穴村久の書評ブログ

漫才哲学師(非国家資格)による小説と哲学書の書評ならびに試小説。新連載「失われし時を求めて」

4-4:メモから

2018-08-11 10:21:28 | 妊娠五か月

「宅間守は自衛隊にもいたんじゃなかたっけ」と平敷が思い出したようにつぶやいた。

「そうそう一時航空自衛隊にもいたという。えーと」とメモに目を戻した。

「土浦事件の金川は引きこもりで女性経験はなかったらしい。秋葉原事件の加藤は職歴が多彩だから女性との交友はあったらしいが宅間のような経歴はないようだね。むしろ乏しいほうだったらしい。その文庫本によると」

  家族関係だが、宅間の父親はドメスティックバイオレンスの塊だったらしい。母親に対しても常時暴力をふるっていたという。彼の裁判での鑑定書でもこれがかれの性格形成に悪い影響を与えていると指摘している。金川の家庭ではDVはなかったようだが、親や兄弟との会話がなかったらしい。だから高校卒業後引きこもりになったのかもしれない。宅間のほうに目の前に息子がいると始終暴力を振るわれるから子供は家にいられないからね」

で、加藤の場合は、と平敷が聞いた。

「さっき言ったように母親が特殊だろう、息子に対して要求が多いというか。それで彼は大学には行かないと宣言したらしい。これが彼の母親に対する最初の反逆だったのだろう」というと「まあこれを見てくれ」とメモを渡した。

 「犯歴か、宅間は多いな」

「彼はトラブルを起こすと精神病だとか言って母親が精神病院に閉じ込めた。やくざや警察の捜査を逃れるためにね。そこでいろいろ薬も投与されたから余計おかしくなったんじゃないのかな」

「金川と加藤は犯歴なしか」

「世代も離れているが、宅間と後の二人との違いはIT時代の影響というかな、たとえば引きこもりの金川はゲームばかり家でしていたらしい。それから加藤はインターネットの掲示板の世界にはまり込んでいった。宅間にはゲームもインターネットの影もない。世代が違うからだろう」

 「よくこういう問題を題材に取り上げる連中が、口をそろえたようにいうのがインターネット時代とかゲームの影響というが宅間の場合は全く違うわけだね」

「そう」

「しかし、犯行のパターンというか、姿勢とかはむしろ金川や加藤は参考にするというか共鳴するというか、、」

「そう言えるだろうね。メモにも書いておいたが犯行の計画性というのはある。もっとも計画性というのをどうとらえるかだが、一年も前から計画書を練るとかいうことになると計画性は勿論ないが、犯行のために包丁や凶器を事前に用意するという意味では突発的な犯行、衝動的な犯行ではない。これは共通している。犯行の場所も事前に選んでいるしね」

 「最大の関心事は君にも話したけど動機は何なんだ、三人の犯行に共通点があるのかということなんだが、君の意見はどうなんだ」と平敷は確認するように聞いた。

「表面的には共通点はない。各犯行別に調べてもはっきりとした動機があるとは思えない。

こういうものを動機というか目的と言えればだが、スペクタクル狙いの自己顕示欲ではないか、とみれば共通点はあるかもしれない」

「そんなものが動機と言えるかね」

「いえないね、普通は」