生活保護から天引き
2015年11月16日(月)
広島市が、生活保護費から過払い金を天引きしていて、県から違法性を指摘されたということです。
11月13日、朝日新聞
この朝日新聞の報道によると、「天引きについて、市地域福祉課の紺田礼子・保護担当課長は、『県外の複数の自治体を参考にした。手続きを省略できる長所があり合理的』と説明。厚生労働省に、委任状があれば天引きで過払い金を徴収できるよう政令改正を求めていく。」とあります。マスゴミですから、事実を報道しているかどうか分かりませんが、仮にこの報道が事実としたら、この市の保護担当課長のレヴェルは低いと言わざるを得ません。
政令の改正で、天引きをすることはできません。なぜなら法律に最低生活を保障するという趣旨の規定があるからです。
最低生活を保障する生活保護の基準は、「最低限度の生活の需要を満たすに十分なものであって、且つ、これをこえないものでなければならない」(8条2項)と規定されていて、この基準から天引きにより僅かな金額でも差し引くと最低生活ができないということになります。勿論、最低生活の保障は、生活保護制度のキモの部分です。
政令でできないなら、法律により可能かということがありますが、これも、憲法25条の生存権の保障により困難と考えられます。
新聞報道では、「家賃や介護保険料については、天引きを認める」とあります。これについては、天引きしても最低生活を損なうことはありません。(まぁ、いわば現物支給的になりますので。)保護担当課長の「手続きを省略できる長所があり合理的」との考えは、この家賃等の天引きを念頭に置いたものと思われますが、過払い金の天引きとの違い(最低生活に影響を与えることになるか否か)を理解していない、つまり低レヴェルということです。
具体的な例を想像してみることにしましょう。
①福祉事務所の職員が収入認定を誤り、6か月間2万円ずつ保護費を過払いしていました。12万円の過払いです。(これについては、法律上、返還義務が生じます。)
②その職員は、過払いに気付き、市役所に損害を与えたという自責の念が生じます。(自責の念が生じないような職員は論外です。)
③その職員は直ちに対象者のところに赴き、誤りの説明をし、返還を求めるでしょう。
④対象者は、福祉事務所が誤っているとは露考えず、既に保護費は消費していて、お金はないと訴えます。
⑤しかし、その職員は、(返還に応じてもらえないと、自らの成績に影響が出ると考えるかどうか知りませんが・・)分割でも良いので少しずつでも返して欲しいと迫るでしょう。
⑥ここで、多くの対象者は福祉事務所との関係を良好にしたいと考え、泣く泣く少しずつの返済に応じることになると思われます。(2007年から数億円あるというのですから。)
⑦ ⑤の説明の際、返還義務はあるが、延期制度があることを説明するか否かが決定的になります。つまり、生活保護費は差し押さえられることができないことになっていますので、市としては返還してもらうという債権はありますが、実行できない、つまり延期せざるを得ないのです。これ、市の職員は、対象者が理解できるように十分説明しているのでしょうか・・。対象者の制度に対する無知に付け込んでいるのではないかと危惧してしまいます。
⑧そもそも、行政側の間違いにより、対象者にその皺寄せを求めるという発想が貧しいというか卑しいです。生活保護制度に精通していてまともな人間的考え方をする職員であれば、保護受給中は、生活保護費を差し押さえらえることのないことを、まず説明し、保護を脱却した後に変換を求めることにするハズです。(「対象者によく説明し、理解を得て、任意で変換に応じてもらっている」と考えている職員がいるとしたら、最低レヴェルの更に下をいくでしょう。対象者の弱い立場が全く理解できていない職員です。)
⑧それができないなら、自ら起こしたことについては、自ら責任をとってくださいと申し上げたいです。職員がお支払になったら如何でしょうか。
注 現行公務員制度では、職員に賠償責任を負わすことができるのは、「故意または重過失」ということになっています。収入認定の誤りは重過失とまでは言えないので、賠償責任まで負わせることは難しと思います。ただ、現在、保険制度が充実していますので、過失でも損害賠償を負わすよう法改正をしたらどうでしょうか。過失を心配する職員は保険に入ってリスクヘッジをするようになるでしょう。職員の過失で、税金が無駄になるようなことは、私しゃヤですね。