医師からの、予防医学への疑問 平成25年9月8日
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著者の近藤誠博士は 慶応義塾大学医学部講師。
1948年生まれで患者本位の治療の実現を掲げられ、
医療の情報公開を積極的に進めてこられた。
抗がん剤の毒性、拡大手術の危険性など、癌治療に
おける先駆的意見を述べられ、その功績から
2012年に 菊池寛賞 を受賞された。
今日は心得11)に書かれている
医師の健康指導に関するお話し。
高血圧や脳卒中などと並んで、心臓病で苦しんでいる
患者は多い。
そのためにも、早期発見、予防医学が注目を浴びる。
後藤医師はフィンランドで15年かけて行った調査を
もとに以下のような記事をかかれている。
引用して掲載させていただく:
”病気の早期発見、予防、早期治療・・・
今、予防医学が大流行りです。
痛みや苦しみがあって、病院に来る人だけ
診ていたら、人口減で患者さんが先細り。
だから、健康に暮らしている人の中から、
病気を掘り起こして、治療して、業界の繁栄を
図ろうとしている ”患者を呼ぼう” 医学です。”
’予防医学’ は実は ’呼ぼう・医学’ だという。
これからの 人口減少を見越しての、医療業界の
営業キャッチフレーズ だともいう。
患者は年寄が増え、出生率は減少化するばかり、
若い世代が減って、一般患者が治療のため病院
にくる割合は その分減少することは目に見えている。
そのために ”早期発見” スローガンで 検査を
主体とした患者を増やしていくのが、
業界戦略 だと近藤医師が現場から意見する。
時間外緊急ケアーに対応できる、医者不足が、
社会的問題になっている。
緊急病院をたらいまわしにさせられて、適当な処置が
遅れて、亡くなったというニュースも近年あった。
近藤医師は、健診や、人間ドッグなど、健康診断も
含めて、そういう急を要しない箇所に人手がとられて
緊急医療体制にまで手が回らない、現状を指摘する。
そこで、次のような 根本的疑問を投げかけられる。
”そもそも医者の健康指導は、人々の病気の予防や
健康長寿のために役立つのでしょうか?”
フィンランドで15年かけて健診を受けた患者の
追跡調査の結果が行われた。
その調査結果から言えば、
”きちんと定期健診を受け 病気や異常が見つかったら
ライフスタイルを改善し、それでも検査値に問題が
あったら医者から薬をもらう”
という、理想的な 健診と病に対する態度が、健康を
維持することと、あまり関係がないということが
わかったという。
その 検査方法に関して 抜粋すると:
”検査は会社の管理職で、40~55歳の、
’見た目には健康だが、心臓病になりやすい因子をもつ’
約1200人を、くじ引きで600人ずつに分けました。
具体的には、・コレステロール値が270mg/dL以上
・中性脂肪(トリグリセライド)が150mg/dL以上
・最大血圧が160mmHg以上、200未満
・最小血圧が95mmHg以上、115未満
・タバコ、一日10本を超える
・体重が標準体重の120%以上
・耐糖能検査で、1時間血糖値が162mg/dL以上
以上のうち、すくなくとも、一因子を有する人たちです。
そして ’介入群’ の600人は4か月に一度ずつ、
5年間、医者が面接して、運動量を増やすプログラム
を手渡し、喫煙者には禁煙させ、食事内容も細かく
指導して、摂取カロリー飽和脂肪、コレステロール、
砂糖を減らさせ、不飽和脂肪(主としてマーガリン)、
魚、鶏肉、子牛の肉、野菜を増やさせました。
高血圧と高脂血症が続いていれば、薬が処方されました。
かなり厳格な介入でしたが、75%が医者の指導を
しっかり守りました。
残りの600人は’放置群’で 調査の目的を知らせず、
健康調査票への記入だけ。”
こうした 緻密な指導に従った600人の’医師介入’グループ
と好き勝手にその後を過ごした’放置組’600人のグループ。
試験期間は 5年間、それから、自由に過ごして10年後に
再度追跡調査 を行った結果が以下である。
”皮肉な結果が出ました。介入群の心臓死
(心筋梗塞、心臓突然死)は、放置群の倍以上も
多く、自殺、事故、総死亡者とも、すべて医者の
指導に従った介入群のほうがずっと、多かったの
です。
ただ、がん死亡だけは介入群のほうが、少なかった。
禁煙の効果でしょう。”
と後藤医師は述べ、さらに、
”症状がないのに、高血圧やコレステロールなどを
薬で下げると、数値は改善しても、心臓には良く
なかった”
続けて、
”検査で病気や異常を指摘され、医者からアドヴァイス
や薬をもらい続けることが 精神的ストレスになり、
心筋梗塞やうつ病につながった”とも、述べている。
こうしたデータを総合すると、医師が介入して
健診を行いながら、指導をしたグループの人たちの
死亡率が 放置グループより高く、薬で、症状
(コレステロールや高血圧など)を抑えてきた
のが結果的に長生きに関与していなかったという
結論に達したという。
日本の場合を最後に付け加えて考察されているが、
後藤医師は次のような警告で結んでいる。
”日本では、このフィンランドの調査のような
研究を経ないで、ただ、’体によさそうだから’
と定期健診が始まり、ここまで広がりました。
医療に対する過度の期待や、医者への手放しの
信頼があったのですね。
しかし、そろそろ、真実を見極めましょう。”
友人は こうした状況を 近藤医師の本を
読んで知り、勤務先で義務づけられている
”健康診断を受けたくないなあ”とつぶやいた。
それは、検査医療被曝のことも頭にあったようだ。
健康診断では大概レントゲンをとって胸の検査を
行う。 場合によっては、CT検査も受けるかも
しれない。
これは一種の医療被曝とも認識されているが
その実態には無頓着なようだ。
日本のCT装置の台数は世界一で、日本だけで
世界のCT装置数の三分の一を占める。
被ばくは、これらの検査によって、確実に
受けており、それによって起きる発がん死亡率も
世界的に”ワースト”と後藤医師は述べる。
引用すると、
”イギリスの研究によれば、日本人のがん死亡の
3.2%は医療被曝が原因、世界15か国で日本が
最もCT検査回数が多く、発がんへの影響は
英国の5倍(2004年、医学誌’ランセット’)”
これをもっと具体的数字で 近藤医師は顕わしている。
”45歳の人の場合、全身CTを一回受けただけで、
一万人中、8人(0.08%)、30年間毎年同じ検査を
受けると、一万人中、190人(1.9%)が被爆により
発がん死亡すると推定されています”(*1)
レントゲン検査に関しては病院の検査は比較的安全と
言われるが健診車で受ける場合などは、間接撮影装置
なので病院の直接撮影装置と比べ、被爆線量が3~10倍
もっと、高くなると近藤医師は 付け加えている。
(*1)
福島原発事故後、国が避難の目安とした
年間被ばく線量は 20ミリシーベルト。
胸部CT検査は一回でその半分、10ミリシーベルト前後。
さらに、造影CTといって、一回撮影したのち、造影剤を
静脈に注射しながら、もう一度撮影するので、2回で
20ミリシーベルト、腹部。骨盤CTはさらに被爆量が
多く、一回で20ミリシーベルト、造影CTをすれば
その倍になるわけだ。
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参考文献) ”医者に殺されない47の心得” 近藤誠著 2013、 株)アスコム