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観客席で思ったこと ~200文字限定のスポーツコラム~
 



全英オープンテニス(=ウィンブルドンテニス)大会が終盤を迎えている。ここ何年か、特に理由もなく、熱心には見ていなかったのだが、今年は、杉山愛対シャラポワ戦やシャラポワ対V・ウィリアムス戦など何試合かをテレビで見て、その熱戦に、思わず画面に引き込まれた。

なかでも興味深かったのは、今年から導入された「プレイヤー・チャレンジ・システム」である。審判の判定に対して、選手が納得のいかない場合、ビデオ(コンピュタ・グラフィックス)での精密な判断を求めることができるルールだ。

昨年の全米オープンテニスで初めて導入され、その後、男子のデビスカップや今年の全豪オープンでも採用された。全英では、今年から、センターコートと第1コートの2つのコートでの試合に採用されている。すべての試合でおこなわれないのは、判定するための「ホーク・アイ・システム」が高価なこと、運用するために膨大な数のカメラが必要になること、それと判定映像を映す大型ビジョンが備わっていないことが考えられる。

ビデオで反則や得点の確認をするのは、アメリカンフットボールやラグビーなどで、すでに行なわれている。日本の国技、大相撲でも物言いがついたときには、ビデオを参考にしている。ちなみに、サッカーではビデオでの判定は採用されていないが、ちょうど一年前のワールドカップ決勝でのジダンの頭突きに対する裁定は、ビデオで確認した結果だったとぼくは推測している。

テニスの場合、他の競技と違って、ビデオ判定を「チャレンジ・システム」というかたちで、競技の一部に、エンターテインメントにしているところがおもしろい。

きわどい判定があったときに、選手がチャレンジするのかしないのか。チャレンジした場合には、場内のスクリーンやテレビに映る判定映像を、選手、審判、観客が一緒になって確認する。そして、結果を見ての「オオォーッ!」という声。判定が間違っていると、選手は笑顔を見せ、審判は苦笑いをする。純粋なテニス競技の流れからは、それてしまうという意見もあるようだが、回数も限られているため、ぼくはあまり気にならなかった。もともとテニスは休憩も多いし、ウィンブルドンでは雨で中断になることも多い。「チャレンジ・システム」にかかる時間など問題ではない。

なによりも、審判だけが陰に集まって、ビデオを確認し、判断するということではなくて、みんなで映像を確認するというのが凄い。なにしろ、審判は、観客の面前で「いまのあなたの判定は間違っていました」と宣告されるわけである。もちろん、審判が正しい場合もあるが。そして、それでも審判を続けなくてはならない。審判のプレッシャーは、これまで以上のものにちがいない。

ただ、ぼくがテレビで見た限りでは、ビデオで判定を覆されても、やや引きつった笑いをみせるものの、審判も「チャレンジ・システム」を楽しんでいるように見えた。そのあたりが、130年前に始まった伝統の大会を支える審判たちの強さであり、余裕なのだろう。

テニスにおける「プレイヤー・チャレンジ・システム」は、リアルとヴァーチャルの融合であり、アナログとデジタルの融合でもある。ウィンブルドンテニスにおいては、その融合は成功しているように思う。そして、それを支えているのは、選手と審判の信頼と友好の関係である。

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