伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。2022年から3年連続目標達成!

フェルメール論 神話解体の試み[増補新装版]

2008-10-26 18:01:16 | 人文・社会科学系
 17世紀のオランダ画家フェルメールについての研究書。
 現存する絵が三十数点しかなく、著書もなく、情報が少ない謎の画家とされていますが、著者は17世紀の画家ではそれが普通で、フェルメールだけが埋もれていて再発見されたという「神話」は、画商の思惑で作られてきた疑いがあり、行政文書などからフェルメールの人生をたどることはそれなりに可能として種々の論考がなされています。
 そして、作品数が少ないだけに、それぞれの作品についてテーマや技法について詳細な考察が加えられています。X線や剥落した絵の具の分析、修復時の情報等からの検討もあり、当時の絵画技術やフェルメールの試行錯誤がおぼろげではありますがかいま見えて、美術好きには刺激的です。
 そして、フェルメールを賞賛するだけでなく、晩年の作品群を「停滞」と明言し、簡略化、硬直化、構図の破綻などもはっきり指摘している点に共感します。ピーテル・デ・ホーホなど他のオランダ画家がフェルメールの作品を模倣したように述べられることが多いがX線や作成時期の考察からむしろフェルメールがデ・ホーホの作品を見て作成したと思われるとか、フェルメールの名が付くかどうかで展覧会の動員が大きく変わるとか、17世紀オランダ画家の中でフェルメールばかり賞賛したがる傾向への苦言も見られ、なるほどと思いました。
 「牛乳を注ぐ女」にしてもアムステルダム国立美術館の常設展では夕方に行けばたいてい1人きりで心ゆくまでゆっくりじっくり味わえるのに、2007年の日本の国立新美術館でそれ1点でフェルメールの冠をかぶせた展覧会では身動きできないほど人が押し寄せるとかいう指摘も。一番新たに発見されたフェルメール作品とされ、2004年に科学調査と洗浄の後に権威筋が真作と太鼓判を押して約33億円で落札され2008年東京都美術館のフェルメール展にも出品されている「ヴァージナルの前に座る若い女」についても「フェルメール真作説に対して違和感をぬぐい切れない」とあえて述べ続ける姿勢も面白い。
 専門書で、特に第1章から第3章の美術史・フェルメールの生涯の史実関係の記述や資料部分は読み通すのが辛いですが、美術ファンには興味深い1冊です。


小林頼子 八坂書房 2008年7月30日発行 (初版は1998年)
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