伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。2022年に続き2023年も目標達成!

リスペクト-R・E・S・P・E・C・T

2024-11-24 23:11:12 | 小説
 ロンドンのホームレス用ホステル(シェルター)ザ・サンクチュアリから退去要求を受けたシングル・マザーたちが抗議運動を始め、長らく放置されていた無人の公営住宅を占拠し、行政に住宅政策の変更を迫るという小説。
 実在の運動(FOCUS E15運動、カーペンターズ公営住宅の空き家占拠・解放活動)に着想を得たフィクションだそうです。
 活動経験のないシングル・マザーたちが、古い活動家(日本でいえば60年安保世代くらいでしょうか)のアドバイスを受け、周囲の低収入労働者層の住民の支持を受け運動を拡げていく様子が好感できます。
 「都市部では住宅は不足していません。住宅で儲けようとしている企業や団体のせいで、人が住める家が不足しているだけです。この公営住宅が空き家のまま放置されていたのも、売却交渉がうまくいかなかったから。いつでも交渉が成立したら売れるよう、区はここを無人のままにしておきたいんです。(略)人間よりも不動産売買の交渉のほうが大事だと思われている。ホームレスをホステルから退去させるのも同じ理屈です」(173ページ)という主人公ジェイドの言葉が状況をよく表しています。
 2012年まで空き家占拠が犯罪にならず、運動家が空き家をアジトとし、スクウォッティングと呼ばれていた(72ページ)イギリスの社会とその意識を背景とするもので、日本人には、そのような状況があっても他人の所有物を占拠することへの違和感があり、作者は日本人新聞記者史奈子にそれを語らせています。その史奈子が次第に運動に溶け込んで理解を深めていくという構成で、それは巧いなと思います。もっとも、その日本人の所有権不可侵的な意識も、戦後すぐの労働運動が昂揚した時期に自然発生的に始まった工場占拠・生産管理闘争が厳しい弾圧で叩き潰されずに勝利してその運動が引き継がれていたら、まったく違ったものとなっていたのではないかとも思うのですが。


ブレイディみかこ 筑摩書房 2023年8月5日発行
「ちくま」連載

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