私、ディケンズは「二都物語」しか読んでいなくて。無知で申し訳ございません。
だからどんな話で結末がどうでがわからず、「逆転裁判」しか作った事のない鈴木圭がどういう演出をするのか、ほんと未知数だったんですけど。
結論としては「宝塚ってこうよね!こうじゃなきゃ!」という作品であり、暁千星にとってはやっと主演としてまともな作品が巡って来て、本当によかったなと思った次第です。
ついこの間までおひげのインド人だった人が、いきなりイギリス紳士が様になる。そして次回は首相秘書?箱がいくつあるんだ?って感じですよね。
原作を知らない私からの見どころとしては、ピップ(暁千星」がステップアップするごとに服装が変わっていく事です。
最初はこんな鍛冶屋のお兄ちゃんでした。
小さい頃に姉にガミガミ言われ、庇ってくれる義理の兄とは親友。賢くて可愛い少年。
それがミス・ハビシャムに呼ばれて、そこの一人娘、エステラの遊び相手になった。
ピップはエステラに一目ぼれ。
彼女の為に「ロンドンに出て紳士になりたい」と思っていた。
そんな時、脱獄囚に会い、食料を分け与えた。その事は後々「紳士か否か」という点になっていくのですが。
突如弁護士が現れて、遺産を受け取りロンドンへ行って紳士クラブに入る。
夢の中に出て来るもう一人の自分。「闇」が天飛華音だけど、それとそっくりな人物が紳士クラブに現れ、最初から敵対していく。
ピップはハビシャムの親戚であるハーバートに出会い、一緒に住む事になる。
このハーバートが絵に書いたような堅実青年で、金持ちなのに親に頼らず恋人と結婚する為に日々節約。事務員として働いてもいる。
そういう堅実さの裏には「贅沢」「欲」は闇ですよね。
ロンドンでエステラに再開するけど、感情的に振り回されてその欲求不満が酒とギャンブルに陥る。
エステラにも暗い過去があり、元々ミス・ハビシャムの「事件」が若者たちの人生を翻弄していく。でも、転落一歩手前で救われたピップはエステラの元に。
今回、思ったのは暁千星が本当イン瑠璃花夏を気に入ったんだなと。
星組に来て、何度か詩ちづるとのラブシーンを見て来たけど、こんなに優しくて積極的で尚且つ心からの「愛しい」目を見た事がないです。
しかもこの二人、背丈の差が黄金律と来てます。
瑠璃花夏がすぽっと暁の腕の中に入る度に「羨ましい」と思う・・・いやはや。ふぶきさんの乙女心を呼び覚ますなんていけないスターさんよね。
腕ぐいっからのキスシーンの色気ったらすごかったなあ。今まで見たことないですよ。
瑠璃花夏は、子役専科みたいになってて、そういうイメージしかないから、今回美しいドレスを着てすっと立ったらまあ、なんと美しい事で。「みんな私に夢中よ」と言われても全然違和感なし。赤い衣装が本当によく似合ってました。
今回はアンサンブルのダンスもひときわ上手でしたし、誰一人無駄な人がいないという感じで、星組の結束力を見ました。
でもやっぱりフィナーレ3分に及ぶ暁千星のダンスは本当に素晴らしかったです。
花吹雪が舞い散る中のダンス。オペラグラスが外せない状況でした。
作品的にきっと突っ込みどころは沢山あるんだろうと。何度も見れば
「え?何で?」ってシーンはいくつもあります。
が、王道のラブロマンスには誰もが納得したのではないでしょうか。
出演者について
暁千星・・・考えてみるとピップが個性を発揮するのは2幕最後なんですね。それまでは割と情けないというか、いい所なんか見つからない青年なんですけど、本来の自分に目覚めてからのピップは恐ろしく魅力的です。野心的・・・にはあまり見えないのは脚本のせいかも。すぐにかっと来たり、ギャンブルに酒のシーンで放蕩ぶりを発揮していますが、そこまで堕落したようにも見えず。
ただ、自分が利用されていた事を知ってからのピップは囚人を助けようと頑張り、親友の事業に全財産つぎ込み、あと一歩で脱税で監獄行きの所を義理の兄に救われ。ここからはもう本物の「紳士」となったピップの成長ぶりが嬉しい。「1789」のデムーランは何だったんだ?と思う程にラブシーンの色気が半端なくて、相性のいい娘役と組むとこうも変わるのかと驚きました。
歌唱力は元々あるのですが、「VIORETOPIA」のシャンパンの女王のように、裏声も美しく、音域も広いので主題歌がよく似合うなと思いました。
瑠璃花夏・・・エステラ。ミス・ハビシャムに育てられ、感情のない女性として「愛」を知らず成長したこの女性が、最後にピップによって「愛とは何か」を知り始める。硬くて殻に閉じこもっている女性から、最後、キス一つで笑顔が可愛い娘役になる。これぞ相手役からしたら、可愛くって仕方ないよねという感じです。
この作品を通して一歩、階段を昇れたらいいなと。
天飛華音・・・まず「闇」と言う役は死の神トートのような・・・「カラマーゾフ」で五峰亜季が演じたような役だなと思いました。とはいえ学年的によくやったな程度ではあったんですけど、恐らく彼女のいい部分がかなり出てきたかなと思いました。ドラムルも「闇」と性格は変わらないし、ただ現実にいるかどうかの差しかない。それをわざと明確にしなかった事で、ずっとピップの「敵」としてそこに存在する。
そういう意味では意義深く、そしてやりがいがあったのではないでしょうか。
元々天飛華音は「陰」の気を持つジェンヌですので、ぴったりでしたよね。
稀惺かずと・・・ハーバート。育ちのよさではぴか一で、素の稀惺かずとがそこにいるんじゃないか?と思った程です。持って生まれた品格と素直さは誰にも真似できない本来の姿。そういう意味ではピップの真逆の存在としてよかったんじゃないかと思います。
しかしながら、稀惺かずとがこれ以外の役が出来るかと言われたらまだ未知数で、「主役の親友」が一番似合うようでは存在感を出す事が出来ません。どうしたら殻を破れるのか研究してみるべきですね。
藍羽ひより・・・ピップの少年時代。これがまた結構な出番でよく声が通り、明るく素直でよい子でした。アンサンブルに囲まれても、大人たちに囲まれても決して負けない「華」があるなと感じました。
乙華菜乃・・・エステラの子供時代。大人になったエステラとそう変わらない役作りがいいなと思いましたし、可愛いし、ツンツンしている所が魅力的。今後楽しみな娘役ですね。
輝咲玲央・・・マグウィッチ。最初、誰だかわからないくらいの汚れようで、でも濡れ衣を着せられた事がわかってからは、本当はいい人で、まっすぐにピップの「施し」をありがたいと思い、これこそが「紳士」であると教え諭す。上級生らしい役でした。
ラスト、亡命に失敗し捕まったら即処刑・・の筈がなぜか生き延びてベッドの上でピップに看取られて死ぬっていうのが「?」でしたけど、いいシーンだったから許そう。
朝水りょう・・・とにかくカッコよく素敵な朝水りょうをこんなに長く見る事が出来て嬉しい。
(だっていつも2役とか3役とかだもんね)弁護士のジャガーズさんは、財産管理人であると同時にマグウィッチの味方でもあるんですけど、なぜこんなに彼に尽くすのかちょっと理解出来ない部分もありました。でも彼のお蔭で寸でのところでピップは助かるのでこれもまあ、許します。
夕渚りょう。アンサンブルでのすごいダンスと共に、悪役でマグウィッチの敵役のコンペイソンを演じていました。この人ってミス・ハヴィシャムをだました人?の割に存在感がなく、これはやっぱり脚本が~~って所なのかな。
七星美妃・・・ミス・ハヴィシャム。最初に出てきた時から雰囲気が違う。綺麗な声、でも独特な話し方が怖い。何かあるぞ・・と思っていたらなんと悲劇の主人公。同情したけど、だからって復讐に関係ない子供を巻き込んではいけないんじゃないか?
彼女のせいでエステラは「愛」を知らない無感情な娘になった。その事を責められると逃げる。おい、逃げるな~~去るな~~責任取れ~~って無理よね。でも七星美妃の演技力は大したもので、今後重要な役も出来そうですね。
美稀千種・・・最初から最後までぶれない「いい人」を演じきって、最後は若い嫁貰って幸せだなと思います。彼が全財産をなげうってピップを牢獄に入れなかった事、本当に善の中の善です。みながこうあれば世界は平和なのに。
もうちょっと描いて欲しかったのが、綾音美蘭のビディと紫りらのモリー。
1幕目では明らかにピップを好きだったビディ。面倒見のよい彼女が二幕の最後にいきなりジョーの奥さんになる。そこには色々あったんでしょう。なんせジョーの前の奥さん、澪乃桜季演じるジョージアナはきつい性格でしたから。
でもジョーも最後に言ってたけど「元々はピップが好きだったんだろ?」ねえ?叶わないから義理の兄ですましたように・・・見えなくもないです。
それとエステラの実の母、モリー。こんな重要な人物がほとんどセリフがなく、後半一気にストーリーを話して、あとは見守るだけ?
夫との最後の別れも、娘との再会もなし?これはあんまりだなと。鈴木圭君。これは非常にまずい点でしたね。
以前にも書きましたが、アメリカでは今もディケンズの作品が人々の心の中に入り込んでいます。ドラマなどでセリフの中に「ディケンズか?」というのがあるんですよね。
この場合のディケンズは「二都物語」ではなく「大いなる遺産」だと思うんですけど。
税金滞納で牢屋に入るというのも、この時代のイギリスの象徴的なもので、私ですら「税金滞納・・牢屋」って思っちゃうくらいですので。
これを機会に「大いなる遺産」を読んでみようかな。非常に教訓的でいいのでは?
「RRR」でより強くなった推し活が、また強くなりそうで怖い。
いやっ!もうね、散財する年齢ではない。ひっそりと行く末をお祈りするだけ・・・で・・・
いい・・・筈・・・なのよ。と、自分に言い聞かせています。
最後に来て大笑いさせていただきました。何度でもよいのでは?体力、気力、財力の続く限り頑張りましょう。
取り敢えず私はDVDで我慢します。
ディケンズ自身が労苦の絶えない子ども時代を送ったので、労働者階級に同情を寄せることも多く「クリスマス・キャロル」も「大いなる遺産」も貧困差・階級社会などの社会風刺を取り上げてますよね。
ふぶき様、推しに散財もたまにはよろしいかと思います。
重い話になりますが、政治経済はガッタガタ、前代未聞の自然災害は立て続けに起きて、少子高齢化は進むなど日本は暗い空気が漂い続けています。
それでも人は生きていかなければいけません。しかしながら辛い現実と向き合い続けるのはやはり苦しいし疲れます。ですから、その疲れや苦しさを癒してくれるものを絶対無くしてはいけないと思います。
ふぶき様には心身共に健やかであって頂きたくてつい語ってしまいました💦