幼い頃父親から性的虐待を受け、父母の離婚後新興宗教団体と研究職に忙しい母親と巧くコミュニケーションが取れずにいた藤枝黒江が、中3の時ガタイは立派だけど初心な転校生酒井彌生に告白してつきあうが、幼い頃陵辱されている写真が送られてきたことをきっかけに家出し見知らぬ男に襲われて別れを切り出し、高校生の時には不良の先輩たちとつきあうが裏切られて輪姦されその相手に復讐して故郷を逃げ出して東京で以前から憧れていた写真家に弟子入りしてアシスタントとして生活しながら再会した彌生と改めてつきあうが・・・というような展開の青春小説。
児童虐待、レイプ被害を受けた黒江が傷つきもがきながら立ち直り、しかし立ち直ったように見えてもやはり傷は癒えていない、そういううちにまた被害を受けるという展開が、被害の深刻さというか簡単なものじゃないということをアピールしているのですが、他面、被害者が何度も被害を受けることの意味や努力しても立ち直れないということが被害者への偏見にもつながりかねないところがあります。作者が何度も採りあげているテーマですが、問題自体の難しさもあり、すっきりとは行かない感じがします。そこは自分で考えろということでもあるでしょうけど。
男性読者の視点でいうと、かなり善良な青年と思える彌生に、神様を期待する黒江の要求は過剰だし酷に思えます。20歳そこそこの物語ですから、異性に対する幻想や許容限度の狭さは、まぁ振り返ってみれば仕方ないかとも思えますが。
中学生の時に好きだった人に回帰していく、その思いは、甘酸っぱいときめきを感じさせてくれます。多くの場合、そのパターンは自分も相手も、中学生のままではないということから崩れていくのですが、この場合は中学生の時から内在していたすれ違いを再確認するようで、それもまた切ないところがあります。
彌生の霊的な感性や黒江の母の新興宗教問題など、冒頭からの設定が今ひとつ回収されず中途半端感もありますが、少し重めで切ない読みでのある青春小説です。
島本理生 中央公論新社 2010年12月10日発行
児童虐待、レイプ被害を受けた黒江が傷つきもがきながら立ち直り、しかし立ち直ったように見えてもやはり傷は癒えていない、そういううちにまた被害を受けるという展開が、被害の深刻さというか簡単なものじゃないということをアピールしているのですが、他面、被害者が何度も被害を受けることの意味や努力しても立ち直れないということが被害者への偏見にもつながりかねないところがあります。作者が何度も採りあげているテーマですが、問題自体の難しさもあり、すっきりとは行かない感じがします。そこは自分で考えろということでもあるでしょうけど。
男性読者の視点でいうと、かなり善良な青年と思える彌生に、神様を期待する黒江の要求は過剰だし酷に思えます。20歳そこそこの物語ですから、異性に対する幻想や許容限度の狭さは、まぁ振り返ってみれば仕方ないかとも思えますが。
中学生の時に好きだった人に回帰していく、その思いは、甘酸っぱいときめきを感じさせてくれます。多くの場合、そのパターンは自分も相手も、中学生のままではないということから崩れていくのですが、この場合は中学生の時から内在していたすれ違いを再確認するようで、それもまた切ないところがあります。
彌生の霊的な感性や黒江の母の新興宗教問題など、冒頭からの設定が今ひとつ回収されず中途半端感もありますが、少し重めで切ない読みでのある青春小説です。
島本理生 中央公論新社 2010年12月10日発行