外国でも無差別大量殺人事件というのはよく聞くが日本の場合と比較できるかな、と平敷は問いかけるように言った。
「どうかな、外国は銃による事件が多いな。とくにアメリカでは。場所も高校とか大学構内というのが多い」
「日本の場合はほとんどが刃物による殺傷だな。銃を使うのも例外的にまれにあるようだが」
「最近富山で警官の銃を奪った事件があったくらいだ。昭和の初めに発生した津山三十人殺しも猟銃かなんか使っていたようだが例外的だ」
「本質的な部分ではどうだろう、通約できる点がありそうか」
「どうかな、僕は疑問だと思うね。君が詳しく調べたらいい。ただテロっぽい事件は別の考察が必要だろう。外国、欧州やアメリカでの事件にはそういうのがあるからな。テロなら自爆にしろ無差別殺傷にせよ、信念に基づく犯罪だから動機や理由が不明ということではない」
母子が食事を終えて席を立った。男の子は従順な子犬のようだ。調教で馴致されたサラブレッドの仔馬のように母親の後についていく。そこでTは思い出した。今日持ってきた秋葉原事件のノンフィクションで犯人の生い立ちの記述があるが、非常に特異なものだった。青森の家庭だが母親というのが異様な形での教育ママだったらしい。宿題の作文は息子の書いたものを執拗に添削して書き直させたという。また絵画なども母親が気に入るように何回も描きなおさせたという。もっとすさまじいのは、息子は食事を食べるのが遅かったらしいが、母親は食べかけの食事を床の上にばらまいて、それを息子に拾いながら食べさせたという。理由が振るっている。食べるのが遅いと食器を洗うのが遅くなるというのである。せいぜい20分かそこらだろうが、それが我慢できなかったというのである。息子は抵抗できずに言うとおりにして育ったらしい。先ほどの息子のがなんとなくその時に読んでいた加藤の家庭を想像させたらしくて記憶に引っかかっていたのだろう。
親子から平敷のほうに向きなおったTに対して彼は聞いた。「この三件に共通点はあるかな」
「さあね、あるような、ないような」というと彼はメモを取り出した。読みながらメモをつけたんだが、これも参考になるかどうか渡しておこう」といいながTはざっと内容を説明した。
「犯行時の年齢は大阪池田小学校事件の犯人宅間守は38歳、土浦事件の金川真大は24歳で秋葉原事件の加藤智大は25歳だ。人生経験は宅間が抜群に長いし、それだけ経歴も多彩だな。
学歴は宅間が高校中退、金川が高卒、加藤が短期大学卒業だ。職歴は年齢のせいもあるだろうが宅間は多彩だ。もっともいずれも長くない。大阪の府役所だか市役所でバスの運転手、小学校の用務員なんていうのもやっている。金川は高卒後ほとんど引きこもりで家でゲームばかりしている。加藤はかなり職歴がある。いずれも短期で最後は自動車産業への派遣職員だ。
次に女性関係をみると、これも宅間が群を抜いている。結婚四回、婦女暴行無数というわけだ。