朝日新聞出版の美術初心者向け入門書のクリムト版。
この本でクリムトの最高傑作と断言されている(14~17ページ)「接吻」よりも、私が好きな絵の「ダナエ」の解説で、「ダナエの股間近くに描かれた、黒い長方形は男性、金の雨の円は女性を象徴しているといわれます。《接吻》にも見られるように、クリムトはこのような性別の表現を多用しています」と書かれています(95ページ)。「接吻」では、抱き合う男女のともに金色の衣装が境界も定かでなく融合するのを区別するように男性側は黒い長方形等の四角と直線、女性側は円と曲線で表現しています。しかし、「ダナエ」ではそういう描き分けの必要性があるようには見えません。確かに「ダナエ」の股間の左側の空間に配されたちっぽけな黒い長方形は、必然性なく不自然に存在し、あえて白い線で囲ってあることからして、クリムトが何らかの意図を持って書き込んだものと解されます。しかし、「ダナエ」では、金色の雨がゼウスを意味しているのですから、そこにあえてゼウス以外の「男性」を存在させる意味があるでしょうか。また、圧倒的な存在感のあるダナエ自身がいるのに、ゼウスを意味する金色の雨の中に小さな円を多数描いてそれに女性を象徴させる意味があるでしょうか。黒い長方形が男性を意味するというのであれば、「ダナエ」とほぼ同時期に描かれた「アデーレ・ブロッホ=バウアーの肖像Ⅰ」(絵画競売史上最高額で落札されて一気に有名になった絵)のアデーレの腰周りに6つ、足元に2つ描かれている黒い長方形にも同様の解説をすべきなのではないかと思いますが、そういう言及はありません。ダナエをゼウスに寝取られたダナエに思いを寄せる男を描くのだとしたら、ムンクの「マドンナ」のように脇に描いた方がよいように思えますし、クリムトも主題の人物以外を周囲に配して対比させる手法を、この頃で言えば「希望Ⅱ」(あるいは「希望Ⅰ」や、「水蛇Ⅰ」の魚とか)でも採用しているのですからそうしたんじゃないかと思います。昔から、釈然としない思いを持っています。解説する人は十分に検討して書いてるんでしょうか。

朝日新聞出版(編集・執筆の記載はありますが、「著者」は朝日新聞出版と表示されています) 2019年4月30日発行
この本でクリムトの最高傑作と断言されている(14~17ページ)「接吻」よりも、私が好きな絵の「ダナエ」の解説で、「ダナエの股間近くに描かれた、黒い長方形は男性、金の雨の円は女性を象徴しているといわれます。《接吻》にも見られるように、クリムトはこのような性別の表現を多用しています」と書かれています(95ページ)。「接吻」では、抱き合う男女のともに金色の衣装が境界も定かでなく融合するのを区別するように男性側は黒い長方形等の四角と直線、女性側は円と曲線で表現しています。しかし、「ダナエ」ではそういう描き分けの必要性があるようには見えません。確かに「ダナエ」の股間の左側の空間に配されたちっぽけな黒い長方形は、必然性なく不自然に存在し、あえて白い線で囲ってあることからして、クリムトが何らかの意図を持って書き込んだものと解されます。しかし、「ダナエ」では、金色の雨がゼウスを意味しているのですから、そこにあえてゼウス以外の「男性」を存在させる意味があるでしょうか。また、圧倒的な存在感のあるダナエ自身がいるのに、ゼウスを意味する金色の雨の中に小さな円を多数描いてそれに女性を象徴させる意味があるでしょうか。黒い長方形が男性を意味するというのであれば、「ダナエ」とほぼ同時期に描かれた「アデーレ・ブロッホ=バウアーの肖像Ⅰ」(絵画競売史上最高額で落札されて一気に有名になった絵)のアデーレの腰周りに6つ、足元に2つ描かれている黒い長方形にも同様の解説をすべきなのではないかと思いますが、そういう言及はありません。ダナエをゼウスに寝取られたダナエに思いを寄せる男を描くのだとしたら、ムンクの「マドンナ」のように脇に描いた方がよいように思えますし、クリムトも主題の人物以外を周囲に配して対比させる手法を、この頃で言えば「希望Ⅱ」(あるいは「希望Ⅰ」や、「水蛇Ⅰ」の魚とか)でも採用しているのですからそうしたんじゃないかと思います。昔から、釈然としない思いを持っています。解説する人は十分に検討して書いてるんでしょうか。

朝日新聞出版(編集・執筆の記載はありますが、「著者」は朝日新聞出版と表示されています) 2019年4月30日発行