■「キッチン ~3人のレシピ~/The Naked Kitchen」(2009年・韓国)
監督=ホン・ジヨン
主演=シン・ミナ チュ・ジフン キム・テウ
※注・ネタバレあります
夫サンインと幸せに暮らしていたモレは、ある日美術館で素敵な青年と出会う。彼は、証券業界を辞めてフレンチレストランをひらく夫が呼び寄せたスゴ腕シェフ、ドゥレだった。二人の家に住み込みすることになったドゥレ。次第にドゥレに惹かれていくモレ。幼なじみから結婚した二人に対して、ドゥレは「それが愛なのか」と言い放つ。モレも他の男性を対象として見たことがないだけに、表現しがたいときめきに心が揺れ始める。そして知らぬが花だったサンインが、次第に美術館での出来事の相手がドゥレだと知ることとなるハラハラ。夫と間違えて抱きついたり、シャワーを浴びる姿を見てしまったり。過ちで始まった出会いだけに、モレとドゥレの気持ちはどんどん高まっていく。3人の三角関係の行方は・・・。
韓国の恋愛映画はとてもスタイリッシュだと常々思う。 そこにはまったくアジア的な情緒とは無縁の洗練された雰囲気が漂う。仮にキムチを漬ける場面があっても、キムチくさくない映画なのだ。しかも姦通罪が存在(当時。2015年に廃止。)し、結婚や不倫に日本以上の厳しさがある韓国だけに、こうした三角関係を描いた恋愛映画はスキャンダラスなテーマであることこの上ない。それだけに、この「キッチン~3人のレシピ~」は、洗練された雰囲気に包み込みながら、妻の恋愛という非日常に観客を連れて行ってしまうのだ。
「あなたを食べちゃいたい」と言う、結婚記念日を迎える幸せそうな夫婦がいる朝のキッチン。ところが次の場面では、美術館の物陰に隠れた二人が真っ白な壁と光に囲まれる美しいラブシーン。それを「変わった味がした」と夫に告白する妻・・・映画冒頭からええ?こっちまで驚かされる展開。絵になる場面の雰囲気に飲まれて、僕ら観客は非日常の恋愛シュミレーションの渦に巻き込まれていく。ともあれドロドロになりそうな素材を、すっきりと演出しているのは見事。韓国の恋愛映画は、このように現実を忘れさせるような気分にさせてくれるの が巧いよね。しかし、自分に置き換えて共感できるようなリアルな恋愛映画を好む人にとっては、現実味が感じられな くて好まれないかもしれない。銀幕の非現実をそのまま受けとめられるか、「オレにはありえん」と思うか。
天真爛漫だった彼女が身を引くラスト。あれしかとるべき方法はなかったんだろうけど、それはそれで切ないね。結婚って何なのだろう。人が人を好きになる思いは抑えることができないものなのに。それにしてもチュ・ジフン、かっこよすぎ。彼のファンにはたまらない映画でしょう。そして劇中登場する料理の数々。モレが料理で思いを伝えようとする場面は印象的だった。