メランコリア

メランコリアの国にようこそ。
ここにあるのはわたしの心象スケッチです。

『希望の国』(2012)

2013-12-28 15:37:15 | 映画
『希望の国』(2012)
監督・脚本:園子温 出演:夏八木勲、大谷直子、村上淳、神楽坂恵、清水優、梶原ひかり、筒井真理子、でんでん、田中哲司 ほか

「ものすごく遠ーーーくへ行かない限り、逃げることに意味なんかない」
「逃げるところなんてないんですから」

福島の震災後の話という設定で、再びまったく同様の地震、津波、原発事故、放射能汚染の事実の隠蔽などが描かれる。
ムダな装飾等が一切なく、真正面から向き合った描き方は、昭和の社会派映画の趣を感じる。
まるであの悪夢を追体験しているようで、また胃に穴が開きそうになった/辛


田中さんは、まさかの1カットのみの出演
まあ、結果的に今作を観るよう導かれたってことかな。

▼story
架空の長島県は原発の町。ある日、巨大地震が発生し、原発が爆発した
原発から20km以内は警戒区域に指定され、退避命令が下り、
酪農家の小野家と、隣りの鈴木家は分断される。

必要最低限の物を持ち、2~3日で帰れるから大丈夫などと言われて避難用バスに乗る。
避難所は満杯、電力会社の男性は周囲から非難を浴びる。

父の小野泰彦は原発反対派で、チェルノブイリ事故の際に買っておいたガイガーカウンターで周囲を調べ、
息子のヨウイチと妻イズミに「2~3日家を出ていけ」と言い渡す。
母のチエコは認知症で、大きな環境の変化は症状を悪化させるため、父は夫婦でここに残ると言い張る。

「ウチへ帰ろう」「あと10分たったらな」

モメにモメた末、家を出たヨウイチらは、途中のガソリンスタンドで放射能汚染しているのではと疑われて断られる。
ヨウイチは慣れない力仕事に就き、イズミは妊娠5週目と分かって、「放射能恐怖症」に陥り、パニック状態となる。
産婦人科に通う妊婦も「母乳からセシウムが検出された」と不安を語る。
イズミは、「避難区域にいても危険度は変わらないから、もっと遠くに引っ越そう」と言う。

父「自分と家族で相談して決めろ。国や県、町長などを頼っていると何度でも杭を打たれる。逃げることは強さだ」

1ヶ月も経つと慣れてしまってマスクもしなくなった住民らに疑問を感じるヨウイチ。
役人は自衛隊による強制退避になる前に自主避難して欲しいと頼みにくる。

父「この木は、オレたちが生きてきたしるし、刻印だ」




20kmとか言われても、自分の家がどっちに入るかなんてきっと分からないだろうな。
3.9がホットスポットと言って、レントゲンを浴び続けているのと同じレヴェルとのこと。
「牛の殺処分」とひと言でゆっても、家族を殺すのと同じ苦しみだってことも伝わってくるシーンが辛すぎる。

鼓動が早まる音、杭を打つ音、海辺ではお経のような声も入っていて、
見えない不安と恐怖感を増大させる。
マーラーなども流れるし、ラストの鐘の音?は、祈りの叫びのように響いた。


 
鈴木家の可愛い柴犬のペギーは置いていかれてしまう/涙

避難所に来たミツルとヨーコが、津波で流された町を彷徨い、
2人の子どもに出会うシーンが堪らなかった/涙×∞


「愛があるから大丈夫よ。愛さえあればなんとかなるよ」

この世を地獄ととらえるか、天国ととらえるかは、それぞれの選択によるんだ。








これで、ようやく田中さんの映画出演作は、新作以外すべて観たことになる。
でも、2008年の『グーグー~』他、随分前に観て、すっかり忘れてしまってる作品もあるから、
それも全部観直したいくらいだな

それでもボクはやってない(2007)
真木栗ノ穴(2007)
図鑑に載ってない虫(2007)
東京タワー オカンとボクと、時々、オトン(2007)
たみおのしあわせ(2008)
グーグーだって猫である(2008)
ハッピーフライト(2008)
死刑台のエレベーター(2010)
白夜行(2011)
八日目の蝉(2011)

この他にもまだノートにメモってあってブログに載せていない作品が2、3あると思われ。

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『さよならのあとで』(夏葉社)

2013-12-28 15:04:52 | 
『さよならのあとで』(夏葉社)
ヘンリー・スコット・ホランド/詩 高橋和枝/絵

【内容抜粋メモ】

死はなんでもないものです。
(death is nothing at all.)
私はただ
となりの部屋にそっと移っただけ。

私の名前が
少しの暗いかげもなく
話されますように。

すべてはよしです。
(all is well.)



ヘンリー・スコット・ホランドは、英国教会の神学者、社会問題について思索した哲学者でもあった。


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私好みの可愛いサイズ、装丁の本を数冊借りてみたら、どれも詩集だった。
たった1篇の詩だけれども、1頁に1行ずつめくるごとに
その1行の世界が真っ白い紙の上に広がってゆく。

エンピツで何気なく描いたみたいな挿絵もちょうどいい。

私は幸いまだ深い悲しみにとらわれるような死別体験はないけれども、
もしその時がきたら、この1冊は大きな慰めになることだろう。

また、自分が逝く時も、自分を知る人にこう思ってて欲しいと思う、
そんな詩だった。


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『今日』(福音館書店)

2013-12-28 15:04:51 | 
『今日』(福音館書店)
伊藤比呂美/訳 下田昌克/画

【訳者あとがきメモ】

ニュージーランドの子育て支援施設に行った際、壁にこの詩が貼ってあった。
英語圏には、人を慰め、励ますための、よみ人知らずの詩がいくつも流布している、その1つのようだ。

昔、私が子育てを始めた頃に、性格が生真面目で几帳面だったから、
考えつめすぎて絶対つまづくだろうと思って作り出した呪文は

「ずぼら、がさつ、ぐうたら」

この「今日」という詩とともに、おすすめします。




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『さよならのあとで』と同じく1篇の詩を1冊にしたものだが、
偶然か必然か、こちらはこれからまさに人生が始まる赤ちゃんを育てるママに向けた詩。

私には子育ての経験もないけれど、
いまだ子育てが女性の手に任されている国では、
きっと心に寄りそう1冊となるに違いない。

生活の煩雑さに疲弊して、自分を見失った時でも、
1人の尊い命を育てている大切な時間だってことを思い出させてくれる。

こうして、よみ人知らずのまま流布して、大勢を癒している詩がたくさんあることにも感動した。

それから、巻末にはペットを失った人への詩もあって、これには号泣した。


「虹の橋」



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『あなたのひとり旅』(現代企画室)

2013-12-28 15:04:50 | 
末盛千枝子ブックス『あなたのひとり旅』(現代企画室)
M.B.ゴフスタイン/画 谷川俊太郎/訳

【内容抜粋メモ】

私たちはひとつ
神さまの家族の一員

ああ あなた
私のあなた
私のこころはずたずた
あなたのひとり旅に




ゴフスタインは、ずっと真実の愛とは何かを絵本で表現したいと考えていた。
ジョン・ハートフォードの歌う♪Your Lone Journey を聴いて、これだと思ったという。
本書は、ゴフスタインにとって、25冊目の本だが、他人の文に絵をつけたのは初めて。


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本書は、逝ってしまったパートナーに向けて、残された者からの詩。
谷川さんのシンプルな訳がすばらしい。

死別と言っても、いろんな形がある。
たとえ寿命をまっとうしても、別れの辛さは変わらないのだろう。
愛し合っていたらば、いたほど、一人の日常に戻るには、
乗り越えなければならないさまざまなこころの段階があるという。

クレヨンで描いたような温かみのある絵が包みこむ。


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『ふりむく』(マガジンハウス)

2013-12-28 15:04:49 | 
『ふりむく』(マガジンハウス)
松尾たいこ/絵 江國香織/文

【内容抜粋メモ】



あなたはいま5歳で、世界は輝く真夏で、

あなたの手足は白くはちはちと甘く、

あたまのてっぺんから日ざしの祝福をうけ、

言葉ではないなにかに護られている。

あなたは露ほども孤独をおそれてはいない。

それほど立派に、愉快にひとりぼっちだ。



松尾さんが描いた絵を江國さんに見てもらって、感じたままを文章にするという企画。



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こうして現代に生きる作家と画家が、それぞれの感性のままに
自由につづった本が生まれるってとても贅沢。

マットでカラフルなイラストに合わせて、思いつくままに書かれた文章は、
同年代のカップルの詩が多い。

私なら、どんなシチュエーションが思い浮かぶだろう?と思いながら読むと
十人十色のイマジネーションって素晴らしいなと改めて思う。


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