御礼を申し上げます。

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秋の気配を感じて・・・・ (tadaox)
2016-09-06 00:08:06
(塚越和夫)様
いつも画像を提供していただき、ありがとうございます。

解説によりますと、園芸種が野性化して小さな群落を形作っているようですね。
その成り立ちを知って、この植物がよけいに愛しく感じられました。

マツヨイグサの仲間であるせいか、花など本来の風情を残していて、名前から受ける違いをさほど感じませんでした。
ある意味、なが~い名称をつけた人間の方に、昼咲きに対する戸惑いとこだわりが感じられて、可笑しかったです。

その花たちも、秋の気配を感じていつの間にか姿を消す様子が、絶妙の表現によってしみじみと胸に染みわたりました。
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過激すぎて (知恵熱おやじ)
2016-09-10 06:56:25
何だか単に夏と呼ぶにはあまりにも過激化してやっと終わりそうな季節

こんなのが何年か続いたら、そのうち夏の定義が変わってしまうかも

ずれ込んでいくお秋の定義も・・・

いったい私たちの地球はどうなっていくのでしょうかね
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荒れ気味の気象、失われる季節感 (tadaox)
2016-09-10 17:06:53
(知恵熱おやじ)様、この調子だと日本列島どこに住んでも災害の心配ばかり・・・・。
季節の移り変わりも毎年イレギュラーな印象で、四季の行事もしっくりこなくなりました。

お月見はちゃんとやれるのかな? 七夕はダメだったような気もするし、それでなくても季節感が失われ、あらゆるところで秩序がなくなっていく。

当分守りの姿勢で生きていかざるを得ないのではないでしょうか。
皆さん夏の疲れが出る頃ですので、御身大切に。
ありがとうございました。
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