監督=クリストフ・オノレ
主演=レア・セドゥ ルイ・ガレル グレゴワール・ルプランス・ラング
「ミッション・インポッシブル ゴースト・プロトコル」の美しき殺し屋役以来、ずーっと気になる存在のフランス女優レア・セドゥ。「マリー・アントワネットに別れを告げて」は地元の映画館にかかって、すぐに観た。ちょっとふてくされた様な表情と、時折見せる素敵な笑顔のギャップが魅力的なんだよねー。んで、彼女の旧作を観ようと思い立ち、出世作となった「美しいひと」を選んだ。日本ではフランス映画祭で上映された後、劇場では未公開。ビデオスルーとなってDVDレンタル店の棚に並んでいる作品。
母親の死後、パリのリセ(高等学校)に転校してきた主人公ジュニー。従兄弟のマチアスに紹介された友人たちが好意を示してくるが、彼女は最も大人しくて誠実そうなオットーと付き合うようになる。そんな彼女に興味を抱いた男性がもう一人。同僚や女生徒とも交際しているプレイボーイ、イタリア語教師ヌムールだ。彼はジュニーに近寄るようになり、その存在を知ったオットーは・・・。
この映画は古典文学「クレーヴの奥方」を現代のリセに舞台を変えて翻案したもの。当時のサルコジ大統領が選挙戦の最中の発言、「クレーヴの奥方を学校で教えるのは意味がない。若者は古典を読んでも役に立たない」に対する反論として製作された映画なんだとか。そういえばフランス文学の「危険な関係」も数々の翻案がある。青春映画に翻案した「クルーエル・インテンションズ」(99)もあるくらいだから、監督の反論はごもっとも。時代を超えた普遍的なテーマってあるはずだもの。「クレーヴの奥方」は夫のために愛する人を拒むお話。恋の相手とこれから先も続いていくかどうか不安になる高校生の気持ちに、原作に描かれる貞節や貴族の社会的な体面を置き換えて製作されている。それ故にどこか曖昧な結末に感じはする。盗まれた肖像画を写真に置き換えたり、ラブレターのエピソードに性の問題を絡めたり、原作の要素をうまく舞台に合わせて置き換える工夫もある。僕は原作は未読だが、幾度も映画化されたものだけにちょっと興味が出てきた。他の映画化作品にも触れてみたい。
ヌムール先生がジュニーに好意をさりげなく示すのが、授業で扱う教材というのがニクい演出。恋心を歌ったイタリアのポップスの歌詞を彼女に音読させて訳させる。愛の言葉を彼女から聞いてみたいという下心が見え見えで、おまけにそれを聞きながらニタニタ笑ってるんだから・・・本当にされたらちょっと気味悪い?(笑)。でもその男心はすっごく共感。ただ、映画全体から見るとジュニーが二人の男性の間で心が揺れる様子がどうもつかみづらいのも事実。オットーの身に起こる悲劇にも感情を激しく表さないだけに、どうも淡々とした印象はぬぐえない。それでも、この映画で注目されたレア・セドゥ嬢、いいね。暗い役柄だけど、アップになる場面で唇の端に笑みが浮かぶ表情がなんとも魅力的。久しぶりにフランス女優に惚れたかも。