伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。2022年から3年連続目標達成!

法廷遊戯

2023-11-19 22:43:35 | 小説
 過去5年間卒業生から司法試験合格者を出していない底辺のロースクール(法科大学院)の法都大ロースクールになぜか在籍している司法試験合格済の学生結城馨が始めた告発者の主張を書証と証言で判断し有罪なら被告発者に無罪なら告発者に罰を与える「無辜ゲーム」に、過去の自らの犯罪を暴露したチラシを配布された学生久我清義が告発して勝利するが、その後同級生の織本美鈴が過去のことを示した脅迫を受けるなど事件が続き…という法廷ミステリー。
 久我と織本の視点で展開するのですが、むしろ結城の刑事司法への絶望と怨念、それでも刑事司法に賭けざるを得ない苦悩に涙します。
 弁護士が作者であり、法的・刑事実務的な破綻は特にない(映画化の際に変更されているところでおいおいと思うところはありましたが)と思いましたが、事件での被害者の創傷について2度刺しを示唆する表現はなく(創傷の描写は160ページ、290ページ)発見時に胸元にナイフが突き刺さっていた(119ページ)のに、公判前整理手続で検察官が「犯人は別にいて、被告人はナイフを抜いたに留まる。そんな主張もあり得ると?」と述べ、弁護人が「可能性としては」と言う(160ページ)というのはちゃんと詰めているのだろうかと思ってしまい、終盤で語られる事件の真相が、被害者の創傷の態様やナイフへの指紋の付き方と整合するのか、疑問を感じました。


五十嵐律人 講談社 2020年7月13日発行
メフィスト賞受賞作
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ゼロから始める繁盛店のつくり方

2023-11-14 23:19:29 | 実用書・ビジネス書
 2020年10月にオープンしたラーメン店が翌年ミシュランのビブグルマン(価格以上の満足感が得られる料理:いわゆる「星」ではない)に選出された著者が、繁盛する飲食店を作る方法を解説した本。
 著者の述べる方法論は、長期間繁盛しているものをモデルとして真似る、真似しやすいもの(既にそれを真似てうまく行っている人が多数いる)を真似る、徹底的に真似るの3点だそうです。
 3点目の徹底的に真似るは、「参考にする」ではなく全部取りする、いいと思ったところだけを取り入れピンとこないところは無視するのでは、その無視したところに今の自分が気づけていない結果の原因が詰まっている、何がポイントかわかっていなくても、ここがポイントではないかと見当がついていたとしても、そこだけでなく全部取りすることが大切としています(126~130ページ)。他方において、著者は「真似をしてそのまま出すのではなく、そこからアレンジを加えて進化させることが大切です」「人気となっている核となる要素は変えてはいけません。それ以外の部分をアレンジします」(193ページ)とも言っています。この両者の間には、やはり著者において言語化できていない、あるいはそこは言語化しない領域があり、誰でもそのとおりにできるわけではなく、センス・ノウハウがあるのでしょう。それはある意味当然のことで、経験のある話者が自分が話している言葉に見ている風景と、それを聞いている初心者が受け止める内容は相当に違うものです。私も、例えば弁護士会の研修などで解雇事件のノウハウなんかしゃべっているときは、懇切丁寧な説明を心がけてはいますが、でも聞いただけでそのとおり真似できるはずないよねと思いながら話していますし。
 著者は、飲食店は星の数ほどあってもマーケティングを徹底的に行っている店は少ない、飲食業界はブルーオーシャンだ(188ページ)と述べています。勝ち組には見えている世界が違うということをここでも感じます。
 個人的には、中学高校時代に部活でバドミントンをしていた(78ページ)という点には親近感がありますが。


畠山央至 あさ出版 2023年10月6日発行
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世界を制したリーダーが初めて明かす事業拡大の最強ルール

2023-11-13 21:27:11 | 実用書・ビジネス書
 PayPal、LinkedInの経営・創業に携わり、投資家として多くの企業に関与した著者が、さまざまな企業でのスタートアップから事業拡大への局面での成功例や起業家・経営者の悩みと決断を紹介した本。
 さまざまなアドバイス・教訓が書かれていて、どれが当てはまるかはもちろんケースバイケースです。事業拡大の「最強ルール」という邦題はミスリーディングで、事業拡大のヒント集という方が内容にあっていると思います。
 事業拡大を急がずに、まずは少数のユーザーに熱烈に愛されるような商品化をすべきというアドバイスがある一方で、ペイパルの創業期にカスタマーサービス部が3名体制だったためにすべての電話が連日連夜鳴り続けるようになり「現在の顧客にのみ注意を払っていては、将来の顧客を1人も獲得することができないかもしれない」と考えてすべての電話の着信音を切ってカスタマーサービス体制が整うまで2か月間顧客の不満を放置した(164~165ページ)というのは、それぞれになるほどとは思いますが、やはりそれはすべての起業や多くの起業に通じるルールやノウハウではなく、いろいろなケースがあるから引き出しは多く持とうねということだと思います。


原題:MASTERS of SCALE
リード・ホフマン、ジューン・コーエン、デロン・トリフ 訳:大浦千鶴子
マガジンハウス 2022年10月6日発行(原書は2021年)
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オルタネート

2023-11-12 19:50:13 | 小説
 高校生の料理コンテスト「ワンポーション」で前年優勝を逃しリベンジを誓う私立円明学園高校3年生の調理部長新見蓉、高校生限定のSNSアプリ「オルタネート」にハマり周囲にそれを勧める円明学園高校1年生の伴凪津、小学生のときの演奏仲間が東京に引っ越して連絡がなくなったのをあきらめきれずに追いかける高校中退のニート・フリーター楤丘尚志らが突き進む様子を描いた青春学園小説。
 新たな機能を持つ(架空の)SNSを駆使し、同性愛の高校生コンビを登場させと、序盤で今風の設定をしているのですが、円明学園の調理部員は女子生徒しか登場しない(個別の人物として女性しか出てこないし、新入生部員全体を「彼女ら」と呼んでいる:22ページ。コンテストでライバル校の代表は男子生徒ですが、代表になるのはある意味プロ的な位置づけなのでシェフ・板前がむしろ男の世界というのにも似て…)など、全体としては旧来の男女の描き分けがなされている印象です。
 マッチングアプリにスマホに記録されている個人情報全部を読み込ませたり、さらには遺伝子情報まで入力するということに、凪津が肯定的である上に、他の登場人物を通じても警戒感が示されないという新技術・IT企業への無警戒ぶりは、いかがなものかと思いました。


加藤シゲアキ 新潮文庫 2023年7月1日発行(単行本は2020年11月)
吉川英治文学新人賞受賞作
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ひとりでカラカサさしてゆく

2023-11-11 22:28:59 | 小説
 1950年代終わりに美術系の小さな出版社で同僚だったときからの付き合いが続いている86歳の篠田完爾、80歳の重森勉、82歳の宮下知佐子の3人が2019年の大晦日にホテルの部屋で猟銃自殺し、長く音信もなかった子や孫、知人らが驚き、困惑し、後悔し、懐かしむ様子を描いた小説。
 この作品でただひとり一人称(僕)で語る宮下知佐子の孫である獣医は、死んだ3名以外の登場人物として最初に登場します(9ページ)が、登場頻度は低く(姓は106ページになって1回だけ登場)主人公と評価できるような重みは全然なくて、自分の母親や姉、祖母にも怨念を持ち続け関わり合いを避け不機嫌であり続ける性格的にも共感しがたい人物で、作者がなぜこの人物だけを一人称で語らせ続けたのか不思議です。
 私は、小説を読むときには、自分のことは棚に上げて、素直で前向きの人物を好み共感するたちなので、残された人たちの中で宮下知佐子の孫踏子、篠田完爾の孫葉月には自然に入れましたし、登場の頻度から見て作者もそう感じているのではないかと思うのですが。
 コペンハーゲンの葉月の下宿の大屋の好物がかっぱえびせん(90ページ)というのに、何かほっこりしました。


江國香織 新潮社 2021年12月20日発行
「小説新潮」連載
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小さな会社・お店が知っておきたいSNSの上手な運用ルールとクレーム対応

2023-11-10 20:54:06 | 実用書・ビジネス書
 SNSでの炎上を防止し、クレームや批判的な投稿があったときの対応をするための体制作りと担当者の心得等について解説した本。
 対応は、当然のこととしてケースバイケースで、現時点ではAI(ChatGPTなど)が対応できるタスクではない(おわりに)とされています。
 その中でも、トラブルが起きたときに元になった(自分が書いた)書込を削除しない(隠蔽したと評価されて炎上しかねない:67~69ページ、197~200ページ等)、日常的にユーザーのコメントに返信する前に相手が普段どのような発言をしているユーザーか確認する(問題のあるユーザーと公開の場で交流していると、不道徳なユーザーに対し好意的に接している企業であるという印象を他のユーザーに与える:213~214ページ→コメントを返す相手も選別しろ)、議論はしない(絶対に理解し合えない、かつ今後も接することがないユーザーに対して労力を割くのは無駄、聞いている第三者も疲れる:214~215ページ)ことが推奨されています。
 従業員に対し個人アカウントのプロフィール欄に勤務先を記入するなと伝える(184~185ページ)というのは、炎上対策として意味があるのでしょうけど、いかにも会社本位の考え方で、どうよと思います。


田村憲孝 同文舘出版 2023年9月27日発行
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口述労働組合法入門 改訂版

2023-11-09 22:46:49 | 実用書・ビジネス書
 使用者側で労務屋として労働組合と対峙してきた著者が、その立場から労働組合法の規定、解釈、判例などを解説した本。
 法律の解説書としては読みやすい文章であり、また紹介されている判例等もオーソドックスなものです。
 使用者(会社)側には組合嫌いになるな、健全な労働組合の存在はむしろ会社のためになると教え諭す論調の部分が多く見られますが、それは労働組合が会社の言いなりになって労働協約や労使協定を締結すれば会社は好き放題に労働条件を切り下げられる(御用組合はむしろ労働者の敵)ということが背景にあることを、労働者側としては見逃してはなりません。闘う労働組合に対しては、著者は「労働組合の側にも、誠実交渉義務があってもよい」(137ページ)とか、自分の聞くところでは「ストライキを実施したことで会社が競合他社にシェアを奪われる等、労使ともに得るものが全く無かったどころか失ったものが多かった」(173ページ)とか、「ストライキを行うものですから、取引先からは納期や品質に関する不安から発注を手控えるところが増えて、当然会社の業績は悪化していきます。そのうちに組合指導部に反対する者のなかから、『毎日まじめに仕事がしたい。夏季の一時金のときには夏季の一時金が世間並みに支給されるような普通の生活をしたい』という意見が出始めて来たのです」(179ページ)などの否定的見解を示しています。
 初版に比べ、憲法的な視点を入れるなど、労働組合側の権利を強調する場面も増えているように見受けられますが、それが著者のバランス感から見て労働組合側の弱体化が進みすぎていることに起因するのだとすれば、使用者側にそこまで見くびられないよう、労働組合側が一層奮起すべきものと考えます。
※初版について2017年11月5日付で書いた記事を読んで「酷評」をいただいたと感じた著者から改訂版の献本を受けました。初版は今手許にない(改めて借りてきて比較検討するまでする気力は無い)ので違いを論ずることはできませんが、前の記事でなぜ紹介しないのかと書いた日本鋼管事件最高裁判決は紹介され(86ページでは判決日の記載を間違えていますが)、挑発的な印象があった記述が丸くなったり、労働組合の権利性を強調する記述が増えた印象はあります。しかし、著者の基本的なスタンスが変わったということではないと感じます。それはある意味で当然のことですが。


小西義博 公益財団法人日本生産性本部生産性労働情報センター 2023年9月15日発行(初版は2017年5月31日)

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奴隷制の歴史

2023-11-08 23:18:59 | 人文・社会科学系
 奴隷制度の歴史を解説し論じた本。
 「はじめに 奴隷制とは何か」で奴隷制はほとんどすべての文明で存在し、今なお存在していると述べているので世界各地の現在に至る記述がなされているのかと思いましたが、アメリカでの南北戦争前までの奴隷制とそれに至るまでアフリカからアメリカに黒人奴隷を供給した大西洋奴隷貿易についての記述が中心で、その前史として古代以来の各地での奴隷制が比較的さらりと言及され、南北戦争以後の奴隷制については触れられていませんでした。
 大部分を占めるアメリカでの奴隷制についての解説では、歴史的事実の説明とともに有名でない個人の体験や声が挟まれて(私の感覚ではもう少し長く具体的な紹介だといいと思いましたが)個人の痛みを感じられるところがこの本の読みどころかと思います。
 黒人奴隷の中で、女性の方が過酷な状況に置かれていた(性奴隷としての側面のみならず、労働も男性奴隷が熟練労働であったり家事等の負担がなく労働時間が短い等恵まれた状況にあった)という視点に力点が置かれているように見えること、奴隷側の抵抗・反抗を意識的に拾い上げていることなどが、著者の姿勢を示し特徴的に思えました。そういう点からすると焦点を当てられてもよさそうなハリエット・タブマンが「メリーランドのハリエット・タブマン ( Harriet Tubman ) は、身体に障害を抱えた女性だったが、一九八四年に一人で脱走した。その後、南部に戻って他の七〇人以上の解放を支援した」(241ページ)の3行だけなのはちょっと意外でしたが。
  gafa というのは、ガラ( Gullah )人(サウスカロライナ州とジョージア州に居住するアフリカ系アメリカ人)の言葉では「悪霊」の意味なんですね(137ページ)。現代の金の亡者に昔ながらのふさわしい呼び名があったのは興味深い。奴隷制とは関係ないですが。


原題:WHAT IS SLAVERY?
ブレンダ・E・スティーヴンソン 訳:所康弘
ちくま学芸文庫 2023年8月10日発行(原書は2015年)

 
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終活の準備はお済みですか?

2023-11-07 21:28:46 | 小説
 3代目の若社長の下で諦めと迷いを感じている喫茶店チェーンの本社勤務55歳の鷹野亮子、定年退職後時間を持て余しつつ兄の認知症の気配に動揺している68歳の森本喜三夫、子どもに愛情を持てず子どもを育ててくれている父にも感謝できず脳梗塞で倒れて介護を要するようになった母にも怒鳴り散らしいつも追い込まれた気持ちでいる稼げない行政書士32歳の神田美紀、天才的な腕でシェフとして成功しながら癌に苛まれる33歳の原優吾が、葬儀社の子会社が経営するサロンで終活相談員をしている53歳の三崎清を訪ね、終活に向けた「満風ノート」にこれまでの人生などについてのさまざまなことを書き込みながら人生の見直しをするという短編連作。
 中高年女性、高年男性、若年女性、若年男性と並べ、読者が誰かには自己を投影できるという狙いと思われますが、人生のあれこれや本音、後悔などの描写で、年齢・性別を異にしてもほろりとさせられました。そういう心情への訴え方はさすがだなと思いました。
 短編の中で視点人物の切替が多く、特に前半はちょっと落ちつかない感じもしました。


桂望実 角川書店 2021年5月20日発行
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知ってるつもりで実は知らない?パソコン・ネットの秘密

2023-11-06 22:21:10 | 実用書・ビジネス書
 パソコンと周辺機器、ネットと電子技術に関するトリビア的な解説をする本。
 第1章は「今さら聞けないパソコン周りの秘密」と題しているのですが、そこで書かれているのがディスプレイのスペック表の指標とかマザーボードの構成と規格・スペックとかで、いや私は全然恥ずかしがらずに堂々と聞いちゃうレベルのことばかりです。家庭で使用しているWi-Fiを測定解析することで外から室内の配置やドアの開閉状態、室内にいる人の人数・位置・姿勢・体温・呼吸状態などを判定できてしまうとか、怖すぎる。
 第2章ではUSBメモリの寿命とか、SSDの不安定さ、激安SDカードの製品不良など、データ保存には気をつけたい身には不安な話も書かれています。これまではそういうことでのデータ喪失は経験していないのですが、現実に世間ではそういうこともわりとあるのですね。
 第2章の始めには、ネジの規格の乱立の話から、DIYのリスクに話が及び、その難しさを楽しめないのであれば素人作業はせずにプロに任せるべきとした上で、「ただ、プロの質が下がっているのも問題の1つです。これは、過度な低価格要求やDIYの増加によって業務経験の頻度が下がっていることも影響の一つと言えます」(64ページ)と書かれています。弁護士業界も弁護士を増やした挙げ句に本人訴訟が増えれば同様に事態に至るかも…「仕事は信頼できる所に頼み、適正な対価を払うべきです。これこそが、日本の経済や文化を高める道であり、巡り巡って私たちの生活も安全かつ豊かに改善されていくのです」(64ページ)という指摘を噛みしめておきましょう。


I/O編集部編 工学社 2023年7月30日発行


 
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