誰も弁護したがらない嫌われ者を弁護し(誰も見つからなければセバスチャン・ラッドに電話をかけろ。あいつなら、どんなやつでも弁護するぞ!:上巻17ページ)、多くの者から命を狙われ脅迫され、抗弾性能のあるスモークガラスで守られたカーゴヴァンを事務所とする弁護士セバスチャン・ラッドが、さまざまな事件をこなし巻き込まれるリーガル・サスペンス。上下巻各3章ずつの6章で構成されていて、最初の3章はまったく独立のストーリーのため、上巻を読み終わって下巻の第4章に入ったあたりでもなおこれは短編連作かと思い続けます。ついにグリシャムも長編が書けなくなったのか、上巻の裏表紙のサマリーなんて見ているとまるでリンカーン弁護士から設定を借りたみたいだし…(グリシャムもそれは意識していて、下巻の冒頭で、セバスチャン・ラッドに時間ができたときは「マイクル・コナリーの新作を読む」のが楽しみだと言わせています:下巻9ページ)。下巻に入って、上巻の登場人物やエピソードの一部が絡んできてつながっていくようにはなっていますが、全体の一体感にまでは至らないように思えます。グリシャムはそういうところ、もっと巧かったように思うのですが。
検察官や警察が、失敗(真犯人ではないものを起訴してしまい、また何ら落ち度もないものを殺傷してしまう)を犯してそれを隠蔽するために、証拠・証言を捏造していく様を繰り返し描き、糾弾し、おそらくはグリシャム史上最も反権力的な色彩の作品となっています。嫌われ者を弁護する故に「善良な」市民から嫌われていますが、弁護士の目からは、弁護士のあり方からすれば、理念的には理想に近くしかし現実的には誰も真似ができない、「孤高」という言葉が似合う弁護士を主人公とし、それを "Rogue Lawyer " と名付けたグリシャムは、むしろ若々しい正義感に燃えているようにさえ見えます。グリシャムが、9.11以降の、アメリカ社会の変容に反発し警鐘を鳴らす意思であることは明白ですから、この " Rogue Lawyer " は、やはり「ならず者弁護士」と訳して欲しいところです。訳者は、本文では「無頼の弁護士」とし、タイトルは「危険な弁護士」とされているのは、セバスチャン・ラッドが、悪者ではないという思いからなんでしょうけど。
第6章で、弁護士の目からは判決では勝てないことが明らかなのに、勝てるという幻想を持ち、弁護士が努力して通常であれば到底望めないほどの有利な和解案(有罪答弁取引)を勝ち取ったのを拒否する依頼者が登場します。ここ、弁護士には切実というか、そういうやつがいるんだよね、本当に困ったことだけどと実感するエピソードです.
上巻の10ページで、「わたしの依頼人たちは、ほぼ例外なく有罪だ」「しかしこの裁判の場合、被告人ガーディーは有罪ではない」とされているのは、(たぶん、原文は "guilty " なんでしょうけど)「有罪」ではなく「犯人」とか「犯罪者」と訳して欲しいところです。「有罪」という訳では、セバスチャン・ラッドが裁判で負け続けている腕の悪い弁護士だということにもなってしまいます(「犯人」「犯罪者」と訳せば、実際には犯罪を犯した者について無罪判決を勝ち取る腕のいい弁護士ということになるでしょう。現実にはそんなことはほぼあり得ないというかとても難しいでしょうけど)。
原題:Rogue Lawyer
ジョン・グリシャム 訳:白石朗
新潮文庫
2019年7月1日発行(原書は2015年10月)
検察官や警察が、失敗(真犯人ではないものを起訴してしまい、また何ら落ち度もないものを殺傷してしまう)を犯してそれを隠蔽するために、証拠・証言を捏造していく様を繰り返し描き、糾弾し、おそらくはグリシャム史上最も反権力的な色彩の作品となっています。嫌われ者を弁護する故に「善良な」市民から嫌われていますが、弁護士の目からは、弁護士のあり方からすれば、理念的には理想に近くしかし現実的には誰も真似ができない、「孤高」という言葉が似合う弁護士を主人公とし、それを "Rogue Lawyer " と名付けたグリシャムは、むしろ若々しい正義感に燃えているようにさえ見えます。グリシャムが、9.11以降の、アメリカ社会の変容に反発し警鐘を鳴らす意思であることは明白ですから、この " Rogue Lawyer " は、やはり「ならず者弁護士」と訳して欲しいところです。訳者は、本文では「無頼の弁護士」とし、タイトルは「危険な弁護士」とされているのは、セバスチャン・ラッドが、悪者ではないという思いからなんでしょうけど。
第6章で、弁護士の目からは判決では勝てないことが明らかなのに、勝てるという幻想を持ち、弁護士が努力して通常であれば到底望めないほどの有利な和解案(有罪答弁取引)を勝ち取ったのを拒否する依頼者が登場します。ここ、弁護士には切実というか、そういうやつがいるんだよね、本当に困ったことだけどと実感するエピソードです.
上巻の10ページで、「わたしの依頼人たちは、ほぼ例外なく有罪だ」「しかしこの裁判の場合、被告人ガーディーは有罪ではない」とされているのは、(たぶん、原文は "guilty " なんでしょうけど)「有罪」ではなく「犯人」とか「犯罪者」と訳して欲しいところです。「有罪」という訳では、セバスチャン・ラッドが裁判で負け続けている腕の悪い弁護士だということにもなってしまいます(「犯人」「犯罪者」と訳せば、実際には犯罪を犯した者について無罪判決を勝ち取る腕のいい弁護士ということになるでしょう。現実にはそんなことはほぼあり得ないというかとても難しいでしょうけど)。
原題:Rogue Lawyer
ジョン・グリシャム 訳:白石朗
新潮文庫
2019年7月1日発行(原書は2015年10月)