本日読み終わったのは「万葉の時代と風土」の「万葉の詩心」。以下、まとめのような箇所を引用。
「日本人の思考自体が「重ねの構造」をもち、思考に対応することばも、重ねの文脈によって作られてゆくのではないか、と。重ねには、二つのものを他者としつつも、重ね得る同質性があり、かつ両者が構造体として別種のものを作るというのではなく、常に原質を保有しながら展開発展してゆくという性質がある。‥われわれの文脈に、このような重ねを具現させることばが、「の」なる助詞であろうということも、かつて述べた。「の」を「重ねの助詞」と呼んでみるのである。」
引用した個所は難しいが、例歌を引用した説明はわかりやすく、納得できるものであった。
「東歌が集団歌として、よく古代和歌の典型を死す目と考えたからである。著名歌人を多く持つ万葉集の和歌は、もとよりさまざまに名歌をうんでいる。しかし本末を転倒してはならぬという気持ちが私には強い。万葉集を論ずるのに、少数派の芸術をもってするのもまた、片手落ちだという警戒心が私には強い。‥自然のもろもろと心情との重なりが、美しい万葉の詩を紡ぎ出していった源だと思われるのである。」