中学時代、転校早々にサッカー部のセンターフォワードを任されて県大会優勝に導いたスーパーアイドルだった乙坂鏡史郎が、恋した生徒会長遠野未咲の卒業式の答辞作成を手伝った際に未咲から小説家になれるよと言われてその気になって書いた小説「未咲」で新人賞を受賞し、その後20年間ろくな作品も書けずに作家もどきのフリーターを続けていたところに、中学の卒業30周年同窓会があり、未咲に会えるかと出席したが、未咲の代わりに鏡史郎を慕っていたサッカー部のマネージャーだった妹の裕里が出席して未咲になりすまして挨拶したのに驚きつつ、未咲本人に会うことを狙って、裕里に対して未咲宛のメッセージを立て続けに送りつけるという展開を見せる偏執的色彩の恋愛小説。
自分を慕っている裕里に姉の未咲宛のラブレターを届けさせた中学時代、また同窓会に未咲になりすまして出席した裕里に未咲宛の「君にまだずっと恋してるって言ったら信じますか?」「まだずっと君に恋してます」というメールを送りつける現在(たぶん45歳)の、若さ故の残酷と中年になっての偏執を描くメインストーリーと、大学時代に交際した未咲を別の男に奪われ「未咲」でその男を悪者にしたものの落ちぶれたその男の現在を見てさえかなわないことを思い知らされた挫折感を描くサブストーリーが見られるのですが、そのサブストーリー部分はどうもとってつけた感があり、しっくり来ません。大学時代に未咲と交際するに至った経緯、交際中のエピソード、奪われた経緯がほとんど描写されないのが、どのような意図によるものかはわかりませんが、その現実感を大きく損ねています。大学時代に交際した相手の女性を今も慕い続けているという作品で、どうして現在脳裏に浮かぶエピソードがすべて一方的に思いを寄せていた中学時代のことなのか、何故思いが叶い交際できたときや、交際中の甘い楽しい想い出が先立たないのか、とても理解できません。交際していた大学時代の未咲にはいい想い出がないのなら、大学時代の現実の未咲よりも一方的に憧れていた中学時代の未咲のイメージの方がいいなら、つまり自分に都合よく美化した過去のイメージを好み固執しているなら、現在の未咲に会ってどうするつもりだったのでしょうか。
恋に落ちた男の視野狭窄ぶり、中年になっても(さらには壮年・老年でも)他のことが見えなくなりこれほどまでに愚かしいまねをするかということを見せる作品なのだろうと思いますが、大学時代に未咲と交際していたという設定を消化できずにどこか空中分解したような印象を持ちました。
岩井俊二 文藝春秋 2018年10月25日発行
映画についての感想は、別ブログですが、こちらに書いています。
自分を慕っている裕里に姉の未咲宛のラブレターを届けさせた中学時代、また同窓会に未咲になりすまして出席した裕里に未咲宛の「君にまだずっと恋してるって言ったら信じますか?」「まだずっと君に恋してます」というメールを送りつける現在(たぶん45歳)の、若さ故の残酷と中年になっての偏執を描くメインストーリーと、大学時代に交際した未咲を別の男に奪われ「未咲」でその男を悪者にしたものの落ちぶれたその男の現在を見てさえかなわないことを思い知らされた挫折感を描くサブストーリーが見られるのですが、そのサブストーリー部分はどうもとってつけた感があり、しっくり来ません。大学時代に未咲と交際するに至った経緯、交際中のエピソード、奪われた経緯がほとんど描写されないのが、どのような意図によるものかはわかりませんが、その現実感を大きく損ねています。大学時代に交際した相手の女性を今も慕い続けているという作品で、どうして現在脳裏に浮かぶエピソードがすべて一方的に思いを寄せていた中学時代のことなのか、何故思いが叶い交際できたときや、交際中の甘い楽しい想い出が先立たないのか、とても理解できません。交際していた大学時代の未咲にはいい想い出がないのなら、大学時代の現実の未咲よりも一方的に憧れていた中学時代の未咲のイメージの方がいいなら、つまり自分に都合よく美化した過去のイメージを好み固執しているなら、現在の未咲に会ってどうするつもりだったのでしょうか。
恋に落ちた男の視野狭窄ぶり、中年になっても(さらには壮年・老年でも)他のことが見えなくなりこれほどまでに愚かしいまねをするかということを見せる作品なのだろうと思いますが、大学時代に未咲と交際していたという設定を消化できずにどこか空中分解したような印象を持ちました。
岩井俊二 文藝春秋 2018年10月25日発行
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