伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。今年も目標達成!

虹色と幸運

2012-05-13 00:04:40 | 小説
 大学の事務職員として勤めて8年目30歳で4歳年下の役者志望の青年と同居中のかおり、かおりの大学時代の友人で料理屋を切り盛りする母と同居中のイラストレーター珠子、かおりの高校の同級生で3人の子どもに囲まれながら雑貨屋を開いたばかりの夏美の3人が、それぞれにまた集まって過ごす1年を描いた青春小説。
 一緒に暮らしながら母としっくり行かない珠子、離れて暮らす母とほとんど交流がないかおり、義母とどこかよそよそしさがある夏美の母親世代との関係の難しさと距離感、親世代を見ながら同世代にも感じられる時の流れと老い、少し若い世代との心理的な距離感。何気ない日常のできごとから、そういうものを感じさせる、けだるさと疲労感とうつむいた諦めとちょっとした希望のお話かなと思います。「他人の幸運はくっきりとよく見えるけど、自分の幸運はもやにつつまれたように、いやもっと濃い、雲の中にいるように手さぐりで確かめるしかなくて、そこにあるのに、すぐに見えなくなってしまうのかもしれない」(143ページ)諦めと希望に微妙な間合いを持ちながらの日々の心の動きがしっとりと入る感じがします。
 珠子の7年前に振られた男との再会。全体がかおりと同居人を軸にしているようですが、終盤は珠子の諦めさめた様子を見せつつのときめきに焦点が行く感じ。走り出せないけどほのぼのとしたものが残る、そういう作品だと思いました。


柴崎友香 筑摩書房 2011年7月10日発行
コメント
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