庭のちっちゃな梅の木が、優しいピンク色の花を次から次へとほころばせている。
まるで「見て、見て、もっとよ~く見てよね~」とおねだりするように微笑みかける。
そんな見事な梅の花を愛でることもなく、一人の男性が黄泉路の向こうへ旅立った。凶年78歳であった。
中学時代の同窓会の幹事を、長い間一緒にやってきた仲間のご主人が「進行性のがんに侵されていた」ということだった。
残された彼女は、子宝に恵まれないまま今に至っており、夫婦ともに身内も多くない。さてこの先どうなるんじゃろうか。
彼女が元気でいるならそこまでの心配もしない。
若いころの彼女はとても愛想がよくて、可愛げのある女の子という表現がピッタリ。幹事仲間はもちろん、同窓生からも男女の区別なく愛されていた。同窓会へのお誘いも上手で、幹事代表としては有り難い存在であった。
そんな彼女を複合的な病が襲った。同級生では一番早く認知症にも似た不具合が生じ始めた。デイサービスやホームヘルパーにお世話になる日々の中で、ご主人に先立たれた彼女の哀しみは如何ばかりか。そんな彼女を残して先に逝ってしまうご主人も、さぞかし心残りであったろう。人間の運命なんて筋書きがないだけでなく、哀れを誘う部分が多いような気がしてならない。
幹事仲間4人を誘って弔問に訪れた。本来なら外に連れ出して「慰めの昼食会」でも開きたいが、今の彼女は一人で外に出ることもままならない。
女性幹事さんに買い出しをお願いして、お弁当・デザート・スイーツなど持参で、彼女が使っているコタツを囲んで弔問昼食会。
涙が止まらなかった彼女も、我々5人の仲間に思いをぶつけて、ささやかでも共に食事をしたことで、少しは気持ちを落ち着かせてくれた。
「頭の中真っ白で何にも出来ん中を、楽しいひと時を有り難う、ありがとう」と電話をもらった。
どういうわけか、カミさんと馬が合う彼女は「〇〇子さんと話がしたい、連れて来てね」と、唯一のリクエストをくれた。
それには応じよう。そして、特殊詐欺などの被害に遭わないよう「声を大にして」叫ぶのがおいらの役目か。