今話題の映画「おくりびと」を観た。仕事上観ておこうと思った。
庄内を舞台に、「納棺師」という仕事を通じて人の死を見つめるという内容だ。
よくできた映画だった。奇をてらうことも、華美な演出もない、静かなストーリーに自然に引き込まれていき、気がついたらエンディングを迎えていた。
これほど「遺体」が前面に出てくる映画もないだろう。主役は死者であり、「死」そのものであった。
普段タブー視される死を、人生の最後の姿として美しく受け止めるための介助、それが納棺師という仕事だという内容だった。
確かにその仕事ぶりを目の当たりにすれば、次第に、死は忌み嫌う存在ではなく、命の尊厳として受け止めるべき存在だと思うようになるだろうと感じた。
そしてそれは、遺族だけではなく、納棺師や火葬を執行する人々自身にとっても同じなのではないか。
何度もその場面に遭遇すれば、慣れによって敬虔な気持ちは失われ、おざなりになってしまう、ということもないわけではないだろうが、それ以上に死から学ぶことは多いのではないかと思わされた。
私自身も、仕事上何度も死者をとりまく一連の場面に出会ってきたが、どんな死であれ、一人の人の最期の場面はいつも厳かで、たくさんのことを考えさせられる。
家族にとって死者は、単なる死体ではなく「生きる死者」だという言葉があるが、全くその通りなのだと思う。
そうでなければ、あんなに死者にむかって語りかけたりはしないだろう。
この映画は、映画としても充分に観る価値のある作品だったが、低層に流れるテーマとしての命に対するやさしさという意味からも、是非一見の価値はあると思う。