伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。2022年から3年連続目標達成!

労働・職場調査ガイドブック

2020-02-07 23:26:28 | 人文・社会科学系
 学者と労働政策研究・研修機構(JILPT)の研究員たちが、労働・職場調査の全体がわかる見取り図を示して提示してくれる教科書がないから作ってしまえばよい(2ページ)という考えで、労働・職場調査の方法論等を書いた本。
 さまざまな調査方法が説明され、その領域での調査・研究例、執筆者自身の研究事例が、ちょこちょこと取り上げられているので、見聞を拡げる・好奇心を満たすという点ではいいかと思います。それぞれのパートが短いので、関心を持つと、もう少し踏み込んだ説明が欲しいのになぁと思う場面が多いですが。
 弁護士を含む「専門家の専門性の本質は、行為の過程で複雑で多様な状況との対話を通じて自らの行為を振り返る『行為の中の省察( reflection in action )』である」(124ページ)なんて言われると、なるほどとも、そういう言葉で表せたとしてもだから何?とも思います。学者さんが書いた本を読んでよく感じる楽しさとむなしさではありますが。
 政府の統計について、回答率の低下により信頼性が揺らいでいる(177~178ページ)ことの指摘(回答の記載がないと「不詳」などになりその割合が近年増えているなど)、データの収集範囲を確認する必要があるとか標本誤差があるのでその程度を確認するとの指摘(183~184ページ)はありますが、それ以上の指摘はないままに「信頼の置ける情報源」としています(182ページ)。2020年初頭という時期に出版されたにもかかわらず、政府統計、それもまさにこの本が扱っている領域である厚労省の毎月勤労統計調査などが、時の政権の指示またはそれに対する忖度で調査方法を恣意的に変更して政権に都合のいい結果を出していたということが、2018年から2019年にかけて発覚したことにまったくコメントしないで、信頼の置ける情報源だというのはいかがなものでしょうか。政府系の組織である労働政策研究・研修機構が関わった本で政府や厚労省の問題には触れたくないということかもしれません(この部分の執筆担当は学者さんですけど)。しかし、政府・厚労省批判をするしないではなく、自らの調査研究で取り扱うデータの信用性の評価検討という、学者・研究者の基本的・初歩的な問題について、学生・院生・研究者向けの「教科書」として書く書物で言及して注意を促すことを避ける/怠るというのでは、著者・執筆者の研究者・教育者としてのスタンスを疑ってしまいます。スウェーデンで1970年代に労働者がごまかしをして高い賃金を得ていたことを暴いてやったなんて企業に味方して労働者を貶めるようなことは自慢げに書いている(34~35ページ)のに。


梅崎修、池田心豪、藤本真 中央経済社 2020年1月1日発行
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