伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。2022年から3年連続目標達成!

訴訟の心得 円滑な進行のために

2015-07-03 23:01:19 | 実用書・ビジネス書
 企業法務を中心とする弁護士が企業の代理人として活動する場合を想定して、訴訟前の段階での見立て(見込み・方針)、訴訟の中で行う主張立証の実務について解説した本。
 互いに証拠を十分に持ち、基本的に経済合理性に基づいて行動し、世間の評判に背を向けられない(大)企業同士の訴訟を想定していることから、事実関係の争いはあまりなく、法律解釈に関して学者の意見書を出し合うなど、私のような庶民の個人を依頼者とする弁護士が担当する訴訟とは、様相を異にする点が多々ありますが、活動する場面・分野は違っても、同じく30年間弁護士をやってきた(司法研修所の同期生ということですが…)著者とは、訴訟やその準備、訴訟活動についての実務的な感覚というか実践部分では共通するところが多くありました。実務的な手法やセンスについては、私のサイトで書いていることと通じる部分がずいぶんとあるように思えます。私には、やっている仕事というか活動分野はまったく違っても、きちんと訴訟実務に向き合っていれば、弁護士の考えというのは共通するものだなということを再認識できた点に、読んだ価値があったかなと思います。
 この本では、「当方側に不利な事実があったとして、だからといって嘘をつくという方針はあり得ない。何十年も前には、そういうこともあったやに古老から聞くこともあるが、現在ではあり得ない。今の時代、コンプライアンスは非常に重視されており、嘘の主張をしようなどと画策すれば、あっという間にインターネットに暴露されたり、内部通報されたりするであろう。会社も弁護士も命を終えることになる。担当者に偽証をさせることもあり得ないのだ」とされています(42ページ)。理論的にはそうだと思いますし、そうあって欲しいと思います。また著者のようなまっとうな弁護士ならそうだろうと思います。しかし、私が一市民の側で企業を相手に訴訟をしてきた経験では、そういうリスクも無視して平然と嘘をつく企業と弁護士が少なからずいます。一市民相手ならだませる、押しつぶせると高をくくっているのでしょう。
 準備書面の書き方で、長い準備書面はダメ(46~47ページ)というのはまったくその通りだと思います。しかし、企業側からは、本当に些末なことを並べ上げたただ長いだけの書面が出てくることが少なくありません。私のような庶民の弁護士とは違い、大企業から桁の違う報酬をタイムチャージ(かけた時間1時間あたりいくら)でもらっている弁護士がだらだらと長い書面を自分はたくさん仕事をしたぞと誇示する(そしてたくさん報酬をもらう)ために出しているのではないかと思うことが多くあります。こういう長くて内容のない書面に対しては、即座に短い反論をするのが有効(61ページ)というのもその通りです。私も、特に法律論だけの議論なら、そうすることが多いです。ただ、事実関係があれこれ出てくると、やはり依頼者に事実を確認したり、手元にこういう書類が埋もれてないかとか探してもらうことが必要になりがちです。準備書面は期日直後に書く方が裁判官の要求にフィットする書面が書けるし記録も頭に残っているから効率的という(62ページ)のは、理論的にはその通りですがなかなか実践できないという面と、本当にそれがいいのかなと思う面と半々に思えます。事実関係で依頼者の確認や証拠探しを待たなければならない場合はそもそもすぐには書けませんし、アイディアというのは、熟成させるというか、あれこれ考えているうちにというか、その後で不意に浮かんだりするものです。私は、期日直後から頭に置きながら、時々考え、浮かんできたアイディアを合わせて一本筋が通ったところで書きたいという感覚です。
 証人尋問の準備については、考え方は似ているけど、リハーサル部分(109ページ~)は、たくさんの弁護士を使いタイムチャージでやれる弁護士は違うよねぇと、思ってしまいました。


中村直人 中央経済社 2015年2月1日発行
コメント
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