■「タイピスト!/Populaire」(2012年・フランス)
監督=レジス・ロワンサル
主演=ロマン・デュリス デボラ・フランソワ ベレニス・ベジョ ミュウ・ミュウ
これだ。こういう映画が観たかったんだ!。映画館を出る瞬間、こんなにも幸せな気持にしてくれた映画・・・最近何があっただろう。映画を観る前から、パステルカラーに彩られたレトロフランスな香りのポスターやチラシにものすごく心惹かれていた。でも予備知識は特にもたず、ただ「観たい」という気持と、期待を込めた映画選びの嗅覚だけで映画館へ。女子向け映画?的な色彩から敬遠する人もいるかもしれないが、こんなにロマンティックで、コミカルで、わくわくする映画は最近ちょっとなかった。しかもこれがフランス映画なんだよ、というダメ押しのラストシーンにもうメロメロです。映画館で久々に拍手しちゃったもん!。
50年代のフランス。都会で憧れの職業である秘書になることを夢みて保険会社の面接にやってきたローズ。タイプなら自信があるという彼女の才能から一週間の試験採用をした上司ルイ。ところが失敗ばかりしでかず彼女。ルイは採用を続ける条件に、早打ちタイピング大会で勝つことを条件にする。そこからローズとルイの大特訓が始まる。二人の関係は恋に変わるのか?タイピング大会の結果は?
レトロな雰囲気が漂うタイトルバックで完全に心を奪われた。そこから続く場面ひとつひとつが楽しくて目の前のスクリーンに映し出された映画以外の何も考えられない。普段だったら余計なことが頭に浮かんだりするんよね。ブログに載せるレビューの文章をこう書こうと頭浮かんだり、オレにもこんな経験あるよなぁと共感したり。それはそれで映画観る上では大事なこと。でも「タイピスト!」はとにかく2時間銀幕に夢中にさせてくれる魅力が尽きない。まずはヒロイン、ローズを演ずるデボラ・フランソワ嬢。ロワンサル監督は彼女の役作りのためにオードリー・ヘップバーン主演作を観させた。「昼下がりの情事」「麗しのサブリナ」など大人になろうと背伸びするオードリーだ。主人公ローズは、そんなオードリー主演作のヒロイン同様にだんだん綺麗になっていく。映画の最初、姿勢も悪く、アゴを引いてふて腐れたような表情、上目遣いで人を見ていた彼女が、映画後半は美しいドレスに身を包んだり、自信に裏付けされた態度、微笑みを身につけていく。
大会を勝ち進んで魅力的になっていくヒロインの成功物語としては、とてもわかりやすくて結末だっておそらく予想できるものだろう。だけどそれを"やっぱりねー"と月並みな感動で終わらせないのが、この映画の上手さ。タイピング世界大会では、各国代表選手がいかにもステレオタイプな描かれ方をしているのも面白い。そしてダメ押しはラストの粋な台詞。フランス映画には小難しい人間ドラマも多いけど、色恋を描かせたらやっぱり上手い。しかもこんなに楽しいんだからもう言うことはない。女性が就ける職業が限られている現実、部屋にピンナップされたマリリン・モンローとオードリー・ヘップバーンで時代を無理なく描くところもいい。しかもそのピンナップが恋する気持ちに気づくひとつの要素になっているのもいい。台詞なしに納得させる巧い演出だ。
そして楽しさを決定づけているのは色彩と音楽。タイピングの練習に色分けされたキーボードと同じ色に塗られたマニキュア。美しいファッションの数々。映画の記憶と共に色彩が心に残る。
音楽も魅力的。躍動感あるジャズがタイピング大会のバックに流れ、昂揚感を味あわせてくれる。タイトル曲もレトロ感を演出してるし、人気者となったローズを歌ったエキゾチックな音楽はタイプの音がパーカッションとして使われてとても楽しい。
映画の幸福感がまだ持続中。この幸福感は、ジャック・ドミがドヌーブ姉妹で撮ったあの映画や、ゴダールがアンナ・カリーナに恋してた頃のあの映画を観た後の幸福感に似てる。
ロマンチストな彼氏とだったら、デートムービーにこれ程適しているものはないと思うぞ。女子諸君。