伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。2022年に続き2023年も目標達成!

おいしいコーヒーのいれ方 Ⅰ~Ⅹ

2024-03-02 22:10:05 | 小説
 小2の時母に死に別れて父親と2人暮らしで家事全般をこなしてきた陸上部長の高校生和泉勝利が、高3のはじめから2年間、父親の九州転勤と叔母夫婦のロンドン転勤が重なり、大学を卒業して美術教師となる従姉かれんと中2になる従弟丈と3人で暮らすこととなり、長らく会ってなかったかれんの変貌を見て恋に落ち…その後の3年半、勝利が大学3年の夏までを描いた青春恋愛小説。
 前半は…子どもが3人で一緒に暮らす設定、恋愛小説ながら早々に勝負は決まるというか、ヒロインの思いが明示され、ヒロインが「誰と」結ばれるかより紆余曲折を経て「どのように」結ばれるかに関心が集まるというあたり、私はあだち充の「タッチ」をイメージしてしまいました(ついでに言えば、強面のキャラの名前が「原田」とか…)。まぁ、早々にかれんの思いが明示されるのは、もともと連載ではなく単発の短編として書かれたためということですが(シリーズタイトルも、第1話にしか関連しませんし)。
 当初「少年ジャンプ」増刊の「ジャンプノベル」に掲載・連載された作品ということもあり、主人公が高校生で、相手が5歳年上の女性でありながら、初心で純情で(23歳でキスの経験もない!)主人公が守ってあげたいと思い現実の行動でも庇護対象であり、主人公の方が主導的に振る舞うという、いかにも「少年ジャンプ」読者層の願望というか妄想に奉仕した設定になっています。主人公が年上の女に翻弄されそのしたたかさにほぞを噛むという場面がないというのは、私にはむしろ不自然に思えますが、そういう展開は読みたくないという読者のニーズを考慮したのでしょう。
 勝利が料理を始め家事全般を遂行することや、かれんの気持ちを大切にするよう、自らの嫉妬心や欲望を抑え込む(それに失敗して自ら悔やむ)叙述が多いことは、読者側の妄想を放置・増長させるだけではまずいと考えた作者の読者青少年への姉貴的な立場からの指導・要請なのかなと思いました。
 勝利(かつとし)のことを「ショーリ」と呼ぶのはただ1人かれんだけという設定です。しかし、運動部所属の高校生が勝利という名前だったら、ほぼ間違いなく友人たちからは「しょうり」と呼ばれると思うのですが。
 ずいぶんと久しぶりに、自分自身が高校生のときの同い年だけど自分より大人びた同級生との、19歳のときの年上の女性との、どちらも数か月だったけど、ときめきわくわくしじりじりしヒリヒリした日々を思い出しました。


村山由佳 集英社文庫
Ⅰ キスまでの距離 1999年6月25日発行(新書版は1994年9月)
Ⅱ 僕らの夏 2000年6月25日発行(新書版は1996年7月)
Ⅲ 彼女の朝 2001年6月25日発行(新書版は1997年10月)
Ⅳ 雪の降る音 2002年11月25日発行(新書版は1999年4月)
Ⅴ 緑の午後 2003年6月25日発行(新書版は2000年12月)
Ⅵ 遠い背中 2004年6月25日発行(新書版は2002年3月)
Ⅶ 坂の途中 2005年6月25日発行(新書版は2003年5月)
Ⅷ 優しい秘密 2006年6月30日発行(新書版は2004年5月)
Ⅸ 聞きたい言葉 2007年6月30日発行(新書版は2005年5月)
Ⅹ 夢のあとさき 2008年6月30日発行(新書版は2006年5月)

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