■「エデンより彼方に/Far From Heaven」(2002年・アメリカ)
●2002年ベネチア映画祭 主演女優賞
●2002年NY映画批評家協会賞 作品賞・監督賞・撮影賞
助演男優賞・助演女優賞
●LA映画批評家協会賞 主演女優賞・音楽賞・撮影賞
監督=トッド・ヘインズ
主演=ジュリアン・ムーア デニス・クエイド パトリシア・クラークソン
冒頭の街を見下ろすカメラ、タイトル、駅での別離のエンディングとクラシック映画の香りがプンプンと漂う。50年代映画の再現に挑んだ監督のこだわりは見事。エルマー・バーンスタインの音楽も時代を彩る一部となる。監督の前作がグラムロックの時代を切り取った「ベルベット・ゴールドマイン」というから驚きだが、その時代の空気を再現することに長けている人なんだろう。
舞台は57年のアメリカ。黒人地位向上のための運動も起こっていた頃ではあるが、実際には黒人への差別感情は根が深いものがあった。人種問題は、90年代のO・J・シンプソン裁判でも明かなように、今なお問題である。さらにここでは同性愛の問題も扱われる。ヘップバーンの「噂の二人」でも同性愛者と勘違いされる悲劇を描いていたが、当時の同性愛者に対する見方は一種の病気なんだね。そこにはとても驚いた。ジュリアン・ムーア主演作は思えば初めて観たような気がする。抑えた演技で感情を表現。紅葉の美しい風景も見事だった。
ところで、今何故ハリウッド黄金期のような色彩を持つ映画で、人種を越えた相互理解を扱った映画を撮るのか。それは異文化を認め合えない、他人と違うことを認め合えない不寛容さが今の世界を不安にしていることと無縁ではないだろう。それを往年のスタイルを借りることで、より説得力を持たせたかったのでは。クラシック好き映画ファンなら、人種偏見と闘った映画の数々が思い出されることだろう。それは「紳士協定」や「十二人の怒れる男」かもしれない。僕は「招かれざる客」のシドニー・ポワチエの台詞を思い出した。
「お父さん、あなたは私を黒人だと思っている。しかし私はそれ以前に人間だと思っている。」
(2003年筆)
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