伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。2022年から3年連続目標達成!

望月青果店

2011-11-19 23:25:08 | 小説
 岡山県のひなびた温泉街の青果店の娘として育った鈴子が、病的な近視で「あたしはつぶれかけの果物屋と結婚と鈴子にな、乙女の青春をまるごと奪われたんじゃ」などと憎まれ口を叩き続ける母親を嫌って都会に出て、中年になり盲導犬訓練士となってそこで知り合った目が見えないピアニストの誠一郎と結婚してアメリカに移住し平穏な結婚生活を送っていたところに、母親の病状が悪化して帰国しようとするが、記録的な豪雪の下その計画は危うくなり、その過程を過去の回想と行き来しながら綴る形の小説。
 鈴子と母親の敵対心というのか埋まらない溝を軸に、幼い頃からの憧れと想いつつ満たされなかった過去の思い出と過去への思いに彩られた隆史との関係、誠一郎との愛と秘めた後ろめたさ、高校時代に憧れていた自立した女性の先輩としての涼香とのつきあいなどの人間関係の交錯が読みどころとなっています。
 どちらかといえば、基本的にいい人たちの集うハートウォーミングな恋愛小説が多い印象の作者には珍しい、あくの強い母親との嫌悪感に満ちた関係が強い印象を残します。しかし、それだけに母親との関係も隆史との関係も、また鈴子の憧れだった涼香の扱いも、どこか宙ぶらりんな感じのラストは、扱いかねたかと思ってしまいました。


小手鞠るい 中央公論新社 2011年8月25日発行
コメント
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