本日は一昨日に続いて、ルドルフ・ゼルキンの1987年の演奏で、ベートーヴェンのピアノソナタ第31番を楽譜を追いながら聴いている。
おととい第30番のところで記載するのを忘れたが、ゼルキンは装飾音を前拍の中に入れ、そして被装飾音はアクセントを点けている。装飾音が一つ一つ丁寧に、ゆっくりともいえるほどに弾いている。私にはこれがとても好感度である。この弾き方は31番にも当てはまる。
この曲のもっとも気に入っているのは、第3楽章のフーガの前段に置かれた、アダージオ・マ・ノン・トロッポの部分。耳に心地よいのだが、楽譜を見ると、転調や複雑な速度表示などに惑わされるほど自在な変化が見られる。楽曲の形式にとらわれようとしないベートーヴェンの意志を強く感じる。
後半の8小節から26小節までは「嘆きの歌(Klagender Gesang)」と譜面に記されている。とても印象的である。バッハのヨハネ受難曲との関連があるというが、私はヨハネ受難曲を知らないのでなんとも言えない。この部分を聴くだけでも、満足しそうな気分になる。
私は第1楽章の再現部も気に入っている。提示部・展開部よりも私の耳には心地良い。特に第2主題の再現が印象的である。