学校長の式辞に耳を傾ける卒業生 退場する卒業生に、在校生から花のプレゼント
弥生ついたち、言わずと知れた高等学校卒業式の日。縁あって今も母校のお招きを受けて、式場に侍らせてもらっている。忘れかけているといえばかっこいいが、ほとんどを忘れている遠い青春の一ページを、敢えてよみがえらせてもらっている幸運に酔っている。そんな1年に一度の有難い一日、緊張を覚えるひと時である。
袴姿も凛々しい校長先生が、148名の卒業生に卒業証書を渡した後、式辞が告げられた。遠い昔に心に刻んで今もそらんじて歌うことのできる校歌の一節一節を、丁寧にひもとき、卒業生に説き聞かせる内容が、実に心地よく、耳に、胸にしみ込んだ。
67年前に入学した当時に歌い始めた校歌であるが、当時は難しい漢文の朗読みたいでなかなか馴染めなかった記憶がある。そんなことだから、我が卒業証書を手にした時の胸の内を思い出そうとしてはみるが、徒労に終わる。ただ一つ強烈に覚えているのは、卒業と同時に学校推薦の職場を得たこと。つまり仕事をすることで「親の苦労を少し減らせる。できるだけ稼いで家計を助けよう」という、現実的な喜びに浸った。
今卒業証書を手にして旅立つ彼や彼女たちには、そんな現実は縁遠いことだろうと思う反面、同じように働いてもなかなか生活にゆとり感が持てなかったり、ありとあらゆる誘惑が忍び寄る危うさとの闘いなど、時代を背景にした色んな選択肢があり、色んな人生がある。踏み間違えさえしなければ、今の方が面白い世の中と言えるのだと思う。一人一人に幸多かれと、入場も退場も手が痛くなるほど祝福の拍手を送った。