伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。今年も目標達成!

アメリカから<自由>が消える

2012-05-11 00:06:14 | ノンフィクション
 「テロとの戦い」以降のアメリカでの言論統制、プライバシー侵害の実情をレポートした本。
 9.11の衝撃の下でほとんど議論もなく(議論することが許されず)成立した「愛国者法」が、オバマ政権下でも縮小されることもなくむしろ情報収集の範囲が拡大されていることが繰り返し紹介されています。空港では乗客の裸体を透視するミリ波スキャナーが導入拡大され、人工肛門や胸部に埋め込んだシリコンが引っかかって執念深い身体検査をされたり、スターや子どもたちの裸を狙ってボディスキャナーチェック担当者に応募が殺到しているというおぞましいできごとが紹介されています。権力を濫用したがる人はいつの世どこの国にもいるということですが。
 搭乗拒否リストは際限なく拡大されていまやリベラル派の上院議員や大学で合衆国憲法を教えている教授までもが搭乗拒否されたり、犯歴のある者と同姓同名ということで2歳の乳幼児が搭乗拒否されたりしているという。オバマ大統領は拷問禁止を宣言したが、その後拷問はアメリカ国外で民間企業にアウトソーシングされただけだとも。テロとの戦いでつけられた膨大な予算に群がったセキュリティ機器やアウトソーシングに関わる企業が甘い汁を吸い、人々の人権は踏みにじられていく。外敵を設定し、それを倒すためには、犠牲を払っても仕方がない、そういう考え方・風潮が何を生むかをよく表していると思います。
 市民運動をつぶすために政府を「こよなく支持する」グループが組織されたり、テロとの戦いのために政府が行っている個人情報の収集を報じたジャーナリストを保守系の報道機関が徹底的に叩いたり、政府に雇われた「軍事評論家」がイラク戦争支持の発言を続けメディアがそれを集中的に報じるといった形で民間対民間を偽装して進められる言論弾圧も紹介されています。こういう本が扶桑社から出版されるというのは、懐の広さと考えるべきなのでしょうか。


堤未果 扶桑社新書 2010年4月1日発行
コメント
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