伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。2022年から3年連続目標達成!

最期の旅、きみへの道

2008-10-19 18:22:36 | 小説
 突然あと1ヵ月の命と宣告された主人公とその妻のその1ヵ月を描いた小説。
 この種の作品が通常かなり頭を悩ます、それが現実的に見える設定を、完全に省略して、「原因不明の不可解な病で、いまだ治療法も見つかっていなければ、今後見つかる見込みもない」(10頁)、「伝染性の病ではない」「確実に死をもたらす」(17頁)と、それだけ。難しいことは考えたくないけど、空想としてそういう条件に追い込まれたときの夫婦の美しい物語を書きたかった、それだけなんでしょうね。
 で、主人公アンブロウズ・ゼファーは、仕事を放り出して、想い出の地をリストアップして、アルファベット順に妻と2人でめぐる旅に出ます。旅の前半は、かなりむりやりにアルファベット順に都市をめぐって(アムステルダム→ベルリン→シャルトル→ドーヴィル:英仏海峡→エルバ島はやめてエッフェル塔→フィレンツェ→ギザ→ハイファは断念→イスタンブール)想い出や思いつきのエピソードが語られます。途中からアルファベットに沿った現実の旅は断念してロンドンに戻り、友人と会ったりしながら、こじつけ的にアルファベットのエピソードが続きます。
 こうやってこじつけのアルファベットを続けて、最後に行き着く先はというのが、結局それを書きたかったのねというお話です。
 しかし、訳で主人公の名前アンブロウズ・ゼファーが、前半ではゼファー(Zephyr)だけアルファベットが振られ、アンブロウズ(Ambrose)は最後までアルファベット表示されません。妻の名前のザッポーラ(愛称ジッパー)・アシュケナージ(Zappora Ashkenazi、Zipper)に至っては最後にジッパーの方だけアルファベット表示されますが正式の名前は全然アルファベット表示されません。原書の読者には最初から開示されている情報ですし、主人公(たち)がアルファベット順にこだわる理由も、その名前(夫のイニシャルがA.Z.妻のイニシャルがZ.A.ですからね)に由来していることは明らかですから、これを振らないのはかなり不親切です。 ラストとの関係で隠したかったというのなら、アルファベットは振らないで終盤に「A・ゼファー」「Z・アシュケナージ」(156頁)と中途半端にイニシャルを出しているのは変ですし、だいたいそれならこういう日本語タイトルつけないでしょ。そのあたり訳者が何を考えたのか私には不可解でした。


原題:The End of the Alphabet
C.S.リチャードソン 訳:青木千鶴
早川書房 2008年8月25日発行 (原書は2007年)
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