大劇場の千秋楽のごあいさつの時、花總は
「和央さんがいたからこそここまでやってこれた」と言ったそうです。
この挨拶に関しては、ファンの間からは大きなブーイングが起こりました。
普通なら嘘でも「ファンの皆様あっての私」というべきだし、
花總は和央ようかの前に4人(実質的には3人)と組んでいたわけです。
それらの人達に一言もないというのが、あまりに「大人気ない態度」と
非難されました
こういう「空気の読めない天然ボケ」なのが花總まりの個性であり、
今回の、あまりに地味な退団劇を引き起こした要因とでもいいましょうか。
高嶺ふぶき退団後、花總まりは1作だけ雪組トップの轟悠と組み、すぐに
宙組に移動して(当時は香港メンバー)、月組からやってきた姿月あさとの
相手役になりました。
姿月と花總は、非常に見た目がよい美男美女カップルで、宙組の将来を
象徴するかのようなゴージャスカップルでした。
しかし・・・・いざ組んでみると、それまでほとんど面識がなく、
お互いの事をよく理解していない者同士ではうまくいく筈がなかったのです。
すでに1999年に再演された「エリザベート」では、姿月と花總の
「視線を合わせない態度」が話題になっていました
私も東京で見てビデオも買いましたけど、ふたりのあまりにかみ合わない
演技に頭を抱えたものです。
(それでも観客動員数は雪・星以上でしたが)
もし、花總がここで「姿月とは見切りをつけよう」と思って退団していたら
「永遠のエリザベート役者」として宝塚90年の歴史に名前を残していた
かもしれません
初演時に比べ感情過多で演技が少しズレ気味ではありましたけど、
二度も同じヒロインを演じるなどというのは「ベルばら」のアントワネット
初風諄以来の事で、非常に稀なケースだったわけですから。
でも、花總は辞めませんでした。辞めたのは姿月あさとの方です。
姿月の最後の作品「砂漠の黒薔薇」における二人は、もうすでに全く
お互いを見ていないような演じっぷりです。
(表面的な演技しかしていないってことですね)
そしていよいよ、花總の「初恋の相手」和央ようかがトップについたのです。
2000年の事でした
花總は多分、この時を待って待って待ち続けて来たのでしょう。
以後6年に渡って、和央ようかの相手役は花總まり以外にはありませんでした。
バウでもシアタードラマシティもコンサートでも、決して花總以外の人とは
組むことがなかったのです。
花總は「望郷は海をこえて」で、まさに「女帝」そのものの
エカテリーナを演じ、次の作品「ベルサイユのばら」では
マリー・アントワネットを演じました。
さらに次の作品「鳳凰伝」ではトゥーランドットを演じ、名実ともに
「姫役者」として君臨したわけです。
(あとは西太后か楊貴妃しかないね・・などと悪口を言われたものですが)
特にトゥーランドットは、花總の持つ「孤独で自閉的な性格」にぴったりの
役で、これ以上はないだろうと思う程の名演だったと言えます
しかしながら、常に「愛」や「恋」に無縁な女性を演じる時ばかり実力が
発揮されるという事が、ある意味、宝塚の娘役としては致命的な欠点に
なっていたのではないかと思います。
娘役に必要な「やわらかさ」「ふくよかさ」「ひたむきさ」がなく、
「孤独」「自閉」「プライド」「貫禄」ばかりでは、男役トップは本来の
包容力を発揮することが出来ません。
ゆえに、この時期、和央ようかは「花總まりの婿養子」とまで言われてしまった
のです。
実際、その後の「傭兵ピエール」でも「白昼の稲妻」でも常に花總の方が
目だっていたのは事実です。
花總としては、「大好きなタカコさん」の相手役でいられるのがとても
嬉しかったのだと思います。
二人で組む事がとても幸せだったのだと思います。
それだけに、頑張りすぎてしまったというか・・・、自分が一生懸命にやる
事が、即相手役の為になると思い込んでしまったんですね。
「相手役を立てる」とか「引き立たせる」とかいう考えは彼女の中には
なかった・・・・・
結局、そのことが和央の成長を妨げていたのではないかとも思います。
最後の作品「NEVER SAY GOODBYE」以前の作品で
フィナーレの花總は決して笑っていません。
常に和央の動静を注視している・・といった感じです。
そういう、ちょっとズレた責任感も、花總を「色気のない娘役」に
してしまったような気がします。
相手役を愛するがゆえに、そして自分の生きる道は「宝塚」以外には
見つけられなかった事が、12年もの長きに渡ってトップ生活を
送らせました。
「鳳凰伝」では誰もが「辞め時」と思い、「ファントム」では「こんなに退団に
ふさわしい作品はないだろう」と言われました。
このどちらかで辞めていたら、花總まりのさよなら劇はとても大きく
華やかなものになり、
ファンと劇団に惜しまれつつ去る事が出来たかもしれません。
周りの空気に無頓着だった事が、最終的に今の事態になったわけです。
とはいえ、長いトップ生活。そしてそれ以前の宝塚生活において
一度も病欠や怪我がなく、体調を崩す事がなかった事だけは
大したプロ根性だといわざるを得ません。
どんなジェンヌでも、ちょっとした体調不良などはあり、そういうものが
ファンにも見えてしまうものですが、花總の場合は一度足りとも舞台上で
「素」を見せる事なく、安定した演技を続けて来た事は勲章ものだと思います。
これだけ長い間、宝塚生活を送りトップとして君臨していたわけですから
これからの生活においてのギャップが心配されます。
出来るだけゆったりと過ごし、前を見て新しい道を模索して欲しいと
思います。
今度、花總を見ることがあった時には
「随分とやわらかくなったね」と言えるような女性になっていて欲しいです。