Some Like It Hot

お熱いのがお好きな映画ファンtakのつぶやき。
キネマ旬報社主催映画検定2級合格。

マン・オブ・スティール

2013-09-01 | 映画(ま行)

■「マン・オブ・スティール/Man Of Steel」(2013年・アメリカ)

監督=ザック・スナイダー
主演=ヘンリー・カヴィル エイミー・アダムス ラッセル・クロウ ケビン・コスナー

 「スーパーマン」は何度もテレビや映画で語られ続けた物語だ。僕ら世代は、80年代にクリストファー・リーブ主演の「スーパーマン」シリーズを繰り返し観てきた。あの心おどるメインタイトルの旋律は、ジョン・ウィリアムズの最高傑作だと思うし、クラーク・ケントとロイス・レーンのロマコメ的展開も楽しかった。そして、その後のクリストファー・リーブの人生に起こった出来事、その苦難に立ち向かう現実の姿は、「スーパーマン」の勇姿を思うと感動せずにはいられない。ハリウッド製の大作映画の面白さを「スーパーマン」で知ったという人も多かったと思うのだ。

 いくつかのテレビシリーズを経て製作された「スーパーマン・リターンズ」(2006)は、80年代のシリーズへのオマージュが捧げられた秀作だった。しかし、同時多発テロの記憶もまだ生々しく残る時期だけに、旅客機の墜落やニューヨークに危機が迫る場面は、多くの観客を楽しませることはできなかった。カルエル(スーパーマン)の帰還は歓迎されたが、現実が映画を超えてしまったとさえ思えたあの9月11日の惨劇は、カルエルがこの世にいないことを思い知らせる。僕はこの作品が気に入っていただけに、つくづく残念に思う。

 そしてアメコミが次々とリブートされてスクリーンに復活した現在。「スーパーマン」も"鋼鉄の男"と題されてスクリーンに戻ってきた。「バットマン」の新3部作を成功させたクリストファー・ノーランが原案と脚本を担当した本作。確かに力作だ。アクションの派手さはこれまでの比ではないし、クライマックスは地球規模に危機が及ぶスケールの大きさ。3D映画時代だから迫力はこれまでと全然違う。今回の「マン・オブ・スティール」はひとことで言えば"葛藤"のドラマ。特に前半は、クリストファー・ノーラン色が強い。カルエルは、自分の正体を地球人に明かすべきなのか。地球の軍人・政治家はカルエルを味方と信じるか。父を殺した悪人とはいえ、クリプトン星の存続を願ったゾッド将軍は、30年前の「冒険編」と比べると単なる悪人には描かれていない。掲げた"正義"は他の誰かにとっては"悪"にもなる。これまでの"勧善懲悪"というわかりやすさとは一線を画している。ノーラン作品の魅力である"物語の暗さ"は感じるのだが彼の「ダークナイト」のように人間不信になるほど切実なものではない。多様な正義が世界にはあり、その正当性をそれぞれが強く訴える今の世界情勢。単にあっけらかんと悪者をやっつける「スーパーマン」では確かに物足りないかもしれない。でもそれは従来の「スーパーマン」シリーズが持つ明るい楽しさではない。

 後半はとにかく派手な殴り合いが地球規模で展開される。ザック・スナイダーはきっと「ドラゴンボール」の線を狙ったのだろう。スーパーサイヤ人同士の殴り合いをひたすら見せられているような気持ちになる。30年前みたいにロイスを生き返らせるロマンティックな展開はもちろんなし。ニューヨークは再び破壊される。崩れ落ちるビルディングの描写は「リターンズ」の比ではない生々しさ。同時多発テロの記憶がよみがえる人もいるのではなかろうか・・・。動きが速くて、しかも3Dで観るとちょっと疲れる。3Dで観るには長尺な気もする・・・。

 そんな破壊的な「スーパーマン」映画だが、ドラマ部分がなかなかいいので全体としては許せてしまう。かつてはマーロン・ブランドが演じた父ジョーエルはラッセル・クロウ。タフガイを演じさせたらやっぱり似合う。そして地球での父親ケント夫妻はケビン・コスナーとダイアン・レイン。この二人が素晴らしい。予告編でも出てくる「父さんの子供じゃいけないの?」と尋ねる場面、竜巻に襲われる場面のケビン・コスナーの息子を思う気持ちはグッとくる。ダイアン・レインは老け役だけど、物事に動じない姿が心に残る。デイリー・プラネット社の編集長は、「マトリックス」のモーフィアスことローレンス・フィッシュバーン。80年代はジャッキー・クーガン(チャップリンの「キッド」の子役だった人)、「リターンズ」ではフランク・ランジェラと、初老のおっちゃん像が強い役柄だけど、今回はタフな男性像でかっこいい。

SFXも見応えはあるし、全体的には悪くない娯楽作。でも「スーパーマン」はやっぱり、明るくてユーモアのあるヒーロー像であって欲しいな。

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