伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。2022年から3年連続目標達成!

透析を止めた日

2025-01-14 23:36:58 | ノンフィクション
 腎機能が著しく低下し、透析クリニックで透析を受けている患者が体調の悪化等で通院ができなくなった後、透析を止めれば数週間も持たないが、癌と重症心不全以外には緩和ケアの保険適用がない日本でどうすればいいのか、その出口のなさを、夫の看取りの経験とその後の取材で描いた本。
 父親が透析を受け続けていた身には、いろいろと沁みる本でした。
 終末期以前に、現在日本で約35万人が受けている透析自体の過酷さを、畳針のような太い針を腕に深々と差し込み不自然な激しい血流で血液を回すことによる体への負担、その状態で寝返りも打てずに過ごす4時間、自分で真似てみたがただ4時間同じ姿勢を保つのは無理だったというノンフィクションライターらしい観察(25~28ページ)が秀逸です。離れて暮らしていたし一度も透析に立ち会わなかった私には想像力が及びませんでした。
 「多くの透析クリニックは元気に通ってこられる患者、少なくとも座位を保つことができる患者を前提としている。トラブルが起きた患者は、提携する大病院に送ってしまえばいいのだ」(129ページ)、「そこから先はもう“永遠の入院透析”しか選択肢がない」(280ページ)という実情は、私も2023年1月に父親が透析を受けていたクリニックに呼び出されて、もううちでは対応できないから入院させるかあるいはもう覚悟をするようにと通告され、経験しました。
 前半の闘病記録の生々しい迫力に対し、透析治療の現状等を語る後半は、抑えた記述を心がけているということかも知れませんが、現状批判はやや遠慮がちに思え、他方で解決をほぼ腹膜透析(自宅で可能な透析)への期待に一元化していることに、それでいいのかなぁという思いを持ちました。
 2023年1月に透析クリニックで説明を受けた際には、腹膜透析は、家族側で説明を聞いてやれそうに思えませんでした。それが医者側でも認識が深まっていない、患者家族側の偏見だということなのでしょうけれども。


堀川惠子 講談社 2024年11月20日発行
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アメリカの中高生が学んでいる話し方の授業

2025-01-13 22:39:55 | 実用書・ビジネス書
 コミュニケーションコーチを職業とする著者がアメリカのコミュニケーションスクールの授業を視察して得たエッセンスを語る本。
 話し方の「技術」ではなく、自分中心のマインドになっている自分を自覚し、相手中心のマインドで、相手をリスペクトして話す、相手に聞くのは事実よりも、相手がどういう気持ちを持ったかを重視する、非言語表現を軽視しない/重視するというあたりがポイントのようです。服装に気をつけて世間一般に認知された服装も大切です(244ページ)といわれてしまうと、そうなんでしょうけど、なんだか気詰まりです。
 非言語表現が大事という話が、冒頭には「メラビアンの法則」という言葉が出なかったので、どちらかというと私は感心した(心理学系の本でそれを錦の御旗のように書く本が多く食傷しているので)のですが、やはり出てきました(67ページ)。そうなると、そうだろうなと思うマズローも(110ページ)。


小林音子 SBクリエイティブ 2024年3月31日発行
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受験生は謎解きに向かない

2025-01-05 21:45:07 | 小説
 「卒業生には向かない真実」で完結した「自由研究には向かない殺人」以下3冊シリーズのエピソード0です。
 1作目が明るく始まったもののどんどん暗くなっていったシリーズの前日譚が、ちゃんと明るいトーンに戻っているところはさすがと思いました。1作目で不自然というか唐突に思えたピップが5年前に起きて誰も不審に思っていない殺人事件の真実を疑いその解明を自由研究の目的にする動機もうまく説明していて、エピソード0としては出色のできといってよいと思いました。
 友人が作成した殺人事件ミステリーゲームの登場人物に友人たちがそれぞれなりきってプレイヤーとして推理するという設定については、それぞれが指示に従うゲームのため、自分が扮している人物の真実を知らないので、登場人物の内心を描いてもゲーム上の人物の内心はわからないということになって、ある意味で巧妙なというか斬新さがあります。事件の捜査/調査を自由研究のテーマにするという第1作の設定も合わせ、こういう思いつきの巧みさに感心しました。
 他方で、殺人事件自体が所詮はゲーム(絵空事)ということが、読者のみならず登場人物もそう思っているというのが二重に真剣味を欠いてしまうこと、各人がゲーム上の登場人物の名前と作品中の登場人物の名前で呼ばれ、名前を覚えるのが苦手な私はシーンごとに人物の同定に苦しみ混乱して読みにかったことが、残念に思えました。


原題:KILL JOY
ホリー・ジャクソン 訳:服部京子
創元推理文庫 2024年1月12日発行(原書は2021年)

「自由研究には向かない殺人」は2023年9月12日の記事で紹介しています。
「優等生は探偵に向かない」は2023年9月13日の記事で紹介しています。
「卒業生には向かない真実」は2023年11月20日の記事で紹介しています。
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